管理職を降りる

Amazonとポルシェ、そしてVisa。今年に入って、黒字の大企業が相次いで人員を減らしている。
この動きを『AI時代のコスト削減』で片づけると、本質を見誤る。 Amazonが掲げているのは、管理職1人あたりの部下を15%増やすという目標だ。人を減らしているのではなく、階層を減らしている。
ポルシェは2035年までに全従業員の2割にあたる9000人を削減する計画だ。Visaも、好調な決算と同じ日に7%・2600人の削減を発表した。狙いは事業の縮小ではなく、判断のスピードだと見ている。
階層が薄くなる組織で生き残るのは、二つのタイプだと見ている。一つは、部下を使わず自分の判断だけで成果を出せる人。もう一つは、複数の役割を一人でこなせる人だ。
管理職としての在籍年数や部下の人数は、もう安全の証明にならない。
来年の人事評価は、何人を管理しているかではなく、何人分の仕事を一人でこなせるかで決まり始めるかもしれない。
自分の仕事は、部下がいなくなっても成立しますか。
この問いに直面したからこそ、自分は早々に管理職を降りる決断をした。
これまで多くの組織では、何人の部下を持っているか、あるいはどれだけ大きなチームを率いているかが、ビジネスパーソンとしてのステータスであり、安全の証明だと信じられてきた。しかし、その旧来型の人事ヒエラルキーはもはや全く通用しない。
管理職という立場は、いつの間にか個人の成長や変化を阻害する重すぎる鎧になっていないだろうか。社内調整、終わりのない会議、部下のモチベーション管理や評価業務。それらに時間と労力を奪われるうちに、自分自身の手で直接的な価値を生み出し、最前線で戦う感覚は次第に急速に失われていく。階層を守るための内部向け業務が増えるほど、市場の変化に対応するための判断スピードは致命的に遅れる。スキルの向上は望めない。現場感覚か鈍る。試合に出ずに試合の解説論評しかしない奴に、仕事ができるわけないだろう。
前述のグローバル企業たちの動向が示しているのは、まさにその危機感の表れだ。彼らが削ぎ落としているのは単純な人員ではなく、意思決定を鈍らせる無駄な階層そのものである。この激動の時代において、承認リレーの中継地点としてしか機能しないポストは、真っ先に淘汰される。究極、社長と係員しかいらないのだ。
だからこそ、私はその重すぎる鎧を自ら脱ぎ捨てる道を選んだ。部下というリソースや組織の力に依存せず、自分自身の判断とスキルだけで戦える身軽さを取り戻さなければ、これからの環境を生き抜くことはできない。複数の役割を一人でこなし、プレイヤーとして直接的に成果を出し続けること。それこそが、先行き不透明なAI時代における最大のリスクヘッジになる。
会社が用意した役職や肩書きという幻想にすがりついている暇はない。組織の看板や部下という存在をすべて剥ぎ取られたとき、最後に残る己の純粋な実力だけが問われている。その事実に気づき、自らの意思で鎧を脱ぐ覚悟を持たない限り、我々に明日はない。
