今のルールで過去を裁くな

現代の価値観やコンプライアンス基準という「今のルール」を絶対的な正義と錯覚し、過去の時代やその文化を一方的に断罪する風潮が蔓延している。ちびまる子ちゃんという昭和の家庭を描いた日常的作品に対し、令和の時代におけるパワーハラスメントやコンプライアンス違反のオンパレードであると糾弾するような言説は、その最たる例である。このような歴史的文脈を完全に捨象した非知性的な批判に対し、私はあえて強い言葉で反論を展開する。今のルールで過去を裁くな、バカが、と。
法の精神において、事後法による処罰が固く禁じられているのはなぜか。それは、行為の時点において存在しなかったルールによって後から過去の行為を裁くことが、著しく人間の尊厳と予測可能性を侵害するからである。この法的安定性を担保する基本原理は、単に成文法のみならず、社会の文化や道徳を評価する際にも妥当する普遍的な倫理であるはずだ。にもかかわらず、現代の一部の人間は、数十年後に作られた令和のコンプライアンスという無機質なチェックリストを過去に持ち込み、当時の人々の生活実態を事後的に裁断するという愚行を平然と行っている。アホである。
いかなる時代にも、その時代特有の社会規範、道徳観、経済状況、そして家族のあり方が存在する。ちびまる子ちゃんで描かれる姉妹の取っ組み合いの喧嘩や、親による兄弟間の扱いの差、あるいは子供が貯めたお年玉を親が生活費の足しとして強制的に管理するといったエピソードは、昭和という時代背景における一般的な庶民の生活実態を如実に切り取ったものである。当時の親たちは、現代の児童福祉法や企業のハラスメント防止規定などを念頭に置いて子育てをしていたわけではない。彼らは彼らの時代における常識と、限られた経済状態の中で、家族を維持し、子供を育てるために必死に生きていたのである。私も、そのように日本国で育てられた者の一人です。昭和生まれを誇りに思っています。
その懸命な日常の営みを、現代の基準でアウトと判定し、教育上不適切だと切り捨てる行為は、歴史への無理解にとどまらず、過去を生きた人間に対する著しい冒涜である。過去の出来事や作品を現代の基準で裁くことの愚かさは、それが現代中心主義という極めて傲慢な認知の歪みに立脚している点にある。現代の価値観が人類の歴史において最も進歩的であり、道徳的な到達点であるという前提は、単なる幻想に過ぎない。数十年後、あるいは百年後の未来の価値観から見れば、現在我々が当然のように享受している令和の社会規範や生活様式もまた、野蛮で倫理的に欠落したものとして非難される可能性を常に孕んでいるのである。
たとえば、未来の社会において完全な環境保護主義が達成された際、現在の我々がプラスチックを消費し、化石燃料に依存して生活している様は、地球環境に対するハラスメントのオンパレードとして糾弾されるかもしれない。そのとき、我々の今の必死の営みは全否定されるべきものなのだろうか。過去を一方的に裁く者は、いずれ未来の新たな基準によって自らも等しく裁かれるという歴史の連続性を完全に忘却している。自らが歴史という巨大な河の流れの中のほんの一点に立っているに過ぎないという謙虚さを欠いているのである。
文化作品は、その時代の空気、人々の価値観、社会の矛盾をそのままの形で保存するタイムカプセルである。過去の作品に触発され、現代との価値観の差異に気づくこと自体は、我々の社会がどのように変化してきたかを知るための健全な知的活動であると言える。しかし、その差異を過去の過ちとして糾弾し、作品を排除しようとすることは、社会から歴史的な自己認識の機会を自ら奪う行為に他ならない。過去の不完全さや粗野に見える部分も含めて、我々はそこから人間社会の変遷を学び、現代の自らの立ち位置を相対化する視座を獲得するのである。
いつの時代も、人間はその時代の「今」を一生懸命に生きていた。貧しさの中で工夫を凝らし、限られた選択肢の中で理不尽に耐え、時には家族と激しく衝突しながらも、その日その日を懸命に乗り越えてきた無数の人々の人生の積み重ねの上に、今日の我々の社会は存在している。その生々しい人間の歴史と生活の匂いを、安全な現代という高台から見下ろし、後出しジャンケンのように現代のルールで裁断して優位に立った気になっているような薄っぺらい正義感は、直ちに排斥されなければならない。
我々に求められているのは、過去の人間や文化を令和の法廷に引きずり出して断罪することではない。当時の社会的文脈に豊かな想像力を巡らせ、その時代を懸命に生き抜いた人間に対する深い敬意と共感を持つことである。過去を裁くのではなく、過去を理解しようと努めることこそが、知性ある人間の態度である。歴史と向き合うための最低限の謙虚さを持て。繰り返す。今のルールで過去を裁くな、バカが。ダセエんだよそういうの。
お前も人生を本気で生きてみろや。

