令和7年予備論文民事

〔令和7年予備論文民事〕
【設問1】
弁護士Pは、Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
1 私は、母であるAと父であるBとの一人息子です。Aは令和6年3月25日に亡くなり、Bは平成25年10月1日に亡くなりました。私は、Aの相続人です。私は、大学に進学してから実家を出ています。Aが亡くなった後、A宅のある土地(以下「甲土地」という。)とその東側に隣接する土地(以下「本件土地」という。)を相続し、一人暮らしをしています。
Aが所有していた本件土地の東側には、Y宅のある土地(以下「乙土地」という。)があります。
本件土地は、甲土地と乙土地の間に挟まれており、位置関係としては、本件土地の西側が甲土地、本件土地の東側が乙土地があります。
本件土地は、東西に約5m、南北に約50mの細長い土地で、甲土地や乙土地の通路として使用することができます。
Yは、Y宅でYの妻と居住していましたが、令和5年7月25日からはYの息子であるCともY宅で同居しています。
Aとは、本件土地の管理等で口を利いていました。
2 私は、令和6年4月になって、Yから、本件土地を代物弁済によってAから譲渡されたと聞き、本件土地の登記を確認したところ、別紙登記記録(省略)記載の代物弁済を原因とするYへの所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がなされており、本件土地が本件土地の西側(甲土地との境界上)に柵(以下「本件柵」という。)を設置し、本件土地を乙土地の通路として占有使用していることを知りました。
3 私は、Yに抗議しましたが、Yは、Aとの間で、令和5年1月26日にYのAに対する貸金20万円の弁済に代えてYが本件土地を取得する合意をし(以下「本件代物弁済契約」という。)、別紙の代物弁済契約書(以下「本件契約書」という。)を作成したとしてこれに応じません。
また、Yは、将来の相続を考慮し、令和7年中には、Cに対し、乙土地と本件土地を生前贈与すると述べています。
そこで、私は、Yに対し、本件登記の抹消と本件土地の明渡しを求めたいと思います。
弁護士Pは、令和7年4月5日、「【Xの相談内容】」を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対し、Xの希望する本件登記の抹消と本件土地の返還を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとした。
以上に前提に、以下の各問いに答えなさい。
(1) 弁護士Pが、本件訴訟において、Yの主張を実現するために選択すると考えられる訴訟物及びその個数を記載しなさい。
なお、訴訟物が複数ある場合は、併合態様についても記載しなさい。
(2) 弁護士Pが、本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)
において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第134条第2項第2号)を記載しなさい。
なお、付随的申立てについては考慮する必要がない。
(3) 弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項、同項ただし書。)を記載しなさい。
なお、訴訟物が複数ある場合は、【見出しの例】のとおり、訴訟物ごとに分けて記載し、対応する訴訟物を明記すること。
また、いわゆるよって書き(判決書の主文の根拠となるもので、訴訟物を明示するとともに、請求の趣旨を請求原因の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。
【見出しの例】:「請求原因1(消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)」 「請求原因2(準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)」など
(4) 弁護士Pは、本件訴訟に先立って、XのYに対する請求権の実現を保全するために民事保全命令の申立てを行うこととした。
弁護士Pが申立てを検討すべき民事保全命令を全て挙げ、その保全の必要性を要件と事実について記載した上で、本件で保全の必要性が認められることについてどのような主張をするべきかを簡潔に記載しなさい。
【設問2】
弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
1 私の息子であるCがY宅に戻ってくるとになりました。私は、乙土地の西側にある、Aの所有する土地である本件土地を通路として使用するため、取得しようと考え、令和4年11月、Aに相談しました。
2 Aは、本件土地を日常的に通路として使用しているが、値段にはこだわらないと述べました。私は、Cが、令和2年5月1日、Aに対し、生活費として20万円を貸し付けていたこと(以下「本件貸金債権」という。)を思い出し、Cから本件貸金債権を譲り受け、その弁済に代えて本件土地をAから譲り受けることにしました。そこで、私は、令和5年1月25日、Cから本件貸金債権を無償で譲り受けました。また、Cは、同日、Aに電話し、Cが私に本件貸金債権を譲渡したことを通知しました。
3 その上で、私は、令和5年1月26日、Aとの間で、本件貸金債権の弁済に関し本件代物弁済契約を締結しました。私は、本件土地の所有権移転登記をすまし、本件土地の西側に本件柵を設置して乙土地の通路として使用し始め、現在、本件土地を占有しています。
4 Cは、令和5年7月25日にY宅に戻って、私と私の妻と同居しています。
5 令和5年2月13日に本件土地について代物弁済を原因とする所有権移転登記手続を終えており、本件土地の所有者は私です。
本件登記は、本件代物弁済契約に基づくものであり、私には本件登記を保持する権原があります。
弁護士Qは、「【Yの相談内容】」を前提に、Yの訴訟代理人として、本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。
その際、弁護士Qは、「【Yの相談内容】」を踏まえて、抗弁を主張することとした。
「【Yの相談内容】」について、抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載しなさい。
なお、【見出しの例】のとおり、主張内容を簡潔に示した見出し(他の主張との違いが分かるような具体的なもの)を付け、請求原因が複数ある場合は攻撃防御の対象となる主請求を明記すること。
また、【見出しの例】のとおり、抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)が表現できるよう、まとめて記載してよい。
【見出しの例】:「抗弁1:免除(請求原因1・2に対し)」 「抗弁2:消滅時効(請求原因1に対し)」など
【設問3】
本件答弁書を受け取った弁護士Pは、Xに事実関係を確認した。
Xから聴取した内容は以下のとおりである。
【Xの聴取内容】
1 AがYから20万円の本件貸金債権の弁済に代えて50万円の本件土地を譲渡するはずがありません。
2 AがCから令和2年5月1日に20万円を借りたことは間違いありません。
私は、令和3年4月にそのことをCから聞いた際、同年1月15日に、私が所有していたパソコンとCを介して代金20万円で売却して引き渡したもの、代金Cから受領していないことを思い出しまた。
そこで、私は、Aには伝えないまま、Cに対し、令和3年4月11日に本件貸金債権のうちCのAに対する20万円の本件貸金債権と相殺する旨を電子メールで伝えました。
このため、本件代物弁済契約締結当時、上記の通り相殺したことで本件貸金債権は存在していなかったことになります。
3 その後、Cは、令和4年3月になって、私に対し、パソコンは無償で譲り受けたものなのだから、上記の相殺は納得ができないと言い始めました。
私は、言いがかりだと思いましたが、従兄弟であるCと事を荒立てたくはありませんでした。
そこで、私は、Aには内密にAに代わって、令和4年3月7日にCに対して20万円を弁済しました(以下「本件弁済」という。)。
弁護士Cは、Aの意思にもCの意思にも反しなかったはずです。
私が有効な弁済をしたことは、Yも知っていたはずです。
そうすると、本件弁済によって本件貸金債権は消滅していたことから、本件代物弁済契約は無効となるはずです。
また、Yは、実際には本件代物弁済によって本件貸金債権は存在しないにもかかわらず、それがCがあるかのように装って、Aを騙して本件代物弁済契約を締結させたにもかかわらず、詐欺に基づく取り消し、仮に本件代物弁済契約が締結されていたとしても、本件代物弁済契約を取り消したいと思いました。
そこで、私は、令和6年4月10日、Yに電話し、本件弁済によって本件貸金債権は消滅していたにもかかわらず、Aを欺罔して本件代物弁済契約を締結させたことは詐欺に当たることから、本件代物弁済契約を取り消す旨を伝えました。
4 さらに、仮に本件代物弁済契約が有効であるとしても、Aは、Cが実家に戻ってYと同居することから本件土地を手放したいと思います。
そこで、AとYは、Cが令和5年中にYとY宅で同居を開始することを、本件土地を譲渡する条件とする合意をしていたと思います。
弁護士Pは、「【Xの聴取内容】」を前提に、Xの訴訟代理人として、本件訴訟の準備書面(以下「本件準備書面」という。)を作成した。
(1) 「【Xの聴取内容】」2項の下線部について、再抗弁として主張するか否かの結論を記載しなさい。
その上で、再抗弁として主張する場合には、再抗弁として記載すべき具体的要件(要件事実) を記載し、主張しない場合はその理由を記載しなさい。
(2) 「【Xの聴取内容】」3項について、再抗弁として記載すべき具体的要件(要件事実) を記載しなさい。
なお、後記(3)アのとおり、裁判官は、争点整理の結果、本件の具体的要件(要件事実)は審理する必要がないと判断したが、本問の回答に当たっては、この点は考慮する必要はない。
(3) 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件訴状、本件答弁書及び本件準備書面が陳述された。
ア 裁判官は、設問1【Xの相談内容】を含む本件訴状におけるXの主張を検討し、(2)の事実は審理する必要がないと判断したが、本件訴状における事実を民事訴訟規則第53条第1項とするか、攻撃防御方法としての位置付けを踏まえながら、その理由を記載しなさい。
【設問4】
第1回口頭弁論期日において、弁護士Qは、本件代物弁済契約の締結を裏付ける証拠として、本件契約書(なお、押印部分以外は全てパソコンで作成されている。)を、「A」作成部分の作成名義人として提出し、書証(乙第1号証)として取り調べられた。これに対し、弁護士Pは、同期日において、本件契約書のうちA作成部分の成立を否認し、A名下の印影がAの印章によることは認めた。
第2回口頭弁論期日において、XとYの各本人尋問が実施され、Xは「【Xの供述内容】」のとおり、Yは「【Yの供述内容】」のとおり、それぞれ供述した(それ以外の者の尋問は実施されていない。)。
なお、「【Xの供述内容】」及び「【Yの供述内容】」のうち下線部については該当する以下の書証が提出されて取り調べられており、その成立に争いがない。
乙第6号証:本件土地の時価が50万円である旨が記載された不動産鑑定士作成の不動産鑑定書(甲第1号証)
令和5年2月10日にAとYが立ち会い、AとYが甲土地と本件土地との境界を確認したことが記載された同日付けの土地家屋調査士作成の境界確認書(乙第2号証)
令和5年1月26日付けで発行されたAの印鑑登録証明書(乙第3号証)
令和5年1月20日付けで作成されたAと工事業者である株式会社Dとの間の請負工事契約書(以下「別件請負契約書」という。)
(乙第4号証)
【Xの供述内容】
1 Aは、本件土地を北側にある県道への通路として、日常的に使用していました。私がAを相続したことから、甲土地と本件土地を第三者に売却しようと、不動産鑑定士に鑑定を依頼したところ、本件土地の時価は50万円でした。
Aがわずか20万円の本体賃借権の弁済に代えて本件土地を譲渡するはずがありません。
2 本件土地の草むしりなどの管理は、Yが責任をもって行っていたと聞います。
3 Yは、Aが自宅を修繕するために工事業者を呼んで契約を締結する際、Aから実印を預かって、Aの代わりに、別件請負契約書に押印しました。
Yは、このときAから預かった実印を、Aの許可なく使用して、本件契約書に押印したのだと思います。
4 なお、Aは、令和5年1月当時、手が不自由で署名はできませんでした。
【Yの供述内容】
1 私とAは、姉弟であり、隣に住んでいました。
2 本件土地は、乙地の西側に存在する、東西に約5m、南北に約50mの細長い土地で、雑草が生えている空き地です。
本件土地は、夏場はすぐに雑草が生え虫が湧いてくるため、近所から苦情が寄せられないよう、夏場は月に1回は除草などをしなければなりませんが、A一人ではできないため、私や私の妻が手伝っていました。
Aは、本件土地の管理に困っていたため、私が本件土地を20万円の対価を仮に取得することに賛成していました。
3 私は、本件契約書のうち押印部分を除いてパソコンで作成し、令和5年1月26日の朝、A宅を訪問してAに書類の内容を説明し、押印した本件契約書を、Aの印鑑登録証明書ともに私の自宅に届けるよう伝えました。
4 私は、同日の夕方、私の自宅の郵便受けを確認すると、A名下にAの印影がある本件契約書と同日付けで発行されたAの印鑑登録証明書が入っていました。
本件契約書Aの印影は、Aの印鑑登録証明書の印影と一致しています。
なお、本件契約書にはAの署名がなく、記名がされていますが、これは、当時Aが手が不自由であり署名ができなかったためです。
5 本件柵は、令和5年2月5日、本件土地の西側(甲土地との境界上)に本件柵を設置し、本件土地を通路として日常的に使用し始めました。
本件柵を設置するに先立って、令和5年2月10日、土地家屋調査士に依頼し、甲土地と本件土地との境界を確認することにし、私とAが立ち会って、甲土地と本件土地の境界を確認しました。
6 私は、Aが自宅を修繕するために工事業者と請負契約を令和5年1月20日に締結する際、Aに頼まれて、同日、Aの実印を預かり、別件請負契約書に押印したことはありますが、すぐにAへ返却しており、Aの実印を勝手に使用したことなどありません。
また、別件請負契約書のA名下のAの印影と、本件契約書のA名下のAの印影とは一致していません。
Aは、私に対し、令和5年1月22日に古い実印の印鑑登録を廃止し、新しい実印の印鑑登録をしたと話していました。
以上に前提に、以下の問いに答えなさい。
弁護士Qは、本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、準備書面を提出することを予定している。
その準備書面において、弁護士Qは、前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、本件代物弁済契約が締結された事実が認められることにつき、主張を展開したいと考えている(なお、Xが令和3年1月15日、パソコン1台をCに代金20万円で売った事実や、Xが令和4年3月7日、Cに対して20万円を弁済した本件訴訟の事実は、いずれも立証されていないものとする。)。
弁護士Qにおいて、上記準備書面に記載すべき内容を、提出された書証や両者の供述から肯定することができる事実を簡潔に、 答案用紙1ページ内で記載しなさい。
なお、記載に際しては、本件契約書のA作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。
【設問5】
裁判官は、第2回口頭弁論期日において、弁護士Qに対し、準備書面の提出をすべき期間を定めた。その法的根拠と目的を簡潔に記載しなさい。
(別紙)
(注)押印部分以外は全てパソコンで作成されている。
代物弁済契約書
AとYは、YのAに対する20万円の金銭の弁済に代えて、AはYに本件土地を譲渡することに合意致しました。
令和5年1月26日
A A印
Y Y印

設問1
(1) 訴訟物及び個数
 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記手続請求権(1個)及び所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権(1個)の合計2個である。併合態様は単純併合である。
(2) 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、本件土地について、別紙登記記録記載の代物弁済を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
2 被告は、原告に対し、本件土地を明け渡せ。
(3) 請求を理由づける事実
請求原因1(所有権に基づく妨害排除請求権としての登記抹消登記手続請求権)
ア Aは、本件土地を所有していた。
イ Aは、令和6年3月25日、死亡した。
ウ Xは、Aの子である。
エ 本件土地につき、Yへの代物弁済を原因とする所有権移転登記(本件登記)が経由されている。
請求原因2(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)
ア 請求原因1のアないしウに同じ。
イ Yは、本件土地を占有している。
(4) 民事保全命令の申立て
ア 処分禁止の仮処分(民事保全法23条1項)
 本件登記の抹消登記手続請求権を被保全権利として、本件土地について処分禁止の仮処分を申し立てるべきである。保全の必要性(同法23条1項)は、現状の変更により債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められる。本件では、Yが令和7年中にCに対し乙土地と本件土地を生前贈与すると述べており、本件土地の所有権がCに移転し更にCへの登記が経由されると、Xの登記抹消請求の実現が著しく困難となるおそれがある。
イ 占有移転禁止の仮処分(民事保全法23条1項、62条)
 本件土地の明渡請求権を被保全権利として、占有移転禁止の仮処分を申し立てるべきである。保全の必要性については、YがCへの生前贈与を予定しており、CがY宅でYと同居していることから、本件土地の占有がYからCに移転されるおそれがある。占有がCに移転されると、Yに対する確定判決の執行力はCには及ばず、明渡しの強制執行が困難となるおそれがある。
設問2
抗弁1:代物弁済による所有権喪失(請求原因1・2に対し)
ア CはAに対し、令和2年5月1日、20万円を貸し付けた(本件貸金債権)。
イ Yは、令和5年1月25日、Cから本件貸金債権を譲り受けた。
ウ Cは、令和5年1月25日、Aに対し、上記債権譲渡の通知をした。
エ AとYは、令和5年1月26日、本件貸金債権の弁済に代えて、AがYに本件土地の所有権を移転する旨合意した(本件代物弁済契約)。
オ AからYへ本件土地につき代物弁済を原因とする所有権移転登記がされた。
設問3
(1) 再抗弁として主張しない。
 理由:Xが令和3年4月11日にCに対し相殺の意思表示をしたとの主張であるが、XのCに対する売買代金債権とCのAに対する貸金債権は、債権者・債務者の関係が対立しておらず、相殺適状にない。相殺は当事者間で互いに対立する同種の債権を有する場合にのみ許される(民法505条1項)ところ、Xが有するのはCに対する売買代金債権であり、CがAに対して有する本件貸金債権とは当事者が異なる。したがって、XがCに対してした相殺は無効であり、再抗弁として主張しても意味がない。
(2) 再抗弁:第三者弁済による被担保債権の消滅(抗弁1に対し)
ア Xは、Cに対し、令和4年3月7日、CのAに対する本件貸金債権の債務20万円につき第三者として弁済した(本件弁済)。
(3) 裁判官が(2)の事実を審理する必要がないと判断した理由
 (2)の再抗弁は、本件貸金債権が本件弁済により消滅していたため、被担保債権を欠く本件代物弁済契約が無効であるとの主張である。この主張はYの抗弁(代物弁済による所有権喪失)に対する再抗弁として位置づけられるものである。本件訴状には、Xの請求原因としてAの本件土地の所有及びXの相続が記載されている。仮にこの第三者弁済の事実を請求原因段階で記載するとしても、これは民事訴訟規則53条1項ただし書の「請求を理由づける事実についてこれと矛盾する相手方の主張を明らかにする事実」として先行的に記載する間接事実にすぎない。しかし、Yの抗弁が主張される前の段階では、Yがいかなる抗弁を主張するかが不明であり、再抗弁に相当する事実を請求原因の段階で審理する必要はない。裁判官は、Yの抗弁が主張された後の争点整理の段階で再抗弁として審理すれば足りると判断したものである。
設問4
 弁護士Qは、以下の事実に基づき、本件代物弁済契約の締結が認められると主張すべきである。
 本件契約書のA作成部分の成立の真正につき、Xは成立の真正を否認したが、A名下の印影がAの印章によることは認めている。民訴法228条4項により、本人の印章による印影があるときは、真正に成立したものと推定される(二段の推定)。Xは、Yが別件請負契約書押印時に預かったAの実印を無断使用したと主張するが、Yの供述によれば、Aは令和5年1月22日に新しい実印の印鑑登録をしており、別件請負契約書のA名下の印影と本件契約書の印影は一致しない。本件契約書に添付された印鑑登録証明書は同年1月26日付け発行で新実印に対応するから、Yが旧実印を流用した可能性は否定される。
 また、Aが本件土地の管理に困っていたこと、本件代物弁済契約後にAがYと共に土地家屋調査士立会いの下で境界確認を行ったこと等は、Aが本件代物弁済契約を了承していたことを裏付ける。
設問5
 法的根拠は民訴法162条である。同条は、裁判長が攻撃防御方法の提出期間を定めることができると規定する。目的は、争点整理後の主張を適時に提出させ、充実した審理と訴訟の迅速な進行を図ることにある。以上
(2,406字)​​​​​​​​​​​​​​​​