福岡県田川市の事例

田川市長選・大任町議選で問われる「田川郡東部環境衛生施設組合」による脅迫行為の背景

首長や地方議員の選挙で問われるのは、公約や実績、人柄、政治信条、地域との結びつきなど。現職であれば、在職中の発言や行いが採点対象となるのは言うまでもない。そうした意味で、今月23日に投開票を迎える福岡県田川市の市長選挙や、その隣に位置する大任町の町議選挙では、暴力支配を続けてきた一部の権力者に牛耳られる地域の現状を、容認するか否かが厳しく問われなければならない。

■政治家の勉強会巡り脅迫文書

 昨年7月、田川郡内にある8市町村で構成する「田川郡東部環境衛生施設組合」(組合長:永原譲二大任町長。田川市、大任町、川崎町、添田町、赤村、糸田町、福智町、香春町で構成)の市町村長らが連名で、同年4月に田川市内で開かれた地方自治に関する勉強会の内容に言いがかりをつけ、主催した3人の田川市議に対し謝罪と質問への回答を強要する文書を発出した。

下が、3人の市議に届いた2種類の文書(*赤いアンダーラインはハンター編集部。画像クリックで拡大)で、「田川地域広域行政勉強会の趣旨及びその内容について」は、六つの問題点を列挙した上で「謝罪」を求めるもの、表題なしの方は「その内容について」にある質問事項への「回答」を求める内容となっている。

質問状なのか抗議文なのか分からない支離滅裂な文書だが、最大の問題は、謝罪や回答を強要した後に記された次の文言である。

「さもなくば、この事業が遂行できなくなる恐れがあります」

「期日までに回答がない場合は、事業が遂行できなくなる恐れがあります」

他人にある行為を行わせることを目的に脅しつけることを「脅迫」というが、田川郡東部環境衛生施設組合が3人の市議に発出した文書の内容は、“「さもなくば=謝罪しなければ」⇒「ごみ処理事業を止める」”という明らかな強要・脅迫行為。訴えられてもおかしくない非常識なものだった。

組合側が敵視した「勉強会」は、田川市の市議などが中心となって近隣自治体の議員などにも呼びかけ開催したもの。市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事を講師に、約90人が参加して情報公開の重要性についての議論が行われた。当日は、この勉強会に因縁をつけている永原譲二大任町長の息子の建設業者や、永原町長が会長を務める郡町村会の職員が参加していたことが分かっている。

文書に出てくる田川クリーンセンター(汚泥再生処理センター)、ごみ焼却施設、最終処分場は、いずれも大任町内に整備される施設。一昨年から報じてきたとおり、工事発注者である大任町が、一連の工事の積算書、施工体系図、参考見積り、入札結果表といった他の自治体では当たり前に開示される文書を非開示にして、事業の検証を阻んできたという経緯がある。悪いのは、ごみ処理施設建設に関する文書を隠蔽している大任町であって、事業の不透明さを指摘した側には何の落ち度もない。そもそも、同町以外の組合構成自治体にしても、ごみ処理施設整備の不透明さを指摘されたことについて、反論できる立場にはない。

ハンターは昨年7月、大任町を除く田川市、川崎町、添田町、赤村、糸田町、福智町、香春町の1市7町に「田川郡東部環境衛生施設組合が整備する汚泥再生処理センター、ごみ焼却場、リサイクルセンター、最終処分場などの建設工事の積算書、参考見積り、施工体系図、契約書、入札結果表」の情報公開請求を行ったが、回答は「当該文書を保有していない」「不存在」「取得していない」(*下の画像参照)。大任町以外の7市町村は、すでに完工、あるいは着工した施設整備工事について、妥当か否かの判断ができないという実態にあることが分かっている。7市町村は、数十~数百億円の公費が投じられる施設建設工事の契約書さえ保有していなかった。

脅迫文書には、「田川クリーンセンターやごみ焼却施設、最終処分場については、構成市町村議会の厳格な審議を経て、地方自治法に基づく議決をいただき、大任町へ事務委託され、実施されている議会等で機会あるごとに財政状況や進捗状況を説明している」、「当該事業を推進するにあたって、構成市町村の厳格な討論の後、議会議決を経たにも関わらず、事業費用及び事業推進について、当議会行政報告において機会あるごとに報告している」と述べられているが、契約書すらない状態で、まともな検証や報告ができるわけがない。つまり大任町以外の組合構成自治体は、建設工事の詳細を把握せぬまま当該事業の妥当性を主張したということだ。

 田川郡東部環境衛生施設組合の事業として大任町が単独発注して契約が終了したのは、完成した「汚泥再生処理センター整備工事」(契約金額89億8,560万円)や着工済みの「大任町ごみ処理施設整備工事」(契約金額220億円)など。巨額の公費が投じられる事業でありながら、同町が情報公開を拒んでいるため、噂されてきた工事費の水増しや裏金の動きについて検証できない状態が続いている。

環境衛生施設組合を率いる永原譲二大任町長が隠蔽に走ったのは、ごみ処理施設整備事業の実態を知られることを恐れたからに他ならない。田川市議らの勉強会が、そうした大任町の隠蔽姿勢を咎める格好になったのは確か。正当な批判を行った市議らに対する敵意むき出しの脅迫は、悪行隠しの一環に過ぎない。

■異例の百条委員会設置で次なる脅迫

ゴミ処理施設整備事業が不透明なかたちで進められてきたのは事実で、公益を考える上でも、批判は当然だ。それをネタにした理不尽な脅迫に屈する政治家がいるはずもなく、謝罪を求められた3人の田川市議は、要求を拒否した。

すると環衛組合側は、新たに前出の脅迫文書に対する田川市議らの『主張の真意を調査する』として百条委員会を設置。関係のない別の一人を加えた4人の田川市議に対し、証人喚問に応じるよう求めるという愚行に走った。

地方自治法が規定する百条委員会の調査対象となるのは、普通地方公共団体の事務に関する事項のみ。政治家個人の主張の真意が百条委の調査対象になるわけがないのだが、暴走する組合は「正当な理由なく出頭しなければ刑事告発する」と文書で脅しをかけた。2度目の「脅迫」も無理筋の話でしかない。

■大任町長、田川市長の責任の重さ

一連の暴走行為を主導したのは、田川郡東部環境衛生施設組合の組合長を務める永原大任町長だとみるのが自然だ。本人は否定するかもしれないが、組合長として真っ先に脅迫文書に署名・捺印をした以上、責任逃れは許されまい。

次に重い責任を負っているのは、田川郡内の中心自治体として周辺地域をリードする立場にある田川市の二場公人市長だ。二場氏は、永原町長の夫人の弟。つまり永原氏の義弟にあたる。脅迫文書には、二番目に署名・捺印していた(*下の画像参照)。

二場氏の亡父である(永原町長の妻の父でもある)二場武氏は、筑豊のヤクザ組織「二場組」の初代組長で後に田川市議会議員になった人物。現在の指定暴力団「太州会」の代紋は、太田州春初代会長の「州」と、二場家の「二」などが図案化されたものだという。二場市長は、1996年に永原氏が設立した建設資材の企業組合「九州環境企業組合」に出資し(100株とみられている)、そこで専務理事として働いていた他、永原氏の娘婿が代表の有限会社「譲」の取締役であったことも分かっている。

二場市長の兄である永原町長は、太州会三代目の故・大馬雷太郎組長の企業舎弟から現在の地位にまでのし上がった人物だ。「暴力支配」の力の源泉は、太州会との密接な関係にあった。その証拠が下の写真。撮られたのは、2000年(平成12年)の秋頃で場所は田川郡内のゴルフ場である。「汚れた権力者」の姿が、そこにある。

都合の悪い相手を力で押さえ付け、ほしいままに権力を振るってきた永原氏の大任町政と、その影響を強く受けているとみられている田川の二場市政――。いま行われている市長選や町議選を戦っている候補者たちが、脅迫文書の問題に代表される歪んだ現状にどう向き合っているのか、しっかりと見極める必要がある。

ちなみに、直近で行われた世論調査の結果では、「永原町政を支持する」と答えた大任町民は僅か32%。永原町政と関係の深い田川市政について、「変える必要はない」と回答した人がたったの11%だったのに対し、「変えるべき」は約54%だった。

(中願寺純則)

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