日産さんの婚活

【短編小説 日産さんの婚活】

「本当に嫌だわ、こんな若造と会うなんて…」

40歳の独身女性・日産さんは、高級ホテルのラウンジで、深いため息をついた。
目の前には、経産省くんの紹介で渋々会うことになったホンダさんが、緊張した面持ちで座っている。

日産さんは、かつては美しく、誰もが憧れる存在だった。流れるようなボディライン、スポーツも万能、その全てが男たちを魅了し、数え切れないほどの求婚者が列をなした。あの頃は、どんな男だって選り取り見取りだった。

しかし、いつしか日産さんは、その美しさに驕り、高飛車になっていった。
男たちを見下し、自分にふさわしい相手などいないと、次々に求婚を断り続けた。
そして、気づけば、周りにいた男たちは皆、他の女性と幸せな家庭を築いていた。
あのスーパーエリート豊田くんはスバルさんと愛を育み、やんちゃ坊主のダイハツくんや日野くんを子育てしつつ、マツダさんともたまに逢瀬を重ねながらも順調な家庭を作っていた。

「日産さん、今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。」

ホンダさんが、深々と頭を下げる。

「別に、暇だったわけじゃないわ。経産省くんに無理やり頼まれただけ。」

日産さんは、そっけなく答える。

ホンダさんは、若くて、ハンサムで、しかも、莫大な資産を持つ、まさに婚活市場で最も価値の高い男の一人だった。
日産さんのような、年老いて、落ちぶれた、低賃金の女など、本来なら相手にする必要もない。
しかし、経産省くんの強い要望で、仕方なくこの席についているのだ。

「あの、失礼ですが、日産さんは、最近、あまり調子が良くないと伺いましたが…」

ホンダさんが、恐る恐る切り出す。

「なんですって!?あなた、私の何を知っているっていうの?!」

日産さんは、ヒステリックに叫んだ。

「いえ、その…市場の評価を推察しまして…」

「市場の評価ですって!?あなた、私の本当の価値をわかっていないのね!私はね、昔はそれはそれはモテたのよ!あなたみたいな若造にはわからないかもしれないけど、私には、他の女にはない、歴史と伝統があるのよ!」

日産さんは、まくし立てるように話す。

ホンダさんは、ただただ、圧倒されていた。

「あの、日産さん、僕は、あなたの過去の栄光を否定するつもりはありません。ただ、今は…」

「今はですって!?今は何よ!?私は今でも、十分に魅力的よ!あなたには、その魅力がわからないっていうの!?」

「いえ、そういうわけでは…」

「もういいわ!あなたみたいな、何もわかっていない若造と話しても、時間の無駄よ!」

日産さんは、そう言い放つと、バッグを掴んで、席を立った。

「日産さん、待ってください!」

ホンダさんが、慌てて追いかける。

「何よ!?まだ何か言うことがあるの!?」

ホンダさんは真面目な顔で答える。

「あのう、経産省くんのメンツもありますし…あなたが変わり、あなたが私の言う事をきちんと聞いて慎ましく生活できるなら、私の家庭にいれてあげてもよいんですが…」

日産さんは真っ赤な顔で鬼の形相になっていた。

「あなたは女を見る目が!ない!あなたあのソニ子と最近つるんでるって聞いたわよ。あなたの家庭なんて入りません!私はフェアレディなのよ!?わかる?フェ・ア・レ・ディ・!」

「あの、経産省くんには、僕からうまく話しておきますから…」

「あら、そう?それは助かるわ。じゃあ、私はこれで失礼するわね。」

日産さんは、高飛車な態度を崩さず、そのまま去っていった。

ホンダさんは、その後ろ姿を、呆然と見送るしかなかった。

「まったく、ひどい女だったな…」

ホンダさんは、小さく呟いた。

「経産省くんには、日産さんから断って席をたったと伝えておこう」

そして、日産さんは、再び、一人ぼっちの婚活市場へと戻っていくのだった。
経産省くんの仲介もむなしく、彼女のプライドは、誰にも、そして、何にも、救われることはなかった。

以前は体目的で同棲していたフランス人イケメンも、最近は羽振りが悪いようで付き合いも悪くなってきた。

彼女は、自分の価値を、過去の栄光にしか見出せなくなっていたが、自らの価値を高く評価し、対等な関係を持てる、一方で金払いの良い都合の良い男を探していた。

一方、ホンダさんは、この一件で、改めて、自分の価値を再認識した。

「ホンダさん、あんなの相手にしてたら株が下がるところだったよ!人を見る目があるね!」

日産さんと絶縁したことで、多くの知り合いからホンダさん株が上がった。

日産さんは、少ない賃金と資産を取り崩し、また高級化粧品や服に浪費していた。
そう、いつか自分の言う事を聞いてくれる白馬の王子様が現れると信じて。