日本の創業者

「私が持っている4億3000万円分の株を、社員全員にプレゼントします」
ある日の決算会で、82歳の創業者が放った一言に、会場は驚きと感動に包まれました。その人物は、中華食堂「日高屋」の創業者、神田正氏会長。
「私は創業者だから日高屋の株をいっぱい持っています。けどもう82歳で株もいらないので、無償で皆さんに差し上げます」。
このサプライズは、長年会社を支えてくれた従業員への感謝のしるしでした。神田会長は常々、「日高屋がここまで来れたのは、現場のみんなのおかげ」と語ります。その信念は、株式の贈与という形だけでなく、会社の制度そのものにも深く根付いています。
実は日高屋には、もう一つの業態、「焼鳥日高」が存在します。一見、中華食堂とは関連がないように思えますが、これも従業員を想う神田会長の優しさから生まれました。
中華鍋を一日中振り続けるのは、高齢になると体力的に厳しくなります。しかし、長年会社に貢献してくれた社員に、長く安心して働ける場所を提供したい。そこで生まれたのが、比較的体への負担が少ない焼き鳥業態だったのです。
4億円を超える私財を投じたプレゼントも、ベテラン従業員のセカンドキャリアを考えた新業態の開発も、全ては「現場で汗を流す従業員こそが財産」という神田会長の信念の現れ。その温かい経営哲学が、多くの人に愛される日高屋の味を支えているのかもしれません。