予備試験割れ問

憲法第9問 ア

ア.沖縄代理署名訴訟判決(最高裁判所平成8年8月28日大法廷判決、民集50巻7号1952頁)は、日米安全保障条約及び日米地位協定は高度の政治性を有する条約であることから、その憲法適合性の判断は司法審査権の範囲外にあるので、これらの条約が合憲であることを前提とした上で、それらの条約に基づく義務を履行するために制定された駐留軍用地特別措置法の憲法適合性を判断すべきであるとした。[No.15]

これは間違っていないか
過去の司法試験委員会の問題も含めて検討せよ

指摘の通り、記述アは誤りである。

理由 最高裁判所平成8年8月28日大法廷判決(沖縄代理署名訴訟)は、日米安全保障条約等の違憲審査について、砂川事件最高裁判決(最高裁判所昭和34年12月16日大法廷判決)の枠組みを踏襲した。同判決は、日米安全保障条約のような高度の政治性を有する条約の違憲性については、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法審査権の範囲外にあると判示している。 記述アは、条約の憲法適合性の判断が完全に司法審査権の範囲外にあり、無条件に合憲であることを前提としたとしている点で、前述の「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り」という留保条件を無視しており、誤りである。

司法試験委員会の出題傾向に基づく検討 高度の政治性を有する国家行為(統治行為)に対する司法審査の及ぶ範囲は、司法試験および予備試験の短答式試験における頻出事項である。 過去問においても、砂川事件や本件(沖縄代理署名訴訟)における「一見極めて明白に違憲無効と認められない限り」という例外基準の有無を問う形式が繰り返し出題されている。本記述のように、この例外基準を欠落させ、完全に司法審査の対象外であると断定する記述は、誤りの選択肢を構成する典型的な手法である。衆議院の解散に関する苫米地事件判決(最高裁判所昭和35年6月8日大法廷判決)など、他の統治行為論の判例との論理の差異を問う意図が含まれている。

苫米地事件判決と他の統治行為論の判例との論理の差異

苫米地事件判決(最高裁昭和35年6月8日大法廷判決)と、砂川事件判決(最高裁昭和34年12月16日大法廷判決)などに代表される他の統治行為論の判例との間には、**「例外的に司法審査が及ぶ余地を残しているか否か」**という点に論理の決定的な差異があります。

具体的には、以下の3点に整理されます。

1. 苫米地事件判決(衆議院の解散)の論理:完全な司法審査の除外

  • 対象: 衆議院の解散
  • 論理: 衆議院の解散は極めて高度の政治性を有する国家行為であり、その法的有効性の審査は司法裁判所の権限外にあるとしました。
  • 特徴: 高度の政治性を理由として、一切の例外を設けず、全面的に司法審査の対象から除外しています。判断は最終的に主権者たる国民の政治的判断に委ねられるべきであるという、純粋な統治行為論を展開しました。

2. 砂川事件判決・沖縄代理署名訴訟判決の論理:限定的な司法審査の除外

  • 対象: 日米安全保障条約などの高度に政治的な条約
  • 論理: 高度の政治性を有する条約の違憲性については、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り」、司法審査権の範囲外にあるとしました。
  • 特徴: 原則として司法審査は及ばないとしつつも、例外的な要件(一見極めて明白に違憲無効)を満たす場合には司法審査の対象となり得るという、留保付き(限定的)な統治行為論を展開しています。

3. 論理の差異の核心

両者の最大の差異は、例外基準の有無です。

  • 苫米地事件: 行為の性質(衆議院の解散)から、違憲無効かどうかの明白性を問うことなく、完全に司法審査の枠外に置きます。
  • 砂川事件等: 原則は司法審査の枠外としますが、「一見極めて明白に違憲無効」という基準を用いることで、例外的に司法審査が及ぶ余地を論理的に残しています。