工藤監督

「走らなくても野球はうまくなる」という考えに、工藤公康新監督が異論を唱えました。
「長くやった人、みんな同じことを言いますよ。『必要だ』と」
47歳まで現役を続けた名投手が語ったのは、単なる根性論ではありませんでした。
10月18日、中日ドラゴンズの工藤公康新監督が、野球界で意見の分かれる「ランニング論争」に持論を示しました。
近年は、筋力トレーニングを重視し、長距離走を必要としない考え方もあります。
しかし、工藤監督はプロの先発投手に必要なものを、こう表現しました。
「すべては準備です」
先発投手は、試合前のキャッチボールやブルペン、試合中の投球などで、登板日に300〜400回も肩を回すといいます。
それを中6日のローテーションで繰り返し、年間27〜28試合に登板する。
求められるのは、一度だけ全力を出す能力ではありません。
疲労から回復し、何度でも力を発揮する能力です。
私はスポーツ心理学の視点から、工藤監督の言葉に重要な意味を感じました。
それは「本当の自信は、準備から生まれる」ということです。
心理学には「自己効力感」という概念があります。
自分は必要な行動を実行できるという感覚です。
この感覚を支える大きな要素の一つが、実際に積み重ねた成功体験です。
44研究を統合した分析でも、試合前の自己効力感と競技成績には中程度の正の関連が確認されています。
ただし、自信があるだけで勝てるわけではありません。
練習を積み、体を整え、苦しい場面への備えをつくる。
その積み重ねが「自分はやれる」という根拠になります。
工藤監督は、好調と言える試合はシーズン中に3、4試合程度だとも語っています。
ここが非常に重要です。
一流選手でも、毎日絶好調とは限りません。
本当に強い選手とは、調子が良いときだけ活躍する選手ではなく、調子が悪い日にも自分の力を発揮できる選手ではないでしょうか。
もちろん、必要なランニングの量や方法は、年齢、体力、競技特性によって異なります。
ただ走る量を増やせばよいわけではありません。
大切なのは、目的のある準備です。
明日から、選手に一つだけ問いかけてみてください。
「調子が悪い日でも力を出すために、今日は何を準備する?」
その問いが、練習への向き合い方を変えるかもしれません。
才能は、一瞬の輝きを生みます。
しかし、長く活躍するためには、日々の準備が欠かせません。
工藤監督の「すべては準備です」という言葉には、47歳まで投げ続けた投手の重みがあります。
みなさんは、試合で調子が悪い選手に「もっと頑張れ」と声をかけますか。それとも、準備してきたことを思い出させますか?
