みんなで大家さん


【トラブル】みんなで大家さん「成田借地問題」、あっけない幕切れの舞台裏

 日経不動産マーケット情報が25年3月号においてその存在をスクープした、「みんなで大家さん」の成田借地問題。その幕切れもまた、波乱に満ちたものだった。

 11月26日午後、NHKなどマスコミ各社が一斉に報じたところによると、共生バンクのGATEWAY NARITAプロジェクト(成田PJ)計画地の4割を所有する成田国際空港株式会社(NAA)は、借地契約の延長に応じない方針を決めた。翌27日、定例記者会見に登壇したNAAの藤井直樹社長も「11月30日を期限とする賃貸借契約を延長しない」と、報道内容を大筋で認めた。

成田国際空港株式会社の藤井直樹社長

国土交通省で事務次官を務めた経歴を持つ。25年6月にNAA社長に就任した

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 共生バンクの不動産クラウドファンディング商品「みんなで大家さん」については7月以降、急速に信用不安が拡大。10月末時点で39ファンド中、34本で分配金が停止し、期日を迎えても元本が償還されないファンドも出ている。国会では野党が数度にわたりNAAの責任を追及してきたこともあり、今回の同社の決定については当然の帰結と見ることもできる。

 ただし、成田PJの土地造成に関わる開発許可を出した成田市の小泉一成(かずなり)市長は11月26日の定例記者会見で、共生バンクの工事延長届を受理したことを明かしている。一見、相反するように見えるNAAと成田市の判断の裏には何があったのか。

延長の見通しから一転、資金証明がネックに

 成田PJの計画地は東京ドーム10個分、約46万m2に及ぶ。そのうちNAAが所有するのは約18万m2で、計画地の4割を占める。NAAの借地は主要な計画道路を含む複数区画にまたがっており、その終了は開発工程全体を止めかねない。

計画地内に借地が散在

不動産登記簿、行政資料などから日経不動産マーケット情報が作成(国土地理院地図を加工)

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 国土交通省出身の藤井氏は、前述の会見で「法令に基づく許可が引き続きなされているか、残工事の遂行能力があるかを確認した上で決定した。後者については残念ながら確認できなかった」と述べたが、確認した内容の詳細については「民・民の契約」であることを理由に明かさなかった。

 結果を見る限り、粛々と共生バンクとの関係の幕引きに向けて動いていたように見えるNAA。だが、決断に至る過程はそう単純ではなかったようだ。

 関係者の証言によると、NAAは11月上旬までに、条件付きで借地契約の延長に応じる方針を共生バンク側に伝達。造成工事を続けるための資金の裏付けとして、共生バンクに対して銀行の残高証明といった資料を示すよう求めていたとみられる。

 これに対して共生バンク側は、かねてより進めていた保有資産の売却に向けた進捗などを共有したようだ。「担当者間のやりとりは協力的なものだった」(関係者)。同25日には、成田市が共生バンクからの工事延長申請を受理したことを、東京新聞が報道。この時点までは、交渉に携わる多くのメンバーが、借地契約は延長されるとの認識で一致していたとみられる。

 しかし、NAAの元には、共生バンク側からの資金証明は届かなかった。NAAは27日に決算に伴う定例記者会見を控えていたことなどから、これ以上の判断の引き伸ばしは難しいと判断。前日の26日までに、借地契約の延長に応じない方針を決定したとみられる。工事遂行を担保するための資金証明については、金額にばらつきがあるが、20億〜40億円に達するとの情報がある。

 複数の不動産関係者によると、共生バンクは大阪・宗右衛門町の土地を担保にした資金融通や、東京・西日暮里に所有する開発用地の売却に動いていた。特に後者については複数の買い手候補と具体的なやりとりが進んでいたが、希望する金額では買い手が見つからない様子だった。これに先立つ10月22日には、傘下企業が保有する都市綜研千葉駅前ビル(千葉市)を売却しているが、売り出し価格の20億円には遠く及ばなかったもようだ。

現地に掲示された工事看板

工事期間が何度も書き換えられている

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成田市、なおも工事完成求める

 一方、11月25日の時点で、NAAの決定は成田市に通知されておらず、担当職員の中には報道でその内容を知った者もいたようだ。成田市の小泉市長は翌26日の定例記者会見で、残った土地を対象として工事対象範囲を見直すことを含め、引き続き造成工事の完成に向けた推進を求めていく姿勢を示している。

 市によれば「完了予定は厳密な意味での許可要件ではないため、延長届は通常、受理される」。折々、工事の進捗などについて報告を受けているものの、「軽微な変更」の扱いとなる。市は共生バンクに資金証明などの提出を求めているが、いったん開発許可を下ろして以降は、それを強制する権限がないとの立場だ。結果として、これまで4回にわたり変更届は受理されてきた。

 いわば、アクシデントだった今回の決定。配当遅延や償還停止が続く共生バンクグループに、事業継続の見通しがあるのか。そして、誰がストップボタンを押す最終的な責任を負うのか。その位置づけは、依然として曖昧なままだ。

 約4万人の投資家から、総額2072億円(25年3月時点)の資金を集めた不動産クラウドファンディング商品「みんなで大家さん」は、大きな転機を迎えた。