石油といふもの

石油高えよ
これ以上、たっかい石油をやっすい円で買わされるの真っ平御免。なんで、ちょっくらイランに行って、石油買ってくるわ。ペルシア帝国のダレイオス一世の話や、ムハンマドの話でもしにいけば話聞いてくれるやろ。戦争?知ったこっちゃねえよ、油がなけりゃ戦えないんだから。
アメリカがやってることは無茶苦茶だな、と思っている人は多いと思う。私も同感ではあるのだけど、そうせざるを得ないところにアメリカも追い込まれていたのかな、とも思う。
アメリカはいずれ、大きな方向転換が迫られるだろうとは、以前から予想していた。「石油の時代」が終わりを告げようとしていたからだ。
第二次世界大戦後、なぜ先進国は国民のほぼ全員が豊かな生活を送れていたのかというと、石油が安かったから。石油という安くて高カロリーなエネルギーのおかげで、庶民でも自動車を乗り回し、飛行機で海外旅行に行き、船で大量の物資を輸入することができた。先進国に限られていたとはいえ、全国民的に豊かな生活を送れたのは、石油のおかげだと言ってよいと思う。
その石油が採れなくなり始めている。もちろん、埋葬量はまだ50年分もある。この数字だけ見たら石油文明はまだまだ続けられそうに思える。しかし「埋蔵量」という数字は、エネルギーとして考えた場合には参考にならない。
石油を掘るのに必要なエネルギーの何倍石油というエネルギーが採れたか、を示す数字、EROI倍率が大切。
石油を利用し始めた時代、石油は噴水のように噴き上げていたので、掘るのに必要なエネルギーの200倍石油が採れていた。つまりEROIは200。ところが。
近年は10倍を切る油田が多くなっていて、シェールオイルと言われるタイプは、地中に水やガスを高圧で注入することにより石油を搾り出す方法をとるので、石油を掘るのに膨大なエネルギーが必要。このためにEROIは7倍程度にまで低下している。
EROIが3倍を切ると、もはや石油はエネルギーとして使えなくなる。石油をガソリンや軽油に加工する必要があるし、ガソリンスタンドに運ぶにもエネルギーが必要だからだ。3倍を切れば、石油は「掘れば掘るほどエネルギーを失うエネルギー」になってしまう。エネルギー的に赤字。無駄の極み。つまり、タダの趣味の穴掘りに成り下がる。
まもなく世界は、石油をエネルギーとして利用できない時代に突入する。それは、自動車や飛行機、船をこれまでのようには動かせない時代の到来を意味する。これら輸送機械の98%は石油で動いているからだ。
世界が慌てて電気自動車などの電化を急いでいるのは、このため。電気自動車なら、石油や天然ガスを燃やして発電し、その電気で充電するにしても、エネルギー効率がよい。太陽光発電などの自然エネルギーで発電した電気で動かすなら、石油を使わずに済む。このため、脱酸素、電気自動車へのシフトを世界中が急いでいる。
ただし容易ではない。大きな問題は「電池」。現在最強の電池であるリチウム電池でさえ、石油の5%程度のエネルギーしか貯められない。かさばるし重い。ガソリンの代わりに電池に積み替えようとしたら、20倍のサイズと重さの電池を積まねばならない。すると電池が重すぎてエネルギー効率が落ちてしまう。
このため、大型トラックや農業用機械などはやはりエンジン型でなければならないだろう、ということで、水素エンジンの開発が進められている。しかし水素は極低温でないと液化せず、その時にエネルギーをかなり失ってしまう。ガスのまま高圧で貯蔵しようにも大した量はタンクに積めず、走行距離が短い。また、水素は金属を脆くする性質があり、かなり頑丈なタンクにしないと危険だから重くなり、そのぶん走行距離が短くなる。水素も貯めにくいエネルギー。
原子力などの他のエネルギーも結局は電気か水素を作ることになるので、電池も水素も貯めることが難しいという問題がある。電気は貯めないとすぐに消えてしまうし。
石油という、室温でも液体で、比較的安全に貯蔵でき、安価で高エネルギーという、優れた特長をいくつも備えているエネルギーは他に見当たらない。自動車や飛行機、船などの輸送機械がいまだに98%も石油に依存している原因は、「石油があまりに優れているから」にほかならない。
アメリカは、この石油を牛耳ることにより覇権国となることができた。ニクソン大統領時代、キッシンジャーという男がいた。キッシンジャーは、一体どんな手を使ったのかはわからないが、「石油を買えるお金はドルだけ」という世界構造を構築するのに成功した。すると。
日本のような石油が採れない国は、石油を買うために何としてでもドルを手に入れなければならない。そこでアメリカに自動車やテレビ、冷蔵庫などを輸出し、その代金としてドルを手に入れた。
そのドルを中東の産油国に持っていけば、石油を手に入れられる。産油国の支配者は手に入れたドルでアメリカ国債を購入し、自らの富を蓄積する。アメリカは強大な軍事力を中東に置くことで支配者ににらみを利かせると同時に、支配者たちの利権も守る。
こうした世界構造だと、アメリカはドル札を印刷するだけで世界中からあらゆる商品を買うことができる。ただの紙切れ(何ならデジタル情報)でしかないものを印刷するだけで。
こうした、「石油はドルでしか買えない」世界構造を「ペトロダラー」という。アメリカが世界一豊かで強い国なのは、このペトロダラーの構造のおかげだといえる。
しかし。
このペトロダラー構造はもはや崩壊している。きっかけはイラクのフセイン大統領。ドル以外のお金でも石油を売ると言い出した。そんなことをすれば「石油はドルでしか買えない」というペトロダラー構造が壊れ、世界中から物資を買い漁れる時代が終わりを告げてしまうかもしれない。
イラク戦争でフセイン大統領は殺され、これでペトロダラー構造は維持されるかと思いきや、そうはならなかった。クウェートもベネズエラもロシアもドル以外の通貨で石油を売るように。かろうじて石油価格はドルで表示するという仕組みが残っているだけ。いわば「石油兌換紙幣」ともいえるペトロダラーの時代はとうの昔に終わっていた。
ところが、どれだけ浪費をしてもドル札を印刷するだけで世界中から商品が買える時代を長く続けたアメリカは、なかなかその浪費的な習慣を捨てることができなくなっていた。浪費癖を何とかしなければ経常赤字、財政赤字の「双子の赤字」は膨れ上がり続け、アメリカは世界の支配者どころか、借金を返し続ける「世界の奴隷国」に陥りかねない。「世界中の商品を買い漁る」習慣からの脱却が求められていた。
トランプ大統領が「トランプ関税」という、ほかの国々からすれば理不尽な関税をかけまくるのは、「世界中の商品を買い漁る」というアメリカの浪費癖を叩き直す劇薬として行っている側面があるように思う。トランプ大統領が果たしてそこまで考えて実行してるかは不明だが、アメリカの支配層(エスタブリッシュメント)がトランプ大統領の振る舞いを容認するどころか、好きなようにさせている背景には、トランプ大統領という強烈な個性を利用して、アメリカの方針を大転換させようとしている可能性がある。
だとすれば、日本をはじめとする国々は、アメリカを「たくさん商品を買ってくれる太客」だと考えるこれまでの捉え方を改める必要がある。
ペトロダラー構造が壊れた以上、アメリカはドル札を印刷するだけで世界中の商品を買い漁れるという時代は終わった。もし買い続ければ、アメリカは世界に対して莫大な借金を抱えることになり、その返済に追われる「奴隷国」に陥りかねない。そうならないためには、まずは世界中の商品を買い漁るという習慣をアメリカから消す必要がある。トランプ関税は、そうした時代の流れから来ていると考えると、理解しやすいように思う。
トランプ大統領は、法律違反だろうとなんだろうと今後も関税をつり上げようとする可能性がある。アメリカ国民はやむなく自力で何でも作るしかなくなり、やがて世界から何も買わなくてもやっていける国に変貌する。それがトランプ大統領およびエスタブリッシュメントたちの構想なのではないか、と推測する。
しかしその思惑通りに進むかはわからない。機関車を走らせればよいだけの時代なら、アメリカ一国だけですべての資源を賄えた。しかしITの時代に入り、レアアース、レアメタルがないと先端機械を製造できない。そしてそれらの資源は中国に偏って存在している。戦前のモンロー主義(アメリカ一国だけで完結して生活し、ほかの国とはあまり関わろうとしない外交政策)に戻ろうとしても、それはアメリカの技術力を衰えさせ、ひいてはアメリカの弱体化につながりかねない。トランプ大統領の思惑通りにことが進むとは限らない。
しかしアメリカは、ペトロダラー構造が壊れた以上、「世界中の商品を買い漁る」役割から降りるのはまず間違いないだろう。その役割を続けろというのなら「軍事費を増大させ、アメリカから武器を買え」と言うだろう。ヨーロッパや日本に軍事費増強を求めているのは、「世界中の商品を買い漁る」役割を続けるための代償なのだろう。
しかし、軍事費増強は、それぞれの国の財政を圧迫し、増税を余儀なくされる。アメリカに商品を売るためとはいえ、それに相当する兵器を買い続けるのはキツイ。それも分かっているから、トランプ大統領は関税で世界を揺さぶり続けているのだろう。
ペトロダラー構造が壊れた以上、中東の支配者たちへの脅しであり彼らの権力の源泉でもあるアメリカ軍を中東に置く理由は薄れていた、のだけれど、どうやらトランプ大統領の構想は、アメリカを「兵器販売大国」に変えると同時に、石油産油国やレアアース資源国を押さえて、アメリカの繁栄を図るというものではないか。イスラエルと共同でイランを攻めたのは、イスラエルを産油国に対する抑えとする戦略の一環なのだろうか。
いずれにしろ、アメリカは今後、日本の太客であり続けてくれる見込みは低くなっていくように思う。日本はアメリカの食料に大きく依存する以上、ある程度つき合わねばならないが、アメリカの世界戦略の変化を見据えた国家戦略の策定が迫られているように思う。
だから、日本では、地熱発電やんなきゃ。エネルギーの未来のためにね。ここ気づくのとっても大事。
以上
