開戦の詔勅
開戦の詔勅(正式名称:米国及英国ニ対スル宣戦ノ詔書)は、1941年(昭和16年)12月8日、昭和天皇の名により発布された、大日本帝国がアメリカ合衆国およびイギリス帝国に対して宣戦布告を行った公文書です。
概要
- 発布日: 1941年(昭和16年)12月8日(ハワイ・真珠湾攻撃およびマレー作戦開始と同日)
- 署名: 昭和天皇(御名御璽)、内閣総理大臣・東條英機をはじめとする全閣僚の副署
- 文体: 漢文訓読体の格調高い宣命体(草案は漢学者・安岡正篤が推敲に関与)
詔勅の主な論点と開戦理由
- 東亜の平和維持と協調の模索: 東亜の安定確保と世界平和の確立を目的として、米英両国との平和的交渉を重ねてきたと主張。
- 米英による軍事的・経済的脅威: 米英両国が重慶の蒋介石政権を支援して東亜の混乱を助長し、経済封鎖(対日禁輸措置など)や軍事包囲を強めていると批判。
- 「自存自衛」の強調: 平和交渉の妥結を断念せざるを得ず、帝国の存立と自衛のために開戦を決断したと明記(「事既ニ此ニ到ル 朕豈ニ得ル所ナラムヤ 洵ニ已ムヲ得ザルニ至ル」)。
- 国民への結束の呼びかけ: 軍人だけでなく全国民が一致団結して国難に立ち向かうことを求めた。
歴史的背景 日中戦争の長期化、仏印進駐に伴う米国の対日石油禁輸、日米交渉の決裂(ハル・ノートの提示)を経て御前会議で最終決定され、ラジオ放送および新聞各紙の号外で広く国民に周知されました。これにより、太平洋戦争(大東亜戦争)が正式に開始されました。
原文(米国及英国ニ対スル宣戦ノ詔書)
天佑ヲ保有シ萬世一系ノ皇祚ヲ踐メル大日本帝國天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有衆ニ示ス
朕茲ニ米國及英國ニ對シテ戰ヲ宣ス 朕カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ 朕カ百僚有司ハ勵精職務ヲ奉行シ 朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ 億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ
抑々東亞ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄與スルハ 丕顯ナル皇祖考丕承ナル皇考ノ作述セル遠猷ニシテ 朕カ拳々措カサル所 而シテ列國トノ交誼ヲ篤クシ萬邦共榮ノ樂ヲ倶ニスルハ 是レ帝國カ常ニ國交ノ要義ト爲ス所ナリ
今ヤ不幸ニシテ米英二國ト釁端ヲ啓クニ至ル 洵ニ已ムヲ得サルモノアラントス 豈朕カ志ナラムヤ
中華民國政府曩ニ帝國ノ眞意ヲ解セス 濫ニ事ヲ構ヘテ東亞ノ平和ヲ攪亂シ 遂ニ帝國ヲシテ干戈ヲ執ルニ至ラシメ 茲ニ四年有餘ヲ經タリ 幸ニ國民政府ハ新ニ更生シテ帝國ト善隣結合ヲ遂ケタルニ 重慶ニ殘存スル政權ハ米英ノ庇蔭ヲ恃ミテ兄弟相殄ムノ念ヲ悛メス
米英二國ハ殘存ノ政權ヲ支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ 平和ノ美名ニ隱レテ東洋制覇ノ非望ヲ逞ウセムトス 剩ヘ與國ヲ誘ヒ帝國ノ周圍ニ於テ武備ヲ増強シテ我ニ挑戰シ 更ニ帝國ノ平和的通商ニ有ラユル妨害ヲ加ヘ 遂ニ經濟斷行ヲ敢テシ帝國ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ
朕ハ平和ヲ以テ事態ヲ収拾セムトシ 隱忍久シキニ彌リタルモ 彼ハ毫モ妥協ノ精神ナク 徒ニ時日ヲ延引シテ此ノ間ニ經濟上軍事上ノ脅威ヲ増大シ 以テ我ヲ屈從セシメムトス
事既ニ此ニ至ル 帝國ハ今ヤ自存自衛ノ爲 蹶然起チテ一切ノ障礙ヲ破砕スルノ外ナキナリ
皇祖皇宗ノ神靈上ニ在リ 朕ハ汝有衆ノ忠誠勇武ニ信倚シ 先祖ノ遺業ヲ恢弘シ 速ニ禍根ヲ芟除シテ東亞永遠ノ平和ヲ確立シ 以テ帝國ノ光榮ヲ保全セムコトヲ期ス
御名御璽 昭和十六年十二月八日
現代語訳
天の助けを受け、万世一系の皇統を継承する大日本帝国天皇は、忠誠で勇敢な国民にはっきりと示します。
私はここに、米国および英国に対して宣戦を布告します。 陸海軍の将兵は全力を尽くして戦闘に従事し、役人は職務に精励し、国民はそれぞれの本分を尽くし、国民心を一つにして国家の総力を挙げ、この戦争の目的を達成するにあたって手抜かりのないようにしてください。
そもそも、東アジアの安定を確保して世界の平和に貢献することは、明治天皇・大正天皇が定められた遠大な構想であり、私が常に心に留めて離さないところです。また、各国との友好を深め、すべての国が共に栄える喜びを分かち合うことは、帝国が常に外交の根本方針としてきたことです。
今や不幸にして、米英の二国と戦端を開く事態に至りました。まことにやむを得ないことではありますが、どうしてこれが私の本意でありましょうか。
中華民国政府は以前から帝国の真意を理解せず、みだりに争いを起こして東アジアの平和を乱し、ついに帝国に武力を行使させるに至り、すでに4年余りが過ぎました。幸いにも国民政府(南京政府)は新たに生まれ変わって帝国と善隣友好の関係を結びましたが、重慶に残る政権(蒋介石政権)は米英の庇護を頼りとし、同胞で傷つけ合う争いをやめようとしません。
米英二国はこの残存政権を支援して東アジアの動乱を助長し、平和という美名に隠れて東洋制覇の野望を果たそうとしています。そればかりか、同盟国を誘って帝国の周囲で軍備を増強して挑戦し、さらに帝国の平和的な通商にあらゆる妨害を加え、ついに経済制裁を強行して帝国の生存に重大な脅威を与えています。
私は平和によって事態を収拾しようと長きにわたり耐え忍んできましたが、相手側にはいささかも妥協の精神がなく、無駄に時間を引き延ばし、その間に経済的・軍事的な脅威を増大させて我が国を屈服させようとしました。
事態がここに至っては、帝国は今や自存自衛のために決然と立ち上がり、一切の障害を打ち破るほかありません。
歴代天皇の神霊が天におられます。私は国民の忠誠と勇武を信頼し、先祖の遺業を推し広め、速やかに災いの根源を取り除いて東アジアの永遠の平和を確立し、帝国の栄光を保全することを期待します。

