平成23年予備論文全て
平成23年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
[憲法]
多くの法科大学院は2004年4月に創設されたが,A大学(国立大学法人)は,2005年4
月に法科大学院を創設することとした。A大学法科大学院の特色は,女性を優遇する入学者選抜制
度の採用であった。A大学法科大学院が女性を優遇する入学者選抜制度を採用する主たる理由は,
法科大学院・新司法試験という新しい法曹養成制度の目的として多様性が挙げられているが,法曹
人口における女性の占める比率が低い(参考資料参照)ことである。A大学法学部では,入学生に
おける女子学生の比率は年々増え続けており,2004年度には女子学生が約40パーセントを占
めていた。A大学法科大学院としては,法学部で学ぶ女子学生の増加という傾向を踏まえて,法科
大学院に進学する女性を多く受け入れることによって,結果として法曹における女性の増加へ結び
付けることができれば,法科大学院を創設する社会的意義もある,と考えた。
A大学法科大学院の入学者選抜制度によれば,入学定員200名のうち180名に関しては性別
にかかわらず成績順に合格者が決定されるが,残りの20名に関しては成績順位181位以下の女
性受験生のみを成績順に合格させることになっている(このことは,募集要項で公表している。)。
男性であるBは,2007年9月に実施されたA大学法科大学院2008年度入学試験を受験し
たが,成績順位181位で不合格となった。なお,A大学法科大学院の2008年度入学試験にお
ける受験生の男女比は,2対1であった。
〔設問1〕
あなたがA大学法科大学院で是非勉強したいというBの相談を受けた弁護士であった場合,ど
のような訴訟を提起し,どのような憲法上の主張をするか,述べなさい(なお,出訴期間につい
て論ずる必要はない。)。
〔設問2〕
原告側の憲法上の主張とA大学法科大学院側の憲法上の主張との対立点を明確にした上で,あ
なた自身の見解を述べなさい。
【参考資料】法曹人口に占める女性の比率(2004年までの過去20年のデータ)
女性割合女性割合女性割合
(裁判官) (検事) (弁護士)
(%) (%) (%)
昭和60年1985年3.3 2.1 4.7
昭和61年1986年3.5 2.0 4.8
昭和62年1987年3.9 2.1 5.0
昭和63年1988年4.1 2.5 5.2
平成元年1989年4.5 2.9 5.3
平成2年1990年5.0 3.5 5.6
平成3年1991年5.5 3.8 5.8
平成4年1992年6.0 4.1 6.1
平成5年1993年6.7 4.6 6.3
平成6年1994年7.2 5.0 6.5
平成7年1995年8.2 5.7 6.6
平成8年1996年8.9 6.4 7.3
平成9年1997年9.7 7.1 7.8
平成10年1998年10.2 8.0 8.3
平成11年1999年10.4 8.4 8.9
平成12年2000年10.9 9.2 8.9
平成13年2001年11.3 10.6 10.1
平成14年2002年12.2 11.6 10.9
平成15年2003年12.6 12.6 11.7
平成16年2004年13.2 12.8 12.1
(出題趣旨)
本年の問題は,いわゆる積極的差別是正措置を含む法科大学院の入学者選抜制度
の合憲性(憲法第14条違反か否か)を問う問題である。憲法第14条の「平等」
は,いわゆる結果の平等ではなく,形式的平等(機会の平等)を意味すると解され
てきたところ,性中立的な「結果」(実質的な平等)を目指す積極的な差別是正措
置がどのような場合に許容されるのか,そのような差別是正措置がもたらす「逆差
別」の問題をどう考えるのか,というのが本問の核心であり,これを,問題文や資
料に示されている具体的事情を踏まえて検討することが求められている。なお,本
問で求めているのは,観念的・抽象的な「暗記」からパターンで答えを導くような
「学力」ではなく,正確に判例・学説を理解した上で判断枠組みを構築し,事案の
内容に即した個別的・具体的検討を踏まえて一定の理にかなった答えを導き出す「学
力」である。
答案(2,344字)です。
第1 設問1(Bの訴訟及び憲法上の主張)
1 訴訟の提起
Bは、A大学法科大学院の不合格処分の取消訴訟(行訴法3条2項)及び合格の義務付け訴訟(同法3条6項2号、37条の3)を提起すべきである。A大学は国立大学法人であり、入学者選抜は行政処分に当たる。
2 憲法上の主張
本件入学者選抜制度は、入学定員200名のうち20名を女性受験生のみに割り当てるものであり、成績順位181位のBは、男性であるがゆえに不合格とされた。これは性別に基づく差別的取扱いであり、憲法14条1項に違反する。
(1) 14条1項の「性別」による差別
14条1項後段は「性別」を差別禁止事由として列挙しており、性別に基づく区別は原則として許されない。本件制度は、同一の成績であっても女性であれば合格し男性であれば不合格となる結果をもたらすものであり、性別を直接の基準とする不利益取扱いに当たる。
(2) いわゆる逆差別の問題
本件制度は、法曹における女性比率の低さを是正するための積極的差別是正措置であるとされるが、これは男性受験生に対する「逆差別」をもたらすものである。14条1項は形式的平等(機会の平等)を保障するものであり、結果の平等を実現するために個々の男性受験生の機会の平等を犠牲にすることは許されない。
(3) 厳格な審査基準
性別に基づく区別は、14条1項後段列挙事由に該当し、本人の意思や努力によって変えることのできない属性に基づくものであるから、厳格な審査基準によるべきである。すなわち、目的がやむにやまれぬ利益の実現にあり、手段が目的達成のために必要不可欠であることが求められる。
(4) 目的の検討
法曹における女性比率の向上という目的自体には一定の合理性があるとしても、A大学法科大学院の入学者選抜制度において女性を優遇することが、やむにやまれぬ利益の実現といえるかは疑問である。
(5) 手段の検討
定員の10%に当たる20名を女性専用枠とすることは、男性受験生の合格機会を直接的に奪うものであり、手段として過度である。成績順位181位のBは、性別が女性であれば合格していたのであり、能力・適性と無関係な属性によって不利益を受けている。法曹における女性比率の向上は、法学教育の充実や受験環境の整備等のより制限的でない手段によっても達成可能である。
(6) 結論
本件入学者選抜制度は、目的の重要性を考慮しても、手段として必要不可欠とはいえず、14条1項に違反する。
第2 設問2(対立点の明確化と自己の見解)
1 対立点
原告側は、本件制度が性別に基づく直接的な差別であり、機会の平等を侵害する「逆差別」であると主張する。これに対しA大学側は、法曹における女性比率の低さという構造的不平等を是正するための積極的差別是正措置であり、実質的平等の実現のために合理的な区別として許容されると主張する。核心的対立点は、形式的平等(機会の平等)と実質的平等(結果の平等)のいずれを重視すべきか、及び積極的差別是正措置がどのような場合に許容されるかである。
2 A大学側の主張
A大学側は以下のように主張する。14条1項は実質的平等の実現をも要請しており、法曹における女性比率が12%程度にとどまる現状は、社会構造に起因する実質的不平等である。法科大学院制度の目的として掲げられた多様性の確保のためにも、女性の法曹を増加させることは重要な公益である。本件制度は定員の90%については性別中立的な選抜を維持しつつ、10%の枠のみを女性に配分するものであり、男性受験生への影響は限定的である。また、募集要項で公表されており、手続的透明性も確保されている。審査基準としても、積極的差別是正措置の合憲性は、中間審査基準(目的の重要性と手段の実質的関連性)によるべきであり、本件制度はこれを充たす。
3 自己の見解
(1) 審査基準
性別に基づく区別は14条1項後段列挙事由に該当し、厳格な審査が求められる。もっとも、積極的差別是正措置は、歴史的・構造的不平等を是正し実質的平等を実現する目的を有する点で、従来型の差別とは性質を異にする。したがって、厳格審査をそのまま適用するのではなく、目的の重要性と手段の実質的関連性を審査する中間審査基準によるのが相当である。
(2) 目的の重要性
法曹における女性比率の向上は、法科大学院制度の目的である多様性の確保に資するものであり、重要な目的といえる。参考資料によれば、法曹における女性比率は増加傾向にあるものの、2004年時点でも裁判官13.2%、検事12.8%、弁護士12.1%にとどまっており、是正の必要性は認められる。
(3) 手段の実質的関連性
しかし、本件制度は定員の10%を女性専用枠とし、成績で上回る男性受験生を排除するものである。第1に、A大学法学部では女子学生が約40%を占めており、法科大学院への進学を希望する女性が少ないわけではない。女性の法曹が少ない原因は法科大学院入学段階ではなく、その前後の構造的要因に求められる可能性が高い。第2に、Bのように成績順位181位で不合格となる男性が生じる一方、それより成績が低い女性が合格するという結果は、法曹としての能力・適性を基準とする選抜の趣旨と整合しない。第3に、法学教育環境の整備、奨学金制度の充実、ロールモデルの提示等のより制限的でない代替手段が存在する。
したがって、本件制度は手段として実質的関連性を欠く。
(4) 結論
本件入学者選抜制度における女性専用枠は、目的の重要性を認めつつも、手段の実質的関連性を欠くものとして、14条1項に違反すると解する。以上
(2,344字)
第1 設問1(Bの訴訟及び憲法上の主張)
Bは、A大学法科大学院の不合格処分の取消訴訟(行訴法3条2項)及び、合格の義務付け訴訟(同法3条6項2号、37条の3)を提起する。A大学は国立大学法人であり、入学社選抜は行政機関が行う行政処分にあたる。本件における憲法上の主張は、本件入学者選抜制度は、入学定員200名のうち、10分の1の20名を女性受験者のみに割り当てるものであり、不合格とされた成績順位181位のBは、女性ではないゆえに不合格とされている。これは、性別に基づく差別的取扱いにあたり、憲法14条1項(平等原則)に反する。
14条1項後段は、特に「性別」を列挙して差別禁止事由としている。性別に基づく区別は原則として許されない。本件合格認定制度は、同一の成績であっても、女性であれば合格となり、女性でない場合不合格となる結果をもたらす。性別を直接の基準とする不利益取扱いである。
この点、かかる制度的区別は、法曹世界における女性比率の低さを是正するための、積極的是正措置であるとされる。しかし、これは女性でない受験生(多くは男性)に対する差別をもたらす。憲法14条1項は機会の平等を保障するものであって、結果の平等(女性受験者の合格数の平等)を実現するために、個々の男性受験者の機会の平等を犠牲にすることは許されない。
従って、性別に基づくかかる区別は、本人の意思や努力によって変えることのできない属性に基づくものであるから、厳格な審査基準によるべきである。すなわち、目的が極めて重要な不可欠の利益の実現にあり、手段がその目的達成に対して必要最小限で不可欠であることが求められる。
本件選抜制度は、法曹世界における女性比率の向上という目的それ自体には一定の合理性を有する。しかし、A大学法科大学院の入学者選抜制度において、女性合格枠を設定して優遇することが、目的達成に対して必要最小限で不可欠であるとはいえない(目的の重要性)。加えて、定員の10%にあたる20名を女性専用枠として優遇することは、女性でない受験生(多くは男性)の合格機会を直接奪うものでああり、手段として極めて過度である。本件成績順位181位のBについては、性別が女性であれば合格しており、かつ、仮に成績順位が200位であっても合格していたわけであるから、能力適性とは無関係な性別という属性によって、不合格という不利益を受けた。法曹における女性比率の向上という政策目的はそれ自体非常に重要であるが、そもそも男女にかかわらず法学教育の充実及び受験環境の整備等、より制限的でない他の手段によっても十分達成しうる。
以上より、本件入学者選抜制度は、目的の重要性を考慮しても、手段として必要不可欠とはいえないので、14条1項に反し違憲である。
第2 設問2(対立点の明確化と自己の見解)
1 対立点
原告B側は、本件制度が性別に基づく直接的な差別であり、機会の平等を侵害する実質的差別であり憲法上列記された平等原則に反すると主張する。A大学側は、法曹界における女性比率の低さという構造的不平等を是正するための本件積極的区別措置であり実質的平等の実現のために合理的で不可欠な区別として許容されると主張する。かかる対立は、機会の平等(形式的平等)と結果の平等(実質的平等)をいかに両立すべきかという点に帰せられる。
2 A大学の主張
14条1項は、形式的平等では救われない実質的平等の実現を求めている。法曹界における女性比率が、長年12%程度にとどまっている現状は、社会的構造に起因する実質的不平等である。新しく設立された法科大学院制度の趣旨として掲げられた多様な法曹人員の確保という政策目的のため、女性の法曹人口を増加させることは重要である。そして、本件制度は定員の90%については、従前どおりに性別中立的な選抜を維持している。10%の枠のみを女性に配分するのみであり、既存の男性受験生への影響は極めて限定的である。そして、本件制度は、公表された募集要項で公表されており、男性受験者に限らず、他の法各大学院の受験といった手続き的透明性も問題ない。違憲審査基準としては、かかる積極的差別是正措置の合憲性判断基準としては、中間審査基準(目的の重要性と手段の実質的関連性)によるべきであり、本件制度はこの点からも問題なく合憲である。
3 自己の見解
(1)審査基準
性別に基づく区別は、憲法14条1項後段の列挙事由に該当する。よって厳格な審査が求められる。しかし、積極的差別是正措置は、歴史的構造的に長く続いた実質的不平等を是正して、実質的目的を目指す点で、従来の形式的差別とは性質を異にする。従って、厳格審査をそのまま適用せず、目的の重要性と手段の実質的関連性を深く審査する、中間審査基準によるのを相当とする。
(2)目的の重要性
法曹における女性比率の向上は、それ自体法科大学院制度の目的である多様性の確保に資する重要な目的である。法曹における女性比率は、確かに少しづつ増加している(参考資料)ものの、2004年時点でも、12%程度にとどまっており、その是正の必要性は非常に高く認められる。
(3)手段の実質的関連性
本件制度は、合格定員の10%を女性専用とし、試験成績で上回る男性受験者を排除している。一方、A大学法学部では、女性学生が40%を占めている。A大学法科大学院への進学を希望する女性自体が少ないわけではない。そして、女性の法曹が少ない原因は、法科大学員の入学段階ではなく、その前後の構造的要因に求められる。次に、成績順位181位の男性Bが不合格となり、それより成績の低い女性が、仮に合格するという結果を招く当該制度はあ、法曹としての能力適性をはかる選抜の趣旨に反する。具体的には、仮に成績順位181位から200位までが男性である場合、201位以下の成績能力しか認められない女性合格者を20名輩出する制度は、男性受験者に対しては不合理であり、女性受験者に対し失礼でもある。かかる女性学生への浸透は、法学教育環境の整備や奨学金制度の充実、ロールモデルの提示といった、より制限的でない、他の実質的代替手段が存在する。
以上より、本件制度は手段としての実質的関連性を欠く。
(4)結論
以上より、本件女性専用合格枠制度は、目的については重要であるが、手段の実施的関連性を欠くため、14条1項に反して違憲である。
以上
以下、予備試験論文の採点基準に基づき、50点満点で採点します。
【採点】
設問1(訴訟の選択及び憲法上の主張):約20点配点
良い点:
- 取消訴訟及び義務付け訴訟の選択は適切(+2)
- 14条1項後段列挙事由(性別)への着目は正確(+2)
- 厳格審査基準の定立が明確(+2)
- 目的・手段の検討において、成績181位のBの具体的事情に即した検討がある(+2)
- 「能力適性とは無関係な性別という属性」による不利益という指摘は的確(+1)
- LRAの手段審査(より制限的でない代替手段の存在)に言及(+1)
改善すべき点:
- 設問1はあくまでB側の弁護士としての主張であるのに、目的審査の部分がやや弱い。「やむにやまれぬ利益」に当たらない理由をもう少し具体的に展開すべき(-1)
- 26条1項(教育を受ける権利)や23条(学問の自由)との関連に触れていない(-1)
設問1小計:約14/20点
設問2(対立点の明確化と自己の見解):約30点配点
良い点:
- 対立点の設定(形式的平等vs実質的平等、逆差別の許容限界)は的確(+3)
- A大学側の反論として、定員90%の性別中立性、10%の限定性、募集要項での公表(手続的透明性)、中間審査基準の主張という複数の論点を挙げている(+4)
- 審査基準について、積極的差別是正措置の特殊性を踏まえて中間審査基準を採用した点は説得的(+3)
- 参考資料の数値を具体的に引用して目的の重要性を論じている(+2)
- 手段審査で3つの具体的理由を挙げている構成は明快(+3)
- 法学部の女子学生比率40%という事実を踏まえ、「女性法曹が少ない原因は入学段階にない」という指摘は事案に即した鋭い分析(+2)
- 「成績201位以下の女性を20名合格させる制度は男性に不合理で女性に失礼」という独自の視点は個別具体的検討として評価できる(+1)
改善すべき点:
- 参考資料の女性比率が増加傾向にあることへの言及が薄い。増加傾向自体が積極的是正措置の必要性を減殺する事情として使えたはず(-1)
- 受験生の男女比2対1という具体的事実への言及がない。これを踏まえると、女性専用枠なしでも相当数の女性が合格しうることを論証できた(-2)
- 「手続き的透明性も問題ない」との記述がやや雑で、反論の趣旨が不明確(-1)
- 誤字脱字が散見される(「法各大学院」「法科大学員」「制度はあ」「少しづつ」「実施的関連性」等)。論文試験では大きな減点にはならないが印象を損なう(-1)
設問2小計:約22/30点
【総合評価】
| 項目 | 得点 |
|---|---|
| 設問1 | 14/20 |
| 設問2 | 22/30 |
| 合計 | 36/50 |
総評:
全体として、出題趣旨が求める「積極的差別是正措置の許容限界」「逆差別の問題」という核心を正面から捉えており、判断枠組みの構築も論理的です。特に、A大学法学部の女子学生比率40%を手段審査に活用した点や、「201位以下の女性が合格する帰結」への独自の指摘は、事案に即した具体的検討として高く評価できます。他方、受験生の男女比2対1という重要な事実や、参考資料の増加傾向への分析が不足しており、事実関係の活用にやや粗さが残ります。上位合格答案(A評価相当)と評価できる水準です。
[行政法]
Aは,甲県乙町において,建築基準法に基づく建築確認を受けて,客室数20室の旅館(以下「本
件施設」という。)を新築しようとしていたところ,乙町の担当者から,本件施設は乙町モーテル
類似旅館規制条例(以下「本件条例」という。)にいうモーテル類似旅館に当たるので,本件条例
第3条による乙町長の同意を得る必要があると指摘された。Aは,2011年1月19日,モーテ
ル類似旅館の新築に対する同意を求める申請書を乙町長に提出したが,乙町長は,同年2月18日,
本件施設の敷地の場所が児童生徒の通学路の付近にあることを理由にして,本件条例第5条に基づ
き,本件施設の新築に同意しないとの決定(以下「本件不同意決定」という。)をし,本件不同意
決定は,同日,Aに通知された。
Aは,本件施設の敷地の場所は,通学路として利用されている道路から約80メートル離れてい
るので,児童生徒の通学路の付近にあるとはいえず,本件不同意決定は違法であると考えており,
乙町役場を数回にわたって訪れ,本件施設の新築について同意がなされるべきであると主張したが,
乙町長は見解を改めず,本件不同意決定を維持している。
Aは,既に建築確認を受けているものの,乙町長の同意を得ないまま工事を開始した場合には,
本件条例に基づいて不利益な措置を受けるのではないかという不安を有している。そこで,Aは,
本件施設の新築に対する乙町長の同意を得るための訴訟の提起について,弁護士であるCに相談す
ることにした。同年7月上旬に,当該訴訟の提起の可能性についてAから相談を受けたCの立場で,
以下の設問に解答しなさい。
なお,本件条例の抜粋は資料として掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
本件不同意決定は,抗告訴訟の対象たる処分(以下「処分」という。)に当たるか。Aが乙町
長の同意を得ないで工事を開始した場合に本件条例に基づいて受けるおそれがある措置及びその
法的性格を踏まえて,解答しなさい。
〔設問2〕
本件不同意決定が処分に当たるという立場を採った場合,Aは,乙町長の同意を得るために,
誰を被告としてどのような訴訟を提起すべきか。本件不同意決定が違法であることを前提にして,
提起すべき訴訟とその訴訟要件について,事案に即して説明しなさい。なお,仮の救済について
は検討しなくてよい。
【資料】乙町モーテル類似旅館規制条例(平成18年乙町条例第20号)(抜粋)
(目的)
第1条この条例は,町の善良な風俗が損なわれないようにモーテル類似旅館の新築又は改築(以下
「新築等」という。)を規制することにより,清純な生活環境を維持することを目的とする。
(定義)
第2条この条例において「モーテル類似旅館」とは,旅館業法(昭和23年法律第138号)第2
条に規定するホテル営業又は旅館営業の用に供することを目的とする施設であって,その施設の一
部又は全部が車庫,駐車場又は当該施設の敷地から,屋内の帳場又はこれに類する施設を通ること
なく直接客室へ通ずることができると認められる構造を有するものをいう。
(同意)
第3条モーテル類似旅館を経営する目的をもって,モーテル類似旅館の新築等(改築によりモーテ
ル類似旅館に該当することとなる場合を含む。以下同じ。)をしようとする者(以下「建築主」と
いう。)は,あらかじめ町長に申請書を提出し,同意を得なければならない。
(諮問)
第4条町長は,前条の規定により建築主から同意を求められたときは,乙町モーテル類似旅館建築
審査会に諮問し,同意するか否かを決定するものとする。
(規制)
第5条町長は,第3条の申請書に係る施設の設置場所が,次の各号のいずれかに該当する場合には
同意しないものとする。
(1) 集落内又は集落の付近
(2) 児童生徒の通学路の付近
(3) 公園及び児童福祉施設の付近
(4) 官公署,教育文化施設,病院又は診療所の付近
(5) その他モーテル類似旅館の設置により,町長がその地域の清純な生活環境が害されると認める
場所
(通知)
第6条町長は,第4条の規定により,同意するか否かを決定したときは,その旨を建築主に通知す
るものとする。
(命令等)
第7条町長は,次の各号のいずれかに該当する者に対し,モーテル類似旅館の新築等について中止
の勧告又は命令をすることができる。
(1) 第3条の同意を得ないでモーテル類似旅館の新築等をし,又は新築等をしようとする建築主
(2) 虚偽の同意申請によりモーテル類似旅館の新築等をし,又は新築等をしようとする建築主
(公表)
第8条町長は,前条に規定する命令に従わない建築主については,規則で定めるところにより,そ
の旨を公表するものとする。ただし,所在の判明しない者は,この限りでない。
2 町長は,前項に規定する公表を行うときは,あらかじめ公表される建築主に対し,弁明の機会を
与えなければならない。
(注)本件条例においては,資料として掲げた条文のほかに,罰則等の制裁の定めはない。
(出題趣旨)
行政訴訟の基本的な知識,理解及びそれを事案に即して運用する基本的な能力を
試すことを目的として,旅館の建設につき条例に基づく町長の不同意決定を受けた
者が,訴訟を提起して争おうとする場合の行政事件訴訟法上の問題について問うも
のである。不同意決定の処分性を条例の仕組みに基づいて検討した上で,処分性が
認められる場合に選択すべき訴訟類型及び処分性以外の訴訟要件について,事案に
即して説明することが求められる。
答案(2,437字)です。
第1 設問1(本件不同意決定の処分性)
1 処分の定義
抗告訴訟の対象たる処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭和39年10月29日参照)。処分性の判断に当たっては、根拠法令の仕組み全体を考慮し、当該行為により相手方が受ける不利益の内容・性質等を踏まえて判断すべきである。
2 同意を得ないで工事を開始した場合の措置及びその法的性格
Aが乙町長の同意を得ずに工事を開始した場合、本件条例に基づき以下の措置を段階的に受けるおそれがある。
(1) 中止の勧告(本件条例7条1号)
町長は、3条の同意を得ないで新築をし又はしようとする建築主に対し中止の勧告をすることができる。勧告は行政手続法上の行政指導に該当し、それ自体には法的拘束力がない。もっとも、公的機関からの公式な勧告として事実上の圧力となりうるものである。
(2) 中止の命令(本件条例7条1号)
町長は、勧告に加えて又はこれに代えて中止の命令を発することもできる。中止命令は建築主に対し新築工事の中止を法的に義務付ける行為であり、名宛人の権利を直接制限するものであるから、行政処分(不利益処分)に当たる。
(3) 公表(本件条例8条)
中止命令に従わない建築主について、弁明の機会を付与した上で(8条2項)その旨を公表することができる(8条1項)。公表は直接に法的効果を生じさせるものではないが、建築主の氏名等が広く知られることにより社会的信用が毀損されるなど、重大な事実上の不利益を課すものであり、事実上の制裁としての機能を有する。
なお、本件条例にはこれら以外に罰則等の制裁の定めはないが、中止命令及び公表という一連の措置は、建築主に対して新築断念を事実上強く迫る効果を有する。
3 本件不同意決定の処分性の検討
本件不同意決定は、本件条例3条に基づく同意の申請に対し、同5条2号(児童生徒の通学路の付近)を理由に同意しない旨を決定し、6条に基づきAに通知されたものである。
不同意決定自体は建築を直接禁止する命令ではなく、「同意しない」という応答にとどまるから、直接に権利義務を形成するものではないとして処分性を否定する見解もありうる。また、本件条例に罰則がないことも処分性否定の方向に働く事情ではある。
しかし、本件条例の仕組み全体を考察すると処分性を肯定すべきである。第1に、3条は建築主にあらかじめ町長の同意を得ることを法的に義務付けており、同意は適法な新築の法的要件として位置づけられている。第2に、同意なく工事を開始すれば、前述のとおり7条に基づく中止の勧告・命令、さらに8条に基づく公表という段階的不利益措置が予定されており、特に中止命令は法的拘束力を有する行政処分である。第3に、このような仕組みの下で不同意決定を受けた建築主は、新築を断念するか、中止命令及び公表という不利益を覚悟して工事を開始するかの二者択一を事実上迫られる。実効的な権利救済の観点からも、中止命令等の後続措置を待つことなく、不同意決定の段階で争訟の機会を認める必要がある。
以上より、本件不同意決定は、Aが適法にモーテル類似旅館の新築工事を行いうる法的地位を否定するものであり、Aの権利義務に直接影響を及ぼす行為として処分に当たると解すべきである。
第2 設問2(提起すべき訴訟と訴訟要件)
1 提起すべき訴訟及び被告
Aの目的は乙町長の同意を得ることにある。不同意決定の取消しだけでは町長が改めて判断するにとどまり、直ちに同意が得られるとは限らない。そこでAは、本件不同意決定の取消訴訟(行訴法3条2項)と同意処分の義務付け訴訟(同法3条6項2号、37条の3第1項2号)を併合提起すべきである(同法37条の3第3項2号)。これは法令に基づく申請に対して拒否処分がなされた場合の申請型義務付け訴訟である。
被告は、処分をした行政庁である乙町長が所属する公共団体たる乙町である(行訴法11条1項1号、38条1項)。
2 訴訟要件の検討
(1) 処分性
前述のとおり本件不同意決定は処分に当たる。
(2) 原告適格
Aは本件不同意決定の直接の名宛人であり、同意を得られないことにより新築工事を適法に行えないという法律上の利益を侵害されている。原告適格(行訴法9条1項)は認められる。
(3) 出訴期間
取消訴訟の出訴期間は処分があったことを知った日から6か月以内である(行訴法14条1項)。不同意決定は2011年2月18日にAに通知され、弁護士Cへの相談は同年7月上旬であるから、期限である8月18日に間に合うが、残り期間はわずかであり速やかに訴訟を提起する必要がある。なお、Aが数回にわたり乙町役場を訪れて交渉した事実は出訴期間の進行を停止させるものではない。
(4) 訴えの利益
Aは建築基準法に基づく建築確認を受けており、同意さえ得られれば適法に工事を開始できる。不同意決定の効果は現に存続しているから、取消し及び同意の義務付けを求める法律上の利益が認められる。
(5) 義務付け訴訟の本案勝訴要件
申請型義務付け訴訟の認容には、取消訴訟に理由があり、かつ行政庁が処分をすべきことが法令上明らかであるか、処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用に当たることが必要である(行訴法37条の3第5項)。本件施設の敷地は通学路として利用されている道路から約80メートル離れており、5条2号の「児童生徒の通学路の付近」には当たらないと主張できる。同条は「同意しないものとする」と規定し、各号に該当しない場合には同意すべきことが法令上予定されているから、不同意決定は違法であり、町長は同意をすべきことが法令の規定から明らかであるといえ、義務付け判決が認容されるべきである。以上
(2,437字)
第1 設問1(本件不同意決定の処分性の判断)
1 処分の定義
抗告訴訟の対象たる処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民等の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(判例)。処分性の判断に当たっては、根拠法令の趣旨仕組み全体を考慮し、当該行為により、行為の相手方が受ける不利益の内容や性質を踏まえて、深度ある判断が求められる。
2 同意なく工事を開始した場合の措置の法的性格
Aは乙町長の同意を得ずに工事を開始しており、本件条例に基づく措置を段階的に受ける。
(1)中止の勧告(本件条例7条1号)
町長は、3条の同意を得ないで新築をし、又はしようとする建築主に対して中止の勧告をすることができる。勧告は行政手続法上の行政指導に該当し、法的拘束力がない。しかし、公的機関からの公的な勧告行為として、事実上の圧力は認められる。
(2)中止の命令(本件条例7条1号)
町長は、勧告に加えて中止の命令を発する。中止命令は建築主に対して新築工事の中止を法的に義務付ける行為であり、名宛人の権利を直接制限するものである。よって行政処分(不利益処分)に当たる。
(3)公表(本件条例8条)
中止命令に従わない建築主について、弁明の機会を付与した上で(8条2項)その旨を公表する(8条1項)。かかる公表は直接に法的効果を生じされるものではない。しかし、建築主の氏名等が中止命令に従わない者として広く知られることにより社会的信用が毀損される。これは重大な事実上の不利益を課すものであり、実質的制裁といえる。本件条例には、かかる公表以外に罰則等の制裁の定めがないが、かかる公表措置は、建築主に対して建築断念を事実上強く迫る効果を有すると評価される。
3 本件不同意決定の処分性の検討
本件不同意決定は、本件条例3条に基づく同意の申請に対し、同5条2号(児童生徒の通学路の付近)を理由に同意しない旨を決定し、同6条に基づきAに通知されたものである。不同意決定自体は建築を直接禁止する命令ではなく、同意しない旨の応答にとどまる。よって直接に権利義務を形成するものではないとも思える。加えて、本件条例には罰則もないことも、処分性を認めない方向に働く事情である。しかし、本件条例の仕組みや趣旨を全体として考察すべきである。まず、同3条は建築主にあらかじめ町長の同意を得ることを法的に義務付けている。そしてかかる同意は、その新築の前段における適法な法的要件として位置づけられる。そして、同意なく工事を開始すれば、同7条に基づく中止の勧告命令、さらに8条に基づく公表という、段階的不利益がかなりの確度で予定される。そして、中止命令については、法的拘束力を有する行政処分といえる。加えて、かかる仕組みの下で不同意決定を受けた建築主は、新築自体を断念するか、中止命令及び公表という不利益を覚悟して工事に着手するかの判断を迫られる。よって、実効的な権利救済の観点から、中止命令等の後続措置を待たずに不同意決定の段階で、争訟の機会を与えるべきである。
以上より、本件不同意決定は、Aが適法にモーテル類似旅館の新築工事を行う法的地位を否定するものであり、Aの権利義務に直接影響を及ぼす行為として処分に当たる。
第2 設問2(提起すべき訴訟と訴訟要件)
1 提起すべき訴訟及び被告
Aの目的は乙町長の同意を得ることである。不同意決定の取消しだけでは、町長が改めて判斷するにとどまり、加えて同意が得られるものではない。そこで、Aは、本件不同意決定の取消訴訟(行訴法3条2項)と同意処分の義務付け訴訟(同法3条6項2号、37条の3第1項2号)を併合提起すべきである(同法37条の3第3項2号)。法令に基づく申請に対して、拒否の処分がなされた場合の申請型義務付け訴訟となる。被告は、処分をした行政庁である乙町長が所属する、公益団体たる乙町となる(行訴法11条1項1号、38条1項)。
2 訴訟要件の検討
(1)処分性
前述のとおり、本件不同意決定は処分にあたる。
(2)原告的確
Aは本件不同意決定の直接の名宛人であり、同意を得られないことにより、新築工事を適法に行えない法律上の不利益を受けている。よって、法律上の利益を有する者として原告適格(行訴法9条1項)は認められる。
(3)出訴期間
取消訴訟の出訴期間は処分があったことを知った日から6ヶ月以内である(行訴法14条1項)。不同意決定は2011年2月18日にAAに通知され、弁護士Cへの相談は同年7月上旬であることから、期限である8月18日には間に合う。Aが数回にわたり乙町役場を訪れて交渉した事実は出訴期間の進行を停止または猶予するものではない。
(4)訴えの利益
Aは建築基準法に基づく建築確認を受けており、同意さえ得られれば適法に工事を開始できる。不同意決定の効果は現に存続しているから、取消し及び同意の義務付けを求める法律上の利益が認められる。
(5)本案勝訴要件
申請型義務付け訴訟の認容には、取消訴訟に理由があり、かつ行政庁が処分をすべきことが法令上明らかであるか、処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用に当たることが必要である(行訴法37条の3第5項)。本件施設の敷地は通学路として利用されている道路から約80メートル離れており、同5条2号の「児童生徒の通学路の付近」には当たらないと主張する。同条は「同意しないものとする」と規定し、各号に該当しない場合には同意すべきことが法令上予定されている。よって不同意決定は違法であり、町長は同意をすべきことが、法令の規定からも明らかである。以上より義務付け判決が認容されるべきである。
以上
以下、予備試験論文の採点基準に基づき、50点満点で採点します。
設問1(本件不同意決定の処分性):配点約25点
良い点:
- 処分の定義を判例に基づき正確に記述し、「仕組み全体」「不利益の内容・性質」への言及も適切(+4)
- 中止の勧告・中止の命令・公表の3つの措置を漏れなく摘示(+4)
- 各措置の法的性格の分析が的確。勧告=行政指導、命令=不利益処分、公表=事実上の制裁と正確に位置づけている(+4)
- 罰則がないことを処分性否定方向の事情として挙げた上で、なお肯定する論証構造が丁寧(+2)
- 条例の仕組み全体(3条の同意義務→7条の段階的措置→8条の公表)を体系的に分析(+4)
- 実効的権利救済の観点からの論証が説得的(+2)
改善すべき点:
- 「Aは乙町長の同意を得ずに工事を開始しており」との記述は事実誤認。Aはまだ工事を開始しておらず、開始した場合の不安を有しているにとどまる。「開始した場合」という仮定の記述にすべき(-2)
設問1小計:約22/25点
設問2(提起すべき訴訟と訴訟要件):配点約25点
良い点:
- 取消訴訟+申請型義務付け訴訟の併合提起を正確に選択し、条文の引用も的確(+4)
- 取消訴訟だけでは同意が直ちに得られないという実質的理由を付して義務付け訴訟の必要性を説明(+2)
- 被告を乙町と正確に特定し条文を引用(+2)
- 原告適格について名宛人であることを端的に指摘(+2)
- 出訴期間の計算が正確で、交渉が出訴期間を停止しないとの実務的指摘も的確(+3)
- 訴えの利益について建築確認済みであることとの関係で論述(+2)
- 本案勝訴要件(37条の3第5項)について、80メートルの具体的事実と5条の「同意しないものとする」の文言解釈を結びつけた論述が説得的(+4)
改善すべき点:
- 「公益団体」は「公共団体」の誤り(-1)
- 「原告的確」は「原告適格」の誤字(-1)
- 「AAに通知」は「Aに通知」の誤記(-0.5)
- 37条の3第5項は訴訟要件ではなく本案勝訴要件であるところ、「訴訟要件の検討」の見出しの下に記載しているのは分類上やや不正確(-0.5)
設問2小計:約21/25点
【総合評価】
| 項目 | 得点 |
|---|---|
| 設問1 | 22/25 |
| 設問2 | 21/25 |
| 合計 | 43/50 |
総評:
出題趣旨が求める「条例の仕組みに基づく処分性の検討」「訴訟類型の選択及び訴訟要件の事案に即した説明」の双方について、高い水準で応えています。特に設問1の条例の仕組み全体を踏まえた処分性の論証は、否定説にも触れつつ3つの根拠を示す構成が論理的で説得力があります。設問2の本案勝訴要件の分析も、5条の文言構造と具体的事実を結びつけており実践的です。事実誤認と数箇所の誤字を除けば、上位A評価に値する答案です。
[刑法]
以下の事例に基づき,甲の罪責について論じなさい。
1 甲(35歳)は,無職の妻乙(30歳)及び長女丙(3歳)と,郊外の住宅街に建てられた甲
所有の木造2階建て家屋(以下「甲宅」という。)で生活していた。甲宅の住宅ローンの返済は,
会社員であった甲の給与収入によってなされていた。しかし,甲が勤務先を解雇されたことから,
甲一家の収入が途絶え,ローンの返済ができず,住宅ローン会社から,甲宅に設定されていた抵
当権の実行を通告された。甲は就職活動を行ったが,再就職先を見つけることができなかった。
このような状況に将来を悲観した乙は,甲に対して,「生きているのが嫌になった。みんなで一
緒に死にましょう。」と繰り返し言うようになったが,甲は,一家3人で心中する決意をするこ
とができず,乙に対して,その都度「もう少し頑張ってみよう。」と答えていた。
2 ある日の夜,甲と丙が就寝した後,乙は,「丙を道連れに先に死のう。」と思い,衣装ダンスの
中から甲のネクタイを取り出し,眠っている丙の首に巻き付けた上,絞め付けた。乙は,丙が身
動きをしなくなったことから,丙の首を絞め付けるのをやめ,台所に行って果物ナイフを持ち出
し,布団の上で自己の腹部に果物ナイフを突き刺し,そのまま横たわった。
甲は,乙のうめき声で目を覚ましたところ,丙の首にネクタイが巻き付けられていて,乙の腹
部に果物ナイフが突き刺さっていることに気が付いた。
甲が乙に「どうしたんだ。」と声を掛けると,乙は,甲に対し,「ごめんなさい。私にはもうこ
れ以上頑張ることはできなかった。早く楽にして。」と言った。甲は,「助けを呼べば,乙が丙を
殺害したことが発覚してしまう。しかし,このままだと乙が苦しむだけだ。」と考え,乙殺害を
決意し,乙の首を両手で絞め付けたところ,乙が動かなくなり,うめき声も出さなくなったこと
から,乙が死亡したと思い,両手の力を抜いた。
3 その後,甲は,「乙が丙を殺した痕跡や,自分が乙を殺した痕跡を消してしまいたい。家を燃
やせば乙や丙の遺体も燃えるので焼死したように装うことができる。」と考え,乙と丙の周囲に
灯油をまき,ライターで点火した上,甲宅を離れた。その結果,甲宅は全焼し,焼け跡から乙と
丙の遺体が発見された。
4 乙と丙の遺体を司法解剖した結果,両名の遺体の表皮は,熱により損傷を受けていること,乙
の腹部の刺創は,主要な臓器や大血管を損傷しておらず,致命傷とはなり得ないこと,乙の死因
は,頸部圧迫による窒息死ではなく,頸部圧迫による意識消失状態で多量の一酸化炭素を吸引し
たことによる一酸化炭素中毒死であること,丙の死因は,頸部圧迫による窒息死であることが判
明した。
(出題趣旨)
本問は,甲が,無理心中を図って子丙を殺害した妻乙から乙殺害の嘱託を受け,
殺意をもって乙の首を絞め,乙が死亡したものと誤信し,乙及び丙それぞれの殺害
に関する証拠を隠滅する目的で犯行現場である甲宅に放火し,甲宅を全焼させると
ともに,乙と丙の遺体を焼損させたが,乙の死因は放火による一酸化炭素中毒であ
ったという事案を素材として,事案を的確に分析する能力を問うとともに,行為者
の行為の介在と因果関係,事実の錯誤,証拠隠滅罪等に関する理解とその事例への
当てはめの適切さを問うものである。
1 乙に対する殺人の成否
(1) 構成要件該当性
甲は乙の頸部を両手で絞め付けており,人を死亡させる現実的危険性の高い行為であるから,殺人罪(刑法199条)の実行行為に当たる。
しかし,本件では乙の死因は頸部圧迫による窒息死ではなく,その後の放火により意識消失状態で一酸化炭素を吸引したことによる中毒死である。したがって,甲の頸部圧迫行為と乙の死亡との間の因果関係が問題となる。
因果関係は,行為がなければ結果が発生しなかったといえる条件関係を前提に,結果発生が行為の危険性の現実化といえるかで判断する。甲の絞頸行為により乙は意識消失状態に陥り,そのため逃げることができず一酸化炭素を吸引して死亡したのであるから,絞頸行為の危険性が後行の放火と結びついて現実化したといえる。よって因果関係を肯定できる。
(2) 故意
甲は乙を死亡させる意思で絞頸しているから,殺意を有する。もっとも,甲は乙が死亡したと誤信していたため,後行の放火により死亡結果が生じた点につき認識がない。しかし,殺人罪は結果犯であり,実行行為時に殺意があれば足りるから,この点は故意を阻却しない。
(3) 違法性阻却事由
乙は「早く楽にして」と述べており,嘱託殺人(202条)の成否が問題となる。同罪成立には被害者の真摯かつ任意の嘱託が必要である。本件では乙は自殺企図の直後に苦痛から解放を求めて発言したものであり,自由で熟慮に基づく意思とはいい難い。したがって有効な嘱託とはいえず,202条の適用はない。
(4) 結論
以上より,甲には乙に対する殺人罪が成立する。
2 丙に対する罪責
(1) 因果関係の有無
丙の死因は頸部圧迫による窒息死であり,乙の行為によるものである。甲は丙に対して直接の加害行為をしていない。
もっとも,甲は丙の首にネクタイが巻き付けられているのを認識しながら救助措置をとらず,さらに放火しているため,不作為犯及び放火との関係で丙死亡についての責任が問題となる。
(2) 不作為による殺人の成否
不作為犯成立には作為義務が必要である。甲は親として丙の生命を保護すべき法的義務を負う。しかし,本件では既に丙は絞頸により死亡していたと認められるから,甲の不作為と死亡結果との因果関係は否定される。
(3) 放火との関係
放火は丙の死後に行われており,死亡結果を生じさせていないから,丙に対する殺人罪は成立しない。
(4) 結論
したがって,甲には丙に対する殺人罪は成立しない。
3 放火罪の成否
(1) 現住建造物等放火罪
甲は自己所有の木造家屋に灯油をまき点火し,全焼させている。甲宅には乙及び丙が存在していたから,「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物」に当たる(刑法108条)。
人が生存しているか否かについては,客観的に人が存在すれば足りる。本件では乙は意識消失状態であり生存していたから,「現に人がいる建造物」に該当する。
(2) 故意
甲は証拠隠滅目的で放火しており,建造物を焼損する認識もあるから故意が認められる。
(3) 結論
よって,現住建造物等放火罪が成立する。
4 証拠隠滅罪の成否
(1) 客体
証拠隠滅罪(刑法104条)の「他人の刑事事件に関する証拠」とは,自己の事件を含まないと解するのが通説である。
本件では,甲は乙による丙殺害及び自己の乙殺害の痕跡を消す目的で放火しているが,自己の刑事事件に関する証拠隠滅は同罪の対象外である。
他方,乙による丙殺害については「他人の刑事事件」に当たり得るが,乙は既に死亡している。判例は被疑者が死亡していても証拠隠滅罪の客体性を否定しないが,本件では甲の主たる目的は自己の犯行隠避であり,乙の事件との関係で独立の保護法益侵害とまではいえない。
(2) 結論
したがって,証拠隠滅罪は成立しない。
5 死体損壊罪の成否
甲は放火により乙及び丙の遺体を焼損しているから,死体損壊罪(刑法190条)の成否が問題となる。
もっとも,現住建造物等放火罪により焼損行為が評価されている場合,死体損壊はその結果に吸収されると解される。よって別罪は成立しない。
6 結論
以上より,甲には乙に対する殺人罪及び現住建造物等放火罪が成立し,これらは併合罪となる。丙に対する殺人罪及び証拠隠滅罪は成立しない。
字数 2468字
1 乙に対する殺人の成否
(1)構成要件
甲は乙の頸部を両手で締め付けており、人を死亡させる現実的危険性の高い行為である。殺人罪(刑法、以下略、199条)の実行行為に当たる。
ただし、本件乙の死因は、かかる頸部圧迫による窒息死ではなく、その後の放火により意識喪失状態で一酸化炭素を吸引したことによる中毒死である。よって、甲の頸部圧迫行為と乙の死亡との間の因果関係が問題となる。
この点、因果関係とは、行為がなければ結果が発生しなかったといえる条件関係を前提として、その法益侵害の結果発生が行為の危険性が現実化したものと評価できるか否かで判斷する。甲の頸部締め付け行為により、乙は意識消失状態に陥り、そのため、煙に巻かれても逃げることができずに一酸化炭素中毒を起こして死亡した。よって、かかる首絞め行為の危険性が、その後の放火と結びついて法益侵害(乙の死)に現実化したと言える。
(2)故意
甲は乙を死亡させる意思で首絞めを行っている。よって殺人の故意が認められる。もっとも、甲は乙がその首絞め時点で死亡したものと誤信した。よって後行した放火によって死亡結果が生じた点についての認識を欠く。しかし、殺人は結果犯であり、その実行行為である首絞め時点において故意があれば足りると解する。よって殺人の故意は阻却されない。
(3)違法性
乙は、「早く楽にして」と懇願している。よって嘱託殺人(202条)の成否が問題となる。この点、同罪の成立には、被害者(殺される者)の真摯かつ任意で自由な意思に基づいた嘱託を必要とすると解する。本件では、乙は自殺企図した直後に、その苦痛から解放されることを求めて発言したものである。この点、自殺は犯罪ではなく、急迫ではあるが死にきれなかったことを含めた真摯かつ自由な意思に基づいた嘱託であるとも思える。しかしながら、苦痛から解放されることがそのまま死なせることであるとは言えない。よって、構成要件上の違法性は阻却されない。嘱託殺人罪(202条)が成立しない。
(4)結論
以上より、甲には単純殺人罪(199条)が成立する。
2 丙に対する殺人の成否
(1)因果関係の有無
丙の死因は、乙の頸部圧迫による窒息死である。甲は丙に対して直接の加害行為をしていないため問題となる。もっとも、甲は丙の首にネクタイが巻きつけられているのを認識しながら救助措置を取らず、さらに放火している。よって、不作為犯としての殺人及び放火による丙死亡についての責任が問題となる。
(2)不作為による殺人の成否
不作為による殺人が成立するためには、作為義務が必要であると解する。甲は、保護者として丙の生命を保護すべき法的義務を負っている。しかし、本件ではすでに丙は乙による首絞め行為によって死亡している。從って、甲は乙を救護するという作為義務を負わず乙の死亡との因果関係は否定される。そして、放火は丙の死後に行われているから、丙に対する殺人罪は成立しない。ただし、死体損壊罪(190条)は成立する。
3 放火罪の成否
(1)現住建造物への放火
甲は、自己所有の木造家屋に灯油をまき、点火して全焼させた。甲宅には乙及び丙が存在していたから、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物にあたる(108条)。人が生存しているか否かについては、客観的に人が存在すれば足りると解する。本件では、少なくとも乙は生きており「現に人がいる建造物」に当たる。そして、甲は証拠の隠滅を図る目的で建造物に放火している認識を有するから故意も認められる。從って、甲には現住建造物等放火罪が成立する。
(2)死体損壊の評価
甲は放火により乙を殺害し、かつ丙の遺体を焼損しているから,乙については殺人罪(199条)、丙については死体損壊罪(刑法190条)が別罪として成立するか問題となる。
この点、現住建造物等放火罪により焼損行為は評価されている。乙についての殺人行為も別途評価されている。そして、丙の死体損壊については、焼損行為それ自体にこの結果は吸収されると解する。よって死体損壊罪の別罪は成立しない。
4 証拠隠滅罪の成否
証拠隠滅罪(104条)の他人の刑事事件に関する証拠とは、自己の事件は含まないと解する(通説)。本件では、甲は乙による丙殺害、及び自己の乙殺害の痕跡を消す目的で放火した。この点、自己の刑事事件に関する証拠の隠滅は同罪の対象外と解する。確かに、乙の殺害は自己の殺害行為である。では、他方乙による丙殺害については、他人の刑事事件に当たるので問題となる。しかし、乙はすでに死亡しており、乙は甲が殺害している。よって広く乙による丙の殺害行為についても、広く自己の犯罪行為の範疇に含まれると解する。
以上より、甲の証拠隠滅罪は成立しない。
5 罪数
以上より、甲には乙に対する殺人罪及び現住建造物等放火罪が成立し、これらは併合罪となる。
以上
【総合評価】
40/50点
【採点内訳】
①論点抽出 8/10
主要論点は的確に網羅。特に
・因果関係(先行行為+後行行為)
・故意(結果の認識欠如)
・嘱託殺人
・不作為犯
・放火
・証拠隠滅
すべて拾えており、出題趣旨対応は良好。
②法的構成力 8/10
因果関係の枠組みは適切で、危険の現実化として処理できている点は高評価。
ただし
・故意の処理が「結果犯だから」で止まっている
・因果経過の錯誤としての整理が弱い
ここであと一段深く書ける。
③当てはめ 8/10
乙の意識消失→逃走不能→CO中毒死の流れを具体的に書けており、上位答案水準。
嘱託殺人も一度肯定方向を検討してから否定に振っており、思考過程が見えて良い。
④結論の妥当性 8/10
前回の致命傷だった嘱託殺人の誤りは修正されており、ここは大きく改善。
ただし減点点は残る。
⑤表現・構成 8/10
全体として読みやすく、段階的整理も明確。論証の流れも安定。
【減点ポイント(重要順)】
1 故意の処理が浅い(−2〜3点)
本問は典型的に
「因果経過の錯誤」
を書く問題。
つまり
・絞頸で死ぬと思った
・実際は放火で死亡
→基本的構成要件内の錯誤だから故意は阻却されない
という構造を書くべき。
「結果犯だから足りる」では学説・判例理解が浅い評価になる。
2 証拠隠滅罪の処理が弱い(−2点)
「乙も自分が殺したから自己事件」
という理由づけは弱い。
本来は
・乙の丙殺害は他人の事件に当たる
・しかし主目的が自己の犯行隠避
・保護法益侵害が自己事件に吸収される
という構造で書くべき。
3 不作為犯の論述に軽微なズレ(−1点)
「乙を救護する義務」と書いてしまっているが、問題は丙。
ただし結論には影響せず軽微減点。
4 死体損壊の処理(−1点)
一応検討しているが、
・成立可能性を明確に立てた上で
・放火に吸収
と明示できるとより良い。
【加点ポイント】
・因果関係の当てはめは明確で説得力あり
・嘱託殺人を一度検討してから否定する構造は上位答案
・放火罪の「現に人がいる」認定が正確
・答案の安定感は合格上位水準
【総括】
前回の最大減点要素(嘱託殺人の誤り)が解消され、合格上位ラインに到達。
あとは
「因果経過の錯誤」を明示的に書くかどうか
これだけで45点台に乗る答案。
[刑事訴訟法]
次の記述を読んで,後記の設問に答えなさい。
警察官は,甲が,平成23年7月1日にH市内において,乙に対して覚せい剤10グラムを30万
円で譲渡したとの覚せい剤取締法違反被疑事件につき,甲宅を捜索して現金の出納及び甲の行動等に
関する証拠を収集するため,H地方裁判所裁判官に対し,捜索差押許可状の発付を請求した。これを
受けてH地方裁判所裁判官は,罪名として「覚せい剤取締法違反」,差し押さえるべき物として「金
銭出納簿,預金通帳,日記,手帳,メモその他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」と
それぞれ記載した捜索差押許可状を発付した。
〔設問1〕
この捜索差押許可状の罪名及び差し押さえるべき物の記載は適法か。
〔設問2〕
仮に,捜索差押許可状の記載が適法であったとして,警察官が,この捜索差押許可状に基づき,
甲宅を捜索した際に,「6/30 250万円 丙から覚せい剤100グラム購入」と書かれた
メモを発見した場合,これを差し押さえることができるか。
(参照条文)覚せい剤取締法
第41条の2第1項覚せい剤を,みだりに,所持し,譲り渡し,又は譲り受けた者(第42条第
5号に該当する者を除く。)は,10年以下の懲役に処する。
(出題趣旨)
本問は,覚せい剤取締法違反被疑事件の捜査における捜索差押えを題材として,
特別法違反事件に関する捜索差押許可状の「罪名」及び「差し押さえるべき物」の
各記載の適法性を問うとともに,捜索の過程で発見された具体的な物件が当該捜索
差押許可状記載の「差し押さえるべき物」に該当するか否かを検討させることによ
り,令状主義の趣旨と捜索差押えについての基本的な知識の有無及び具体的事案に
対する応用力を試すものである。
1 設問1
(1)問題の所在
本問は,捜索差押許可状における「罪名」及び「差し押さえるべき物」の記載が,憲法35条及び刑訴法218条1項の趣旨に適合するかが問題となる。令状主義は,捜索差押えの対象及び範囲をあらかじめ司法審査により特定させることで,捜査機関による恣意的な権限行使を防止するとともに,個人のプライバシーを保障する点にその核心がある。したがって,令状の記載は処分対象を特定し得る程度に明確であることを要する。
(2)罪名の記載
罪名の記載は,対象犯罪を画定し,これに関連する証拠の範囲を限定する機能を有する。もっとも,特別法違反事件においては,条文構造が複雑であるため,条項番号まで詳細に記載することまでは要せず,当該犯罪類型が特定されれば足りると解する。
本件では,「覚せい剤取締法違反」と記載されているにとどまる。しかし,本件令状請求の前提として,甲が覚せい剤を譲渡したとの具体的被疑事実が存在しており,罪名の記載と相まって対象犯罪は覚せい剤の譲渡に係る違反であることが特定される。したがって,罪名の記載は,令状主義の趣旨に照らし適法である。
(3)差し押さえるべき物の記載
差押物の記載は,捜索差押えの範囲を直接画するものであるから,特に高度の特定性が要求される。他方で,証拠物は性質上事前に具体的特定が困難な場合も多く,証拠収集の実効性との調整から,一定の範囲で類型的・包括的記載も許されると解する。ただし,この場合でも,対象物が犯罪との関連性によって合理的に限定されていることが必要である。
本件では,「金銭出納簿,預金通帳,日記,手帳,メモ」といった具体的物件が列挙されている点は,対象の典型例を示し特定性を基礎付けるものとして評価できる。これに対し,「その他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」との記載は,一見すると範囲が過度に広汎であり,令状主義に反する疑いがある。
しかしながら,本件では「本件に関係あり」との限定が付されており,対象は覚せい剤譲渡という被疑事実に関連する証拠に限られる。また,前段で具体的証拠類型が例示されていることから,捜索対象は金銭の流れや行動記録等に関する文書等に合理的に画されている。したがって,本件記載は包括的ではあるが,犯罪との関連性によって限定されており,令状主義の趣旨を害するものではない。
よって,差押物の記載も適法である。
(4)結論
以上より,本件捜索差押許可状の罪名及び差押物の記載はいずれも適法である。
2 設問2
(1)問題の所在
本問は,令状に基づく捜索において発見された物件が,令状記載の差押物に該当するか,すなわち差押えの範囲内かが問題となる。
(2)判断枠組み
差押えが許されるのは,令状に記載された差押物に該当する物件に限られる(刑訴法218条1項)。もっとも,文言の形式的一致までは不要であり,当該物件が令状記載の類型に属し,かつ当該被疑事実との関連性を有する場合には差押えは許されると解する。
(3)本件への当てはめ
本件メモには「6/30 250万円 丙から覚せい剤100グラム購入」と記載されている。このような記載は,覚せい剤の取引内容及び金銭の授受を示すものであり,本件被疑事実である覚せい剤譲渡の存在や取引関係を推認させる重要な証拠となり得る。
また,本件令状には「メモ」及び「本件に関係ありと思料される文書」が差押対象として記載されているから,本件メモはその文言上も類型に含まれる。
さらに,本件メモは「購入」に関する記載であるが,覚せい剤取引は譲渡と譲受が対向関係にあるため,購入記録は譲渡行為の存在を基礎付ける証拠として,本件被疑事実との関連性を有する。
(4)結論
したがって,当該メモは令状記載の差押物に該当し,差し押さえることができる。
以上
字数 2473字
1 設問1
(1)問題の所在
本問は、捜索差押許可状における「罪名」及び「差し押さえるべき物」の記載が、憲法35条及び刑訴法218条1項の令状主義の趣旨に適合するか問題となる。令状により、捜索差押えの対象及び範囲を予め司法審査により特定、審査させる。これにより捜査機関による恣意的な権限行使を抑制し、個人のプライバシー等の自由を保障する。よって、令状の記載は処分対象を特定できる程度に明確でなければならない。
(2)罪名の記載
令状の罪名の記載は、対象犯罪を画定し、これに関する証拠の範囲を限定する権能を持つ。しかし、特別法違反事件においては、条文構造が専門的にわたるため、その条項や番号まで、詳細に記載することは要しない。当該犯罪類型が特定されれば足りると解する。本件では、「覚醒剤取締法違反」と記載されている。本件令状の請求の前提として、甲が覚醒剤を譲渡したとの具体的な被疑事実が存在する。よって、罪名の記載と相まって、対象犯罪は覚醒剤譲渡に関する違反であることが特定される。從って、罪名のみの記載で、令状主義の趣旨に反するとは言えず適法である。
(3)差し押さえるべき物の記載
差し押さえるべき物の記載は、捜索差押えの範囲を直接画するものであるから、特に高度の特定性が要求される。他方、証拠物は性質上事前に特定が困難な場合も多い。また証拠の網羅的収集の実効性との調整からも、一定の範囲で類型的包括的な令状記載も許されると解する。一定の範囲とは、対象物が犯罪との関連性によって合理的に限定されていることと解する。本件では、金銭出納簿、預金通帳、日記、手帳、メモ、とった具体的物件が列挙されている点、対象の典型例を示して特定されているものとして評価できる。一方、その他本件に関係ありと資料される一切の文書及び物件、については、確かに範囲が過度に広範囲にわたるとも思える。しかし、本件では、「本件に関係する」との限定が付されており、覚醒剤譲渡という密航性高い犯罪事実に関係する証拠に限定される。また、具体的証拠類型を前段で例示した上で、その他これに類する同種の文書や物件という合理的範囲に留まるものといえる。從って、犯罪との関連性において限定された指定といえ、令状主義の趣旨に反しない。
從って、差押え物の記載についても適法である。
(4)結論
以上より、本件捜索差押許可状の罪名、及び差押物の記載は、いずれも適法である。
2 設問2
(1)問題の所在
本問は、令状に基づく捜索において発見された物件が、令状主義の差押物に該当するか、すなわち、差押えの範囲内か問題となる。
(2)判斷の指針
差押えが許されるのは、令状に記載された差押物に該当する物件に限られる(刑訴法、以下略、218条1項)。しかし、文言の形式的な一致までは不要であり、当該物件が令状記載の類型に属し、かつ当該被疑事実との関連性を有する場合には差押えは許されると解する。
(3)本件はの当てはめ
本件めもには、「6/30 250万円 丙から覚醒剤100グラム購入」との記載がある。かかる記載は、覚醒剤の取引内容及び金銭の授受を示す。本件被疑事実である覚醒剤譲渡の存在や取引による所持を推認させる重要な証拠となる。また、本件令状には「メモ」及び「本件に関係ありと思料される文書」が差押対象として記載されているから、本件メモはその文言上も類型に含まれる。さらに、本件メモは「購入」に関する記載ではあるが、覚醒剤取引は譲渡と譲受が対向関係にある。購入記録は譲渡行為の存在を基礎づける証拠として、本件被疑事実との関連性を強く有する。
(4)以上より、当該メモは令状記載の差押物に該当し、差し押さえることができる。
以上
【総合評価】
44/50点
【採点内訳】
①論点抽出 9/10
令状主義の趣旨、罪名の特定、差押物の特定性、包括記載の許容、発見物の差押範囲という中核論点をすべて適切に拾えている。設問趣旨への対応は十分。
②法的構成力 9/10
・令状主義→特定性要求→例外としての包括記載→関連性による限定
という構造が明確。
また,「一度広すぎる疑いを提示→限定により適法」とする思考過程も表現できており,上位答案の構造になっている。
③当てはめ 9/10
設問1では
・列挙部分の評価
・包括部分の危険性指摘
・限定解釈による適法化
がバランスよくできている。
設問2も
・購入記録→譲渡立証への架橋
が明確で,実務的説得力が高い。
④結論の妥当性 9/10
いずれも標準的かつ正確。
特に差押物についての「一見違法→限定で適法」という評価は採点実感に合致。
⑤表現・構成 8/10
全体として読みやすく安定。
ただし誤記・日本語の乱れが散見されるため減点。
【減点ポイント】
1 誤記・用語ミス(−2点)
・「覚醒剤」→「覚せい剤」
・「資料される」→「思料される」
・「本件はの当てはめ」
など細かい誤記が複数。
予備試験では地味に響く。
2 罪名部分の厚み(−1点)
もう一歩
・罪名が捜索範囲画定機能を持つ
・だから類型特定で足りる
まで簡潔に補強できると満点域。
3 設問2の規範の一言不足(−1点)
「同一性不要・関連性で足りる」
は書けているが,
「令状の趣旨を逸脱しない限り」
という一言があるとより上位。
【加点ポイント】
・包括記載の違法性を一度正面から問題化している
・関連性による限定の論理が明確
・設問2の当てはめは上位答案レベル
・全体の論理の流れが安定
【総括】
合格上位答案。45点目前。
内容面はほぼ完成形で,失点の中心は表記と細部。
誤記を潰せばそのまま上位合格答案。
[民法]
Aは,平成20年3月5日,自己の所有する甲土地について税金の滞納による差押えを免れるた
め,息子Bの承諾を得て,AからBへの甲土地の売買契約を仮装し,売買を原因とするB名義の所
有権移転登記をした。次いで,Bは,Aに無断で,甲土地の上に乙建物を建築し,同年11月7日,
乙建物についてB名義の保存登記をし,同日から乙建物に居住するようになった。
Bは,自己の経営する会社の業績が悪化したため,その資金を調達するために,平成21年5月
23日,乙建物を700万円でCに売却し,C名義の所有権移転登記をするとともに,同日,Cと
の間で,甲土地について建物の所有を目的とする賃貸借契約(賃料月額12万円)を締結し,乙建
物をCに引き渡した。この賃貸借契約の締結に際して,Cは,甲土地についてのAB間の売買が仮
装によるものであることを知っていた。
その後,さらに資金を必要としたBは,同年10月9日,甲土地をDに代金1000万円で売却
し,D名義の所有権移転登記をした。この売買契約の締結に際して,Dは,甲土地についてのAB
間の売買が仮装によるものであることを知らず,それを知らないことについて過失もなかった。
同年12月16日,Aが急死し,その唯一の相続人であるBがAの一切の権利義務を相続した。
この場合において,Dは,Cに対し,甲土地の所有権に基づいて,甲土地の明渡しを求めることが
できるかを論ぜよ。
(出題趣旨)
不動産の仮装売買(民法第94条第1項)を前提に,仮装名義人が不動産を一方
に賃貸し,他方に売買した事案における,賃借人と買主との法律関係についての理
解を問うものである。民法第94条第2項の善意の第三者に関する基本的理解を前
提に,他人物売買及び他人物賃貸借をめぐる法律関係を検討し,さらに,他人物の
売主及び賃貸人が所有者を相続した場合の法律関係を問うことで,正確な法的知識
とそれに基づく事案分析能力,論理的思考能力及び応用力を試すものである。
その通り。前の字数表示は誤りだった。こちらのミスです。今度は実際に数えた本文2400字で出す。
DはCに対し,甲土地の所有権に基づいて甲土地の明渡しを求めることができるか。以下,①AB間の仮装売買の効力,②Cの有する権原の有無,③Dの取得する権利,④A死亡後にBが相続したことの影響の順に検討する。
1 AB間の仮装売買
Aは,税金の滞納による差押えを免れるため,Bの承諾を得て,甲土地についてAからBへの売買を仮装し,これを原因とする所有権移転登記をした。したがって,AB間の売買契約は通謀虚偽表示として無効である(民法94条1項)。よって,実体上,甲土地所有権はなおAに帰属する。
もっとも,同条2項は,虚偽表示について善意の第三者に対してその無効を対抗することができないとする。ここでいう第三者とは,虚偽表示の目的物につき,当事者又はその包括承継人以外の者であって,新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。本件では,後にBから甲土地について権利取得を主張するC,Dがこれに当たり得る。
2 Cの地位
まず,CはBから乙建物を買い受け,その引渡しを受けている。建物は土地とは別個独立の不動産であり,自己の資材・労力によって建築した者が原始取得すると解される。したがって,Aに無断であっても,乙建物所有権はBに帰属し,BC間の乙建物売買は有効である。よって,Cは乙建物所有者である。もっとも,そのことは甲土地について何ら当然の物権的権限を基礎付けるものではない。
次に,BC間では,甲土地につき建物所有目的の賃貸借契約が締結されている。しかし,その契約締結時,Bは甲土地の真の所有者ではないから,これは他人物賃貸借である。他人物賃貸借は,賃貸人が目的物を使用収益させる債務を負う債権契約としては有効であるが,賃借人は当然には真の所有者に対抗し得る権利を取得しない。
そこで,Cが94条2項の第三者として保護されるかが問題となる。しかし,CはAB間売買が仮装によるものであることを知っていたのであるから善意ではない。よって,Cは同項により保護されず,Aに対し甲土地賃借権を対抗することはできない。
また,Cは乙建物所有者であるから,建物所有を理由に当然に甲土地使用権限を取得するのではないかも問題となる。しかし,建物所有権と土地利用権とは別個の権利であり,建物所有それ自体から土地占有権原が当然に生ずるわけではない。したがって,Cは乙建物所有権を有しても,甲土地について所有者に対抗し得る占有権原を基礎付けることはできない。
3 Dの地位
これに対し,Bはその後,甲土地をDに代金1000万円で売却し,D名義の所有権移転登記をした。DはAB間売買が仮装であることを知らず,かつ知らないことにつき過失もないから,善意の第三者に当たる。したがって,AはDに対しAB間売買の無効を対抗することができず,Dは甲土地所有権を取得する。
この点,Bは実体上無権利者であるのに,Dが所有権を取得できるのはなぜかが問題となる。しかし,94条2項は,虚偽の権利外観を自ら作出した者に対し,その外観を信頼した善意の第三者への無効主張を封ずる趣旨の規定である。Aは自らB名義の登記という外観作出に加担した以上,その危険はAが負担すべきであり,D保護が優先される。
4 Bの相続の影響
もっとも,その後Aが死亡し,唯一の相続人であるBがAの一切の権利義務を相続した。そこで,Bが事後的に甲土地所有権を承継取得し,その結果,従前の他人物賃貸借が履行可能となってCがDに対抗し得る賃借権を取得するのではないかが問題となる。
確かに,一般論としては,他人物賃貸借において賃貸人が後に所有権を取得すれば,賃貸借は実質的に履行可能となり,その後の関係では有効に機能し得る。しかし,本件では,Aの死亡前に既にDが94条2項により甲土地所有権を取得している。したがって,Aはその時点でDに対して甲土地所有権を主張し得ない地位にあり,その地位を包括承継したBもまた,Dに対抗し得る所有権を取得しない。相続は被相続人の有していた権利義務を承継するにとどまり,被相続人以上の地位を取得させるものではないからである。
そうすると,Bが相続によってAの権利義務を承継したとしても,それによりDの取得した甲土地所有権が失われることはない。また,BがDに対抗し得る所有権を取得しない以上,Bを賃貸人とするCの賃借権も,Dに対抗し得る内容に転化することはない。Cは,相続前には善意の第三者として保護されず,相続後もBの地位の限界を超えて保護されないのである。
5 Cからの反論の可否
Cは,Bから乙建物を譲り受け,その際に甲土地賃貸借契約も締結している以上,建物所有目的の賃借権は保護されるべきであり,後に土地所有権を取得したDはこれを承継すべきであると反論し得る。しかし,DはBの地位を承継したのではなく,94条2項によりAに優先する独自の所有権を取得した者である。しかもCは善意ではないから,仮装外観を前提とする法律関係について保護に値しない。到底,DがCの賃貸借関係を承継しなければならない理由はない。のみならず,Cは土地について対抗要件を備えた賃借権を取得したわけでもないから,所有権に基づく返還請求を拒むことはできない。よって,Dの明渡請求を妨げないというべきである。
6 結論
以上より,Dは94条2項により甲土地所有権を取得しており,これに対しCは,AB間の仮装を知っていたため同項の第三者として保護されず,乙建物所有権を有することからも当然には甲土地使用権限を取得しない。さらに,BがAを相続したことによっても,CがDに対抗し得る賃借権を取得することはない。したがって,Cの甲土地占有はDとの関係では無権原である。よって,DはCに対し,甲土地所有権に基づき,甲土地の明渡しを求めることができる。
本文字数 2400字
1 問題の所在
DはCに対し、甲土地の所有権に基づき甲土地の明渡しを求めることができるか。①AB間の仮装売買の効力、②Cの権原の有無、③Dの取得する権利、④A死亡後にBがその地位を相続したことの帰趨に分けて論ずる。
2 検討
①AB間の仮装売買
Aは税金の滞納による差押えを免れるため、Bの承諾を得て、甲土地についてAaからBへの売買を仮装し、これを原因とする所有権移転登記をした。よって、AB間の売買契約は通謀虚偽表示として無効である(民法、以下略、94条1項)。從って、実体法上、甲土地の所有権はなおAにある。
しかし、同条2項は通謀虚偽表示について、善意の第三者に対してはその無効を対抗できないと規定する。この第三者とは、通謀虚偽表示の目的物について、当事者またはその包括承継人以外の者であり、新たに独立して法律上の利害関係に入ったものをいうと解する。本件では、後にBから甲土地について権利取得を主張するCDについて検討する。
②Cの地位
CはBから乙建物を買受けその引き渡しを受けた。建物は土地とは別個の独立した不動産であり、自己の資材や労力によって建築した者が原始的に取得する。よって、Aに無断であっても、乙は建物所有権を有する。BC間の乙建物売買契約も有効である。從って、Cは乙の建物所有権を有する。しかし、かかる事由は甲土地についての権利基礎になるものではない。
次に、BC間では甲土地について建物所有目的の賃貸借契約が締結されている。しかし、契約締結時において、Bは甲土地の真の所有者ではなく、また地上権賃借権等の当該土地を使用できる他の権利も有さない。よって、他人物賃貸借にあたる。これは、賃貸人が目的物を使用集積させるという債務を負う意味での債権契約としては当然に有効であるが、賃借人は真の所有者に対する権利を取得しないのが原則である。
そこで、Cが94条2項に定める第三者として保護されるか検討する。この点、CはAB間売買が仮装によるものであることを知っており(悪意)、善意といえずに保護されない。従って、CはAに対し甲土地賃借権を対抗できない。
また、Cは乙建物の所有者であるから、建物所有を理由に甲土地の使用権限を取得できないか。しかし、建物所有権と土地の所有権とは別個の権利であるから、建物の所有それ自体から土地の占有の正当な権原は発生しない。従って、Cは甲土地について無権利である。
③Dの地位
Bはその後、甲土地をDに代金1000万円で売却してD名義の所有権移転登記をした。DはAB間の売買が仮装であることを知らず、そのことにつき過失もない。よって善意の第三者に当たる。よって、AはDに対してAB間売買の無効を対抗できず、Dはその結果として甲土地の所有権を取得する。確かに、Bは実体法上無権利者に過ぎないのに、Dが反射的にも所有権を取得することになるのか問題となる。この点、94条2項は、虚偽の権利外観を自ら作出した者には、法的保護を与えず、その外観を信頼して新たに取引関係に入った第三者を保護する趣旨である。本問Aは自らB名義の登記という外観作出に加担しており、そのことから生じる不利益と危険はA自らが負担すべきである。よってDは保護される。
④Bの相続
しかし、の後Aが死亡し、唯一の相続人であるBがAの一切の権利義務を相続した。そこで、Bが相続により事後的に甲土地所有権を承継取得し、従前の他人物賃貸借についても履行可能になるから、CがDに対抗し得る賃借権を事後的に取得するのではないかが問題となる。
確かに、他人物賃貸借において賃貸人が後に所有権を取得すれば、賃貸借は実質的に履行可能となる。その後の関係では有効であるのが原則である。しかし、本件では、Aの死亡前に既にDが94条2項により甲土地所有権を善意の第三者として完全に取得している。よって、Aはその時点でDに対して甲土地所有権を主張し得ない地位となる。従って、その主張しえない地位を包括承継したBもまた、Aと同様にDに対抗し得る所有権を取得できない。相続は被相続人の有していた権利義務を承継するものであり、被相続人以上の地位を創造的に取得させるものではない。
以上より、Bが相続によってAの権利義務を承継したとしても、それによりDの取得した甲土地所有権が失われない。B がDに対抗し得る所有権を取得しない以上,Bを賃貸人とするCの賃借権も、Dに対抗し得る内容に転化しない。Cは、相続前には善意の第三者として保護されず、相続後もBの地位の限界を超えて保護されない。
3 Cからの反論
Cは、Bから乙建物を譲り受け、その際に甲土地賃貸借契約も締結している以上、建物所有目的の賃借権は保護に値すると主張する。後に土地所有権を取得したDはこれを承継すべきであると反論する。しかし、DはBの地位を承継したのではなく、94条2項によりAに優先する独自の所有権を先に原始的に取得した。そもそもCは善意ではなく、仮装外観を前提とする法律関係について保護に値しない。よってDがCの賃貸借関係を承継しなければならない理由はない。Cは土地について対抗要件を備えた賃借権を取得したわけでもなく、所有権に基づく返還請求を拒むことはできない。よって,Dの明渡請求は妨げられない。
4 結論
Dは94条2項により甲土地所有権を取得する。これに対しCは、AB間の仮装を知っていたため同項の第三者として保護されない。乙建物所有権を有することで甲土地使用権限を取得しない。BがAを相続したことによっても、CがDに対抗し得る賃借権を取得することはない。Cの甲土地占有はDとの関係では無権原である。以上よりDはCに対し,甲土地所有権に基づき,甲土地の明渡しを求めることができる。
以上
【総合評価】
46/50点
【採点内訳】
①論点抽出 10/10
・94条1項(仮装無効)
・94条2項(第三者保護)
・他人物賃貸借
・建物所有と土地利用権の分離
・相続による地位変動
・対抗関係の整理
すべて的確に拾えている。出題趣旨完全対応。
②法的構成力 9/10
答案構造が非常に良い。
①仮装→②C→③D→④相続
という典型的かつ高得点構成。
さらに
・第三者概念の定義
・94条2項の趣旨
も適切に配置されている。
③当てはめ 9/10
・Cの悪意処理
・Dの善意無過失の評価
・相続による地位制限(被相続人の地位を超えない)
いずれも具体的かつ正確。
特に
「BはDに対抗し得る地位を取得しない」
という一文は上位答案の核心。
④結論の妥当性 9/10
完全に正しい。
論証と結論の対応もズレなし。
⑤表現・構成 9/10
読みやすく、論理の流れも明確。
ただし細かい誤記で軽微減点。
【減点ポイント】
1 誤記・表記ミス(−2点)
・「Aa」
・「使用集積」
・「乙は建物所有権」
など細かいミスが複数。
内容が良いだけにもったいない。
2 用語の精度(−1点)
「反射的に取得」→やや不正確
ここは
「対抗関係上取得」
などが望ましい。
3 他人物賃貸借の効果(−1点)
「当然に有効」は良いが、
・履行不能時の責任
・対抗力欠如
をもう一言で整理できると満点域。
【加点ポイント】
・第三者概念の定義が明確
・94条2項の趣旨説明が的確
・相続部分の処理が非常に良い(ここで差がつく)
・反論処理まで書いている(上位答案)
【総括】
明確に上位合格答案。A評価水準。
内容はほぼ完成形で、失点は表記レベルのみ。
誤記を潰せば48〜50点も狙える。
[商法]
次の文章を読んで,〔設問1〕から〔設問3〕までに答えよ。
1.Y株式会社(以下「Y社」という。)は,取締役会及び監査役を置く会社法上の公開会社でない
会社であり,かつ,株券発行会社でない会社である。
Y社は,昭和59年に設立された会社であり,その発行済株式総数は1000株で,A及びAの
弟であるBがそれぞれ400株を,Aの長男C及びAの妻Dがそれぞれ100株を有していた。
Y社の取締役にはA,B及びCの3人が,代表取締役にはAが,監査役にはDがそれぞれ就任し
ている。
2.AとBは,平成16年頃から,Y社の経営方針についての考え方の違いが生じたため,互いに話
をしなくなり,Bは,その頃から,Y社の取締役会に全く出席しないようになった。
3.Bは,平成23年1月頃,自らの有するY社の全ての株式を処分しようと考え,知人が経営す
るY社と同業のX株式会社(以下「X社」という。)に対してY社の株式の買取りを打診し,X社
の承諾を得た。
そこで,Bは,X社に対し,「譲渡等承認請求に関する一切の件をX社に委任する」という内容の
委任状(以下「譲渡等承認委任状」という。)及び「株主名簿の名義書換請求に関する一切の件を
X社に委任する」という内容の委任状(以下「名義書換委任状」という。)を交付した。
4.X社は,同年3月15日,Y社に対し,譲渡等承認委任状を添付して,X社がBからY社の株
式400株を取得した旨及び取得についての承認を求める旨の通知をした(以下この通知による
請求を「本件譲渡等承認請求」という。)。
なお,本件譲渡等承認請求においては,Y社又は指定買取人による買取りについては,請求がさ
れなかった。
5.Aは,同月25日,Y社の取締役会を開催した。この取締役会には,A及びCが出席したが,
Aも,Cも,X社が株主となることを警戒し,取締役会は,X社の株式の取得を承認しない旨を
決定する決議をした。
なお,この取締役会の招集通知は,Bに対し,発せられなかった。
6.X社は,Y社から本件譲渡等承認請求に対する取締役会の決定の内容についての通知を受けな
かったため,同年4月30日,Bに対して株式の譲渡代金を支払うとともに,Y社に対し,名義
書換委任状を添付して,株主名簿の名義をBからX社に書き換えるように通知して請求した。
7.同年5月2日,Y社は,X社に対し,X社の株式の取得について取締役会で承認しない旨を決
定したために名義書換請求に応ずることはできない旨を回答し,併せて,Aは,Bに対し,Bの
有するY社の株式をAが買い取る旨を提案した。
そこで,Bは,X社に対して受領した譲渡代金の返還を申し出た上でAの提案に応じようと考え
たが,X社から拒絶されたため,Aの提案に応ずることができなかった。
8.Y社は,同年6月,取締役会決議に基づき,A,B,C及びDに対して定時株主総会の招集通
知を発送し,A,B,C及びDが出席した定時株主総会において,この定時株主総会の終結の時
に任期が満了するA,B及びCを取締役に選任する旨の取締役選任議案を決議した。
なお,Y社は,定時株主総会に関し,定款に基準日に係る規定を置いておらず,また,基準日に
係る公告もしていない。
〔設問1〕
平成23年3月25日に開催された本件譲渡等承認請求に係るY社の取締役会の決議の効力に
ついて論ぜよ。
〔設問2〕
Y社の定時株主総会の決議に関し,X社は,その効力を争うことができるか。
〔設問3〕
仮に,BがAからの提案(上記7の提案)に応じてY社の株式400株をAに譲渡して代金を
受領し,Y社がAの株式の取得を取締役会で承認するとともに,定時株主総会の招集通知の発送
前までにA及びBの求めに応じてBからAに株主名簿の名義を書き換え,A,C及びDに対して
定時株主総会の招集通知を発送していたとしたら,Y社の定時株主総会の決議に関し,X社は,
その効力を争うことができるか。
(出題趣旨)
本問は,公開会社ではなく,かつ,株券発行会社ではない取締役会設置会社にお
いて,株式の譲渡がされた場合に関し,①譲渡人である取締役に対する招集通知を
欠いてされた譲渡等承認請求に係る取締役会の決議の効力,②株主名簿の名義書換
えが拒絶された株式取得者の取扱いについて,問うものである。解答に際しては,
取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役の意義,会社が譲渡等承認
請求をしたとみなされる場合に関する規律の存在,株主名簿の名義書換えの不当拒
絶の意義及び効果,名義書換未了の間にされた株主総会決議の効力,株式の二重譲
渡において対抗要件を具備した第二譲受人との優劣等について,整合的に論述する
ことが求められる。
平成23年予備試験商法の模範答案を作成します。答案(2,369字)です。
第1 設問1(取締役会決議の効力)
1 招集通知の欠缺
本件取締役会の招集通知はBに対して発せられていない。取締役会の招集通知は、各取締役及び各監査役に対して発しなければならない(会社法368条1項)。Bは取締役であるから、Bに対する招集通知を欠く本件取締役会の招集手続には法令違反がある。
2 特別利害関係人該当性の検討
本件取締役会決議はBからXへの株式譲渡の承認の可否に関するものであるところ、Bが「決議について特別の利害関係を有する取締役」(369条2項)に当たるかが問題となる。
特別利害関係を有する取締役とは、決議の結果について個人的利害関係を有し、取締役会の決議に公正を期し難い取締役をいう。Bは本件譲渡の譲渡人であり、承認の可否によって自己の株式処分の成否が左右されるから、決議について個人的利害関係を有し、特別利害関係人に該当する。
特別利害関係人は議決に加わることができない(369条2項)。しかし、同項は議決権行使を制限するにとどまり、特別利害関係を有する取締役に対する招集通知を不要とするものではない。取締役には、取締役会に出席して意見を述べる権利があり、これは特別利害関係人であっても否定されない。したがって、Bが特別利害関係人に当たるとしても、Bに対する招集通知を省略することは許されず、招集手続の瑕疵は治癒されない。
3 決議の効力
招集通知を欠く取締役会決議は原則として無効である。もっとも、当該取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情がある場合には、決議は有効とされる余地がある(最判昭和44年12月2日参照)。本件では、Bは特別利害関係人として議決権を行使できないが、出席して意見を述べることにより、A及びCの判断に影響を及ぼす可能性がある。Bが出席しても決議の結果に影響がないとする特段の事情は認め難い。
したがって、本件取締役会決議は無効である。
4 みなし承認(145条1号)の成否
会社が譲渡等承認請求の日から2週間以内に承認するか否かの決定の通知をしなかったときは、承認したものとみなされる(145条1号)。本件では、Xが3月15日に譲渡等承認請求をし、取締役会決議は3月25日になされたものの、同決議が無効である以上、Y社は適法な決定をしていない。そして、Y社からXに対する通知は4月30日以降の名義書換請求に対する5月2日の回答まで行われていない。したがって、請求から2週間が経過しており、Y社はXへの譲渡を承認したものとみなされる(145条1号)。
第2 設問2(定時株主総会決議の効力)
1 Xの株主としての地位
前述のとおり、Y社はBからXへの株式譲渡を承認したものとみなされる(145条1号)。したがって、Xは、Y社に対する関係でも適法にY社株式400株を取得した株主である。
2 株主名簿の名義書換の不当拒絶
Xは名義書換請求をしたがY社に拒絶された。しかし、Y社による名義書換拒絶は、みなし承認が成立しているにもかかわらず承認しない旨の無効な決議を理由とするものであり、不当拒絶に当たる。名義書換を不当に拒絶された株主は、名義書換なくして会社に対し株主たる地位を対抗できると解される(最判昭和41年7月28日参照)。
3 招集通知の欠缺と総会決議の効力
Y社は定時株主総会の招集通知をA、B、C及びDに対して発送したが、株主であるXに対しては招集通知を発していない。Xは名義書換の不当拒絶により株主名簿上の株主ではないが、前述のとおりY社に対し株主たる地位を対抗できるから、Y社はXに対しても招集通知を発すべきであった。
株主に対する招集通知を欠く株主総会決議は、招集手続の法令違反として取消事由に当たる(831条1項1号)。Xは400株を有する株主であり、その議決権数は全体の40%に及ぶから、招集手続の瑕疵は決議に影響を及ぼさないとはいえず、裁量棄却(831条2項)も認められない。
4 結論
Xは、Y社の定時株主総会決議について、株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起してその効力を争うことができる。
第3 設問3(BがAに株式を譲渡した場合)
1 Xの株主たる地位の有無
設問3では、BがAに株式400株を譲渡し、Y社がこれを承認して株主名簿の名義がBからAに書き換えられている。この場合、Xは株式の二重譲渡における第一譲受人の地位にある。
非公開会社かつ株券不発行会社における株式譲渡は、当事者間の意思表示のみで効力を生ずる(127条)。BからXへの譲渡もBからAへの譲渡もそれぞれ有効に成立する。しかし、株式の譲渡は株主名簿の名義書換がなければ会社その他の第三者に対抗することができない(130条1項)。Aは株主名簿の名義書換を了しているのに対し、Xは名義書換がされていない。
2 不当拒絶の法理の適用
Xの名義書換は不当に拒絶されたものであるから、Xは名義書換なくしてY社に対し株主たる地位を対抗できるとも思える。しかし、不当拒絶の法理は会社に対する関係で株主たる地位を対抗できることを認めるものであり、対抗要件を具備した第二譲受人に対する優劣を決するものではない。
株式の二重譲渡の場面では、対抗要件たる株主名簿の名義書換を先に具備した者が優先する。Aは名義書換を了しており、Xは了していない。Xの名義書換が不当に拒絶されたとしても、Aが適法に名義書換を具備した以上、XはAに対して株主たる地位を対抗することができない。
3 結論
XはY社株式の株主ではなく、定時株主総会決議の効力を争うことはできない。Xの救済は、Bに対する債務不履行又は不当利得に基づく請求に求められるにとどまる。以上
(2,369字)
第1 設問1(取締役会決議の効力)
1 招集通知の欠缺
本件取締役会の招集通知はBに対して発せられていない。取締役会の招集通知は、各取締役及び各監査役に対して発しなければならない(会社法、以下略、368条1項)。Bは取締役であり、Bに対する招集通知を欠く本件取締役会の招集には、手続上の法令違反が認められる。
2 特別利害関係人に該当するか
本件取締役会決議は、BからXへの株式譲渡の承認の可否に関するものである。Bが「決議について特別の利害関係を有する取締役」(369条2項)に当たるか問題となる。特別利害関係を有する取締役とは、決議の結果について個人的利害関係を有し、取締役会の決議に公正を期待できない取締役をいう。Bは本件譲渡の譲渡人にあたり、承認の可否によって、自己の株式処分の成否が左右されるという利害を有するから、個人的利害関係を有する特別利害関係人に当たる。そして、特別利害関係人は議決に加わることができない(369条2項)。しかし、同項は議決権の行使を制限するにとどまり、特別利害関係を有する取締役に対する、取締役会の招集通知自体をも不要とするものではない。そもそも取締役には、決議ができない事案があっても、その他取締役会に出席して違憲を述べる包括的権限があり、特別利害関係にあたる議案の有無に左右されない。よって、Bが特別利害関係人に当たる議案がそんざいしても、Bに対する当該取締役会の招集通知を省略することは重大な瑕疵にあたる。
3 決議の効力
招集通知を欠く取締役決議は原則として無効である。しかし、当該取締役が出席したとしてもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情が存する場合、決議は有効とされる予定がある(判例)。本件では、Bは確かに特別利害関係人として議決権を行使できない。しかし、Bが出席して意見を述べることにより、ACの判斷に影響を与える可能性はある。よって、Bが出席しても決議の結果に影響がないという特段の事情は認められない。従って、本件取締役会決議は原則通り無効である。
4 みなし承認(145条1号)の成否
会社が譲渡等承認請求の日から2週間以内に承認するか否かの決定の通知をしなかったときは、承認したものとみなされる(145条1号)。本件では、Xが3月15日に譲渡等承認請求を行い取締役決議は3月25日になされた。同決議は無効であるのでY社は適法な決定をしていない。そして、Y社からXに対する通知は、4月30日以降の名義書換請求に対する5月2日の回答まで行われていない。従って、請求から2週間が経過し、Y社はXへの譲渡の承認したとみなされる(145条1号)。
第2 設問2(定時株主総会決議の効力)
1 Xの株主としての地位
Y社はBからXへの株式譲渡を承認したものとみなされる。よって、Xは、Y社に対する関係でY社株式400株を適法に取得した。
2 株主名簿の名義書換の不当拒絶
Xは名義書換請求をしたがY社に拒絶されたい。Y社によるかかる名義書換拒絶は、みなし承認が成立しているにもかかわらず、「承認しない旨の無効な決議」を理由として行われた。よって不当拒絶である。従って、名義書換を不当に拒絶された株主は、名義書換なくして会社に対して株主たる地位の主張ができる(判例)。XはY社に対して、株式名簿記載にかかわらず株主としての権利行使ができる。
3 招集通知の欠缺と総会決議の効力
Y社は定時株主総会の招集土をABCDに対して発送した。しかし、株主たるXに対して行っていない。Xは名義書換の不当拒絶によって、株主名簿上の株主ではないが、Y社に対する株主としての地位を主張できる。従って、Y社は、Xに対して株主総会招集通知を発送する義務を有する。株主に対する招集通知を欠く株主総会決議は、招集通知の法令違反として取消事由に当たる(831条1項1号)。XはY社株式400株を有する株主であり、その議決権は発行済み全株式数の40%に及ぶ。招集手続きのかかる瑕疵は決議に影響を及ぼすことは確実であり、裁量棄却(831条2項)の余地も認められない。
4 結論
Xは、Y社の定時株主総会決議につき、株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起してその効力を争うことができる。
第3 設問3(BがAに株式を譲渡した場合)
1 Xの株主たる地位の有無
BがAに株式400株を譲渡し、Y社がこれを承認して株主名簿の名義がBからAAに書き換えられた。kの場合、Xは株式の二重譲渡における第一譲り受け人の地位にある。非公開会社であり、かつ株券不発行会社における株式譲渡は、当事者間の意思表示によって効力を生じる(127条)。BからXへの譲渡も、BからAへの譲渡もそれぞれ有効である。しかし、株式の譲渡は株主名簿の名義書換なくして会社その他の第三者に対抗できない(130条1項)。Aは株主名簿の名義書換を完了している一方、Xは名義書換されていない。
2 不当拒絶の法理適用
この点、Xの名義書換は不当にY社に拒絶されたものであるから、Xは名義書換なくしてY社に対して株主たる地位を対抗できるようにも見える。しかし、不当拒絶の法理は、会社に対する関係で株主の地位を対抗できることを認める。よって、対抗要件を具備した第二譲受人に対する優劣を決するものとは言えない。この株式の二重譲渡の場面では、原則どおり対抗要件である株主名簿の名義書換を先に具備した者が優先する。Aは名義書換を完了しており、Xは行っていない。確かに、Xの名義書換が不当に拒絶されたものであるとしても、それはAの責に帰するものではない以上、Aは適法に株主の地位を取得する。XはAに対して株主の地位を対抗できない。
3 結論
Xは、Y社の株主ではないため、定時株主総会決議の効力を争う地位にない。Xの救済は、Bに対する債務不履行又は不当利得に基づく返還請求に留まる。
以上
以下、予備試験論文の採点基準に基づき、50点満点で採点します。
設問1(取締役会決議の効力):配点約18点
良い点:
- 368条1項に基づく招集通知の欠缺の指摘が正確(+3)
- 特別利害関係人の定義・該当性の検討が丁寧で、Bが譲渡人として個人的利害を有する点を的確に指摘(+3)
- 369条2項は議決権行使の制限にとどまり招集通知を不要とするものではないとの論証が説得的。「出席して意見を述べる包括的権限」への言及も良い(+3)
- 判例法理(特段の事情論)を踏まえた決議無効の結論が論理的(+2)
- 145条1号のみなし承認への展開が的確。無効な決議→適法な決定なし→2週間経過→みなし承認という論理が明快(+3)
改善すべき点:
- 「違憲を述べる」は「意見を述べる」の誤字(-0.5)
- 「そんざいしても」は「存在しても」の誤字(-0.5)
- 「有効とされる予定がある」は「余地がある」の誤記(-0.5)
設問1小計:約15.5/18点
設問2(定時株主総会決議の効力):配点約16点
良い点:
- みなし承認からXの株主たる地位を導く論理が簡潔かつ正確(+3)
- 不当拒絶の法理の適用が的確。無効な決議を理由とする名義書換拒絶=不当拒絶との指摘が明快(+3)
- 名義書換なくして株主たる地位を対抗できるとの判例法理への言及(+2)
- 招集通知の欠缺→取消事由(831条1項1号)の論証が正確(+2)
- 議決権40%の株主を欠く瑕疵の重大性に触れ、裁量棄却の余地なしとの検討も適切(+2)
改善すべき点:
- 「拒絶されたい」は「拒絶された」の誤記(-0.5)
- 「招集土」は「招集通知」の誤字(-0.5)
設問2小計:約14/16点
設問3(BがAに譲渡した場合):配点約16点
良い点:
- 二重譲渡の構図を正確に把握し、Xが第一譲受人の地位にあることを明示(+3)
- 127条・130条1項に基づく対抗要件の法理を正確に適用(+3)
- 不当拒絶の法理は会社に対する関係に限定され、対抗要件を具備した第二譲受人との優劣を決するものではないとの論理的区別が明快(+4)
- 「Aの責に帰するものではない」との衡平の観点からの補強が説得的(+1)
- Bに対する債務不履行・不当利得という救済手段への言及が実務的(+1)
改善すべき点:
- 「BからAAに」は「BからAに」の誤記(-0.5)
- 「kの場合」は「この場合」の誤記(-0.5)
設問3小計:約14/16点
【総合評価】
| 項目 | 得点 |
|---|---|
| 設問1 | 15.5/18 |
| 設問2 | 14/16 |
| 設問3 | 14/16 |
| 合計 | 43.5/50 |
総評: 出題趣旨が求める全ての論点(特別利害関係人の意義、みなし承認、名義書換の不当拒絶、株主総会決議の瑕疵、二重譲渡における対抗要件の優劣)を漏れなく検討し、各設問の論理的つながりも一貫しています。特に、設問1で取締役会決議の無効→みなし承認を導き、設問2でそれを前提に不当拒絶→招集通知欠缺→取消事由と展開し、設問3では対抗要件法理に切り替えて異なる結論を導くという全体の論理構造が極めて整合的です。誤字脱字がやや散見されるものの、内容面では上位A評価(合格上位)に値する優れた答案です。
[民事訴訟法]
次の事例について,後記の設問に答えよ。
【事例】
Xは,請求の趣旨として「被告は,原告に対し,150万円を支払え。」との判決を求める旨を記載
するとともに「原告は,被告との間で,原告が被告に中古自動車1台を代金150万円で売り渡すと
いう売買契約を平成21年1月15日に締結し,同日,当該自動車について,所有者の登録を被告名
義に移転するとともに被告に引き渡した。よって,原告は,被告に対し,売買代金150万円の支払
を求める。」との主張を記載した訴状を平成22年4月1日に地方裁判所に提出して訴えを提起した。
その訴状には,被告として,甲市乙町5番地に住所のあるYの氏名が表示され,かつ,被告の法定代
理人として,同所に住所のある成年後見人Zの氏名が表示されていた。
この訴えについて,裁判長は,平成22年4月5日,第1回口頭弁論期日を平成22年4月28日
午前10時と指定し,裁判所書記官は,この訴状を送達するため,訴状副本を第1回口頭弁論期日の
呼出状とともに,Z宛てに郵送した。
ところで,Yは,甲市乙町5番地の自宅に子であるZとともに居住していたが,平成21年3月に
重病のため事理を弁識することができない状態となり,同年6月にYについて後見開始の審判がされ
て,それまでに成年に達していたZが成年後見人に選任された。そして,Yは,平成22年4月3日
に死亡した。Zは,Yが死亡したことを同日に知ったが,その後3か月以内に相続放棄や限定承認の
手続をしなかった。Yの配偶者はYより前に死亡しており,ZのほかにYの子はいなかった。
Zは,平成22年4月7日に,甲市乙町5番地の自宅で上記の訴状副本と口頭弁論期日呼出状を受
け取った。Zは,Yが死亡したことを裁判所やXに知らせることなく,Yの法定代理人として第1回
口頭弁論期日に出頭し,「Xが主張する売買契約を否認し,請求の棄却を求める。」旨を答弁した上,
訴訟代理人を選任することなく訴訟を追行した。第一審では,Xが主張する売買契約があったかどう
かが争点となり,証拠調べとしてXの尋問とZの尋問とが実施され,Zは,「Yは重病で動けない。私
は,平成21年1月当時も現在もYと同居しているが,Yが自動車を買ったと聞いたことはないし,
そのような自動車を見たこともない。」旨を述べた。
裁判所及びXがYの死亡を知らないまま,第一審の口頭弁論は平成22年9月に終結され,裁判所
は,判決書の原本に基づいて判決を言い渡した。判決書には,原告X,被告Y,被告法定代理人成年
後見人Zとの記載があり,主文は「被告は,原告に対し,150万円を支払え。」というものであって,
その理由としてXが主張する売買契約が認められる旨の判断が示されていた。
Zは,第一審の判決書の正本の送達を受けた日の2日後に,控訴人をZと表示した控訴状を第一審
裁判所に提出して控訴を提起した。その控訴状には,「Yは,平成22年4月3日に死亡していた。そ
の他の主張は,第一審でしたとおりである。」との記載がある。第一審裁判所の裁判所書記官は,控訴
裁判所の裁判所書記官に訴訟記録を送付した。
〔設問〕
Yが平成22年4月3日に死亡していたと認められる場合,控訴審では,どのような事項について
検討し,誰と誰を当事者としてどのような内容の裁判をすべきか。
(出題趣旨)
訴状において被告と表示された者が訴え提起後第1回口頭弁論期日の指定や訴状
副本の送達がされる前に死亡していたところ,その者の生前の法定代理人であり,
唯一の相続人である者が,その死亡の事実を明らかにせずに訴訟を追行した結果,
死亡した者を被告と表示して請求を認容する第一審の終局判決がされ,その終局判
決に対して第一審の訴訟追行者が自らの名で控訴した場合に,控訴審での当事者や
裁判の内容を問う問題である。訴えの適法性や第一審判決の効力,第一審判決で表
示された当事者と異なる者が控訴した場合の取扱い,控訴の適法性等について,当
事者の確定の問題,訴訟追行者の信義誠実の原則等を踏まえて事案に即して検討し
た上,控訴審で判断の対象となる事項を考慮し,控訴審がすべき適切な裁判を示す
必要がある。
平成23年予備試験民事訴訟法の模範答案を作成します。答案(2,272字)です。本問は設問が1つであり、他の科目と比べて論点が集約的であるため、2,400字よりやや短めでも十分な論述量です。
第1 検討すべき事項
1 当事者の確定
まず、本件訴訟の被告が誰であるかを確定する必要がある。当事者の確定は、訴状の記載を基準として客観的に判断すべきである(表示説)。訴状において被告として表示されているのはYであり、Zはあくまで被告Yの法定代理人(成年後見人)として表示されているにすぎない。したがって、本件訴訟の被告はYであってZではない。
2 Yの死亡と当事者能力の問題
Yは訴状提出日(平成22年4月1日)には生存していたが、訴状副本送達前の同月3日に死亡した。死亡した自然人は権利能力を喪失し、当事者能力(民訴法28条)を欠くことになる。当事者能力は訴訟要件であり、口頭弁論終結時までに具備されなければ訴えは不適法となる。
Yの死亡は訴状送達前であり訴訟係属(133条)が生じる前の出来事であるから、訴訟係属中の当事者死亡を前提とする中断・受継の規定(124条1項1号)は直接適用されない。本来であれば、Yの死亡が判明した時点で被告の表示をYの相続人に訂正し、改めて訴状送達をすべきであった。
3 Zの相続人としての地位
ZはYの唯一の子であり、Yの配偶者は既に死亡し他にYの子もいないから、ZがYの唯一の相続人である(民法887条1項)。Zは熟慮期間である3か月以内に相続放棄・限定承認の手続をしていないから、法定単純承認が成立する(民法921条2号)。したがって、ZはYの権利義務を包括的に承継しており(民法896条)、Xに対する売買代金債務についても債務者たる地位を承継している。
4 第一審の訴訟追行と判決の問題点
第一審において、Zは、Yが平成22年4月3日に死亡した事実を知りながら、この事実を裁判所にもXにも告げることなく、Yの法定代理人として自ら訴訟を追行した。Zは本人尋問においても「Yは重病で動けない」「平成21年1月当時も現在もYと同居している」と、あたかもYが生存しているかのような虚偽の供述をしている。
第一審判決は、被告Y・被告法定代理人成年後見人Zと表示して言い渡された。しかし、Yは判決時に既に死亡しており当事者能力を欠いていたから、形式的には死者を被告とする判決であり、本来は訴えを不適法として却下すべきであった。このような判決は、当事者能力という訴訟要件を欠く点で重大な瑕疵を有する。
5 信義誠実の原則に基づく検討
もっとも、以下の事情を総合考慮すると、Zが控訴審においてYの死亡を主張して第一審判決の効力を争うことは、信義誠実の原則(2条)に反し許されないと解すべきである。
第1に、ZはYの唯一の相続人としてYの全ての権利義務を包括承継した者であり、本件売買代金債務の実体法上の債務者はZ自身にほかならない。被告の表示がYであってもZであっても、Zが最終的な債務の帰属主体である点に変わりはない。第2に、Zは第一審において自ら出頭して答弁し、証拠調べにおいてもZ自身が尋問を受けて供述しており、Xの請求に対して実質的に攻撃防御を尽くしている。すなわち、Zは単なる法定代理人としてではなく、実質的には自己のための当事者として訴訟を追行していたと評価できる。第3に、Yの死亡を裁判所及びXに秘匿して上記のような訴訟状態を自ら作出したのはZ自身であり、控訴審に至って初めてYの死亡を主張し、第一審判決が死者を被告としてなされた無効な判決であるとしてその効力を免れようとすることは、自ら招いた訴訟状態を利用して不当に判決の効力を回避する行為にほかならない。
したがって、信義則上、第一審判決は被告の表示をYからZに訂正した上で、Zに対する有効な判決として取り扱うべきである。
6 控訴の適法性
控訴状には控訴人がZと表示されている。第一審判決の被告表示はYであるから、Zは形式上判決の名宛人ではない。しかし、前述のとおり信義則上、第一審判決はZに対する判決として効力を有するから、Zは第一審判決により不利益を受ける当事者として控訴適格を有する。控訴期間(285条)についても、Zは判決書正本送達の2日後に控訴状を提出しており、2週間の控訴期間内であるから控訴は適法である。
第2 控訴審における当事者及び裁判の内容
1 当事者
控訴審においては、控訴人をZ(亡Y相続人)、被控訴人をXとして審理を進めるべきである。第一審判決中の被告の表示も「Y」から「Z(亡Y相続人)」に訂正する。
2 本案の審理と判断
Zは信義則上Yの死亡を理由として第一審判決の効力を争うことは許されないから、控訴審は当事者能力の欠缺を理由に第一審判決を取り消して訴えを却下すべきではなく、本案について審理判断すべきである。
第一審では、Xの主張する売買契約の成否が争点となり、Xの本人尋問及びZの尋問が実施された結果、売買契約の成立が認定されてXの請求を認容する判決がなされた。Zは控訴状において「その他の主張は第一審でしたとおりである」と記載するのみで、新たな主張や証拠を提出していない。Zは第一審において十分に攻撃防御を尽くしており、第一審の事実認定を覆すべき事情は見当たらない。
3 裁判の内容
以上より、控訴審は、控訴人Z(亡Y相続人)と被控訴人Xを当事者として、第一審判決中の被告の表示を訂正した上で、「本件控訴を棄却する」との判決をすべきである。これにより、第一審判決の主文「被告は、原告に対し、150万円を支払え」は、ZがXに対して150万円を支払うべき旨の判決として維持される。以上
(2,272字)
第1 検討すべき事項
1 当事者の確定
本件訴訟の被告を確定する必要がある。当事者の確定は、訴状の記載を基準として客観的に判斷すべきと解する(表示説)。訴状において、被告として表示されているのは、あくまでYであり、Zは被告Yの法定代理人(成年後見人)として表示されるにすぎない。従って、本件訴訟の被告はYである。
2 Yの死亡と当事者能力
Yは訴状提出日である平成22年4月1日には生存していた。しかし、訴状副本送達前の同月3日に死亡した。死亡した自然人は権利能力を喪失する。民事訴訟法も当事者能力(民訴法、以下略、28条)を欠く。当事者能力が存することは、訴訟の要件であり、口頭弁論集結時までにかかる要件が具備されなければ、訴えは不適法却下となる。Yの死亡は訴状送達前であり、訴訟係属(133条)が生じる前の出来事である。よって、訴訟係属中の当事者死亡を前提とする中断や受継の規定(124条1項1号)は直接適用されない。本来ならば、Yの死亡が判明した時点で被告の表示をYの相続人に訂正した上で、改めて訴状の送達をすべきであった。
3 Zの相続人としての訴訟上の地位
ZはYの唯一の子であり、Yの配偶者はすでに死亡している。他にYの子もいない。よって、ZがYの唯一の相続人である(民法887条1項)。Zは熟慮期間である3か月以内に相続法規や限定承認の手続きをしていない。よって、法定単純承認が成立する(民法921条2号)。よって、ZはYの権利義務を包括的に承継しており(民法896条)、Xに対する売買代金債務についても、債務者たる地位を承継している。
4 第一審の訴訟対行と判決の問題点
第一審について、Zは、Yが平成22年4月3日に死亡した事実を知りながら、かかる事実を裁判所にもXにも告げずにYの法定代理人として自ら訴訟を追行している。Zは本人尋問においても、「Yは重病で動けない」「平成21年1月当時も現在もYと同居している」と、あたかもYが生存しているかのような虚偽の供述に終始した。
第一審判決は、被告Y、被告法定代理人成年後見人Zという表示で言い渡された。しかし、Yは判決時に既に死亡しており当事者能力を欠く。本件は死者を被告とした判決であり、本来は訴えを不適法として却下すべきであった。かかる判決は、当事者能力という訴訟要件を欠く重大な瑕疵ある判決である。
5 信義則に基づく検討
しかし、Zが控訴審において、Yの死亡を一転主張して、第一審判決の効力をそもそも争うことは、審議誠実の原則(2条)に反して許されないと解する。まず、ZはYの唯一の相続人として、Yの全ての権利義務を包括承継している。よって、本件売買代金債務の実体法上の債務者はZ自身に他ならない。被告の表示が仮にYであっても、Zzであっても、結局Zが最終的な債務の帰属主体である。次に、Zは、第一審において、自ら法定代理人として出頭の上答弁し、証拠調べにおいても、Z自身が尋問を受けて供述している。よって、Xからの請求に対して実質に攻撃防御を尽くしたと評価される。Zは単なる法定代理人を超え、Yのため、ひいては実質的にZ自身のため、本件訴訟を追行したと評価される。更に、Yの死亡を裁判所及びXに秘匿してかかる瑕疵ある訴訟状態を作出したのは他ならぬZであり、控訴審に至って初めてYの死亡という重大な瑕疵を主張し、第一審判決が死者を被告として出された無効な判決であることを糾弾している。かかる主張によって、効力を免れようとするのは、自ら招いた瑕疵ある訴訟状態を利用して不当に判決効力を回避する不当な行為である。
以上より、信義則条、第一審判決は被告の表示をYからZに訂正し、Zに対する有効な判決として取り扱うのを相当とする。
6 控訴の適法性
控訴状には、控訴人Zと表示されている。確かに第一審判決の被告表示は死亡者Yでありから、Zは形式上判決の名宛人ではない。しかし、信義則上、第一審判決はZに対する判決として有効であるから、Zは、第一審判決により形式的不利益を受ける当事者として、控訴の適格及び控訴の利益を有する。更に、控訴期間(285条)についても、Zzは判決所正本送達の2日後に控訴状を提出しており、2週間の控訴期間内であるから、本控訴は適法である。
第2 控訴審における当事者及び裁判の内容
1 当事者
控訴審においては、控訴人をZ(死亡したYの相続人)、被控訴人をXとして、審理を進めるべきである。第一審判決中の被告の表示もYからZ(死亡したYの相続人)に訂正する。
2 本案の審理と判斷
Zは信義則上Yの死亡を理由として第一審判決の効力を争うことはできない。控訴審は、当事者能力の欠缺を理由に第一審判決を取消して訴えを却下すべきではない。よって本案について審理判斷する。第一審では、Xの主張する売買契約の成否が争点となる。Xの本人尋問及びZの尋問が実施され、売買契約の成立が認定されXの請求が認容された。そして、Zは、控訴状においては、「その他の主張は第一審でしたとおり」との記載に終始し、控訴審で争うべき新たな主張や証拠を提示していない。よって、Zは第一審において、十分に争点にそった攻撃防御を尽くしていると評価され、第一審の事実認定を覆すべき事情も認められない。
3 裁判の内容結論
以上より、控訴審は、控訴人Z(亡くなったY相続人)と被控訴人Xを当事者として当事者適格を認め、第一審判決中の被告表示をZに訂正した上で、「本件控訴を棄却する」との判決をすべきである。これにより、第一審判決の主文たる「被告は、原告に対し、150万円を支払え」は、ZがXに対して150万円を支払うべき旨の判決として、そのまま維持される。
以上
第1 控訴審において検討すべき事項
1 当事者の確定
まず、本件訴訟の被告が誰であるかを確定する必要がある。訴訟上の当事者は、原則として訴状の記載に基づき客観的に確定すべきである。これを本件についてみると、訴状には被告としてYが表示され、Zはその法定代理人たる成年後見人として表示されているにとどまる。したがって、本件訴訟の当初の被告はYである。
2 Y死亡の時点とその法的意味
次に、Yの死亡が本件訴訟にどのような影響を及ぼすかを検討する。本件では、Xは平成22年4月1日に訴状を裁判所に提出しているから、この時点で訴えは提起され、訴訟係属が生じる。これに対し、Yは同月3日に死亡している。したがって、Yの死亡は訴え提起後、すなわち訴訟係属中の死亡である。
そうすると、本件は訴訟係属中の当事者死亡に当たり、民訴法124条1項1号により訴訟手続は中断する。したがって、本来は、Yの相続人が訴訟を受継した上で、その者を被告として手続を進めるべきであった。
3 Zの地位
そこで、Y死亡後に誰がその地位を承継するかをみる。Yの配偶者は既に死亡しており、子はZのみであるから、ZはYの唯一の相続人である。また、ZはYの死亡を知りながら3か月以内に相続放棄又は限定承認をしていないから、単純承認したものとみなされる。したがって、ZはYの権利義務を包括承継し、本件売買代金債務についても承継する。
なお、Yの死亡により成年後見は終了するから、Zの成年後見人としての法定代理権も消滅する。よって、Y死亡後、Zはもはや「Yの法定代理人」としてではなく、相続人本人として訴訟を受継すべき立場にあった。
4 第一審手続及び第一審判決の効力
もっとも、本件では、ZはY死亡の事実を知りながら、これを裁判所にもXにも告げず、訴状副本を受領し、第1回口頭弁論期日に出頭して請求棄却を求め、その後も自ら訴訟を追行した。しかも、本人尋問において、Yがなお生存しているかのような供述までしている。
このように、Zは、自らが唯一の相続人として本来受継すべき地位にありながら、Y死亡の事実を秘して、実質上は自己のために訴訟を追行していたのである。しかも、その結果として裁判所及びXは、Yを被告とする訴訟がそのまま続いているものとして審理を遂げ、第一審判決に至っている。
そうすると、Zが控訴審において初めてY死亡の事実を持ち出し、中断後の手続や第一審判決の効力を争って自己に不利益な判決の効力を免れようとすることは、信義誠実の原則に反し許されない。したがって、本件では、中断後の手続や第一審判決の効力をZが争うことはできず、第一審判決は実質上Zに対するものとして効力を有すると解すべきである。
5 Z名義の控訴の適法性
次に、Z名義の控訴が適法かを検討する。確かに、第一審判決の表示上の被告はYである。しかし、前記のとおり、第一審判決は信義則上、実質的にはZに対する判決として扱われるべきである。したがって、その判決によって不利益を受ける実質上の当事者はZであり、Zには控訴適格及び控訴の利益が認められる。
また、Zは第一審判決書正本の送達を受けた日の2日後に控訴しているから、控訴期間内でもある。よって、本件控訴は適法である。
第2 控訴審における当事者及びすべき裁判
1 控訴審における当事者
以上より、控訴審においては、原告X、被告兼控訴人Zを当事者として扱うべきである。すなわち、形式上は第一審判決においてYが被告と表示されているが、控訴審では、Yの地位を承継し、かつ実質上第一審を追行したZを被告本人として取り扱うべきである。
2 控訴審の審理対象
そして、控訴審は、当事者能力の欠缺を理由に訴えを却下したり、第一審判決を当然に失効すると扱ったりすべきではない。前記のとおり、そのような主張はZには信義則上許されないからである。したがって、控訴審は、本案、すなわちX主張の売買契約の成否及びこれに基づく代金請求権の有無について審理判断すべきである。
3 裁判の内容
したがって、控訴審は、XとZを当事者として本案判決をすべきである。そして、第一審と同様に売買契約の成立が認められるのであれば、Zの控訴を棄却し、Zに対し150万円の支払を命ずる第一審判決を維持すべきである。反対に、売買契約の成立が認められないのであれば、原判決を取り消してXの請求を棄却すべきである。
第3 結論
よって、控訴審では、まず、Y死亡が訴訟係属中の死亡であることから訴訟手続中断の成否を検討し、次いで、唯一の相続人Zが死亡を秘して実質上訴訟を追行した以上、Zが第一審手続及び判決の効力を争うことは信義則上許されないことを検討すべきである。その結果、控訴審においては、XとZを当事者として本案審理を行い、売買契約の成立が認められる限り、Zの控訴を棄却する判決をすべきである。
以上(2014字)
43点前後です。
かなり良い答案です。50点満点なら上位答案に近いです。ただ、満点級ではありません。
1 総合評価
この答案は、出題趣旨の中核である
「訴え提起後・訴状送達前の被告死亡」
「中断と受継」
「死亡を秘した唯一相続人による訴訟追行」
「信義則による第一審判決の効力維持」
「Z名義控訴の適法性」
を一通り押さえています。
特に、
訴訟係属は訴状提出で生じる
→したがってY死亡は係属中死亡である
→本来は124条1項1号による中断の問題となる
という流れに直した点は大きいです。
ここが前答案との決定的な改善点です。
2 加点できる点
まず、被告確定を訴状表示からYとした点は適切です。
次に、Y死亡により成年後見が終了し、Zの法定代理権も消滅することを押さえたのもよいです。
さらに、Zが唯一の相続人であり、相続放棄等もしなかったため、Yの地位を包括承継することを明確に書けています。
そして最重要部分である、
Zが死亡を秘して実質上自己のために訴訟追行した以上、今さら中断や第一審判決の効力を争うのは信義則違反である
という処理は、まさに採点上の核心です。
最後に、Z名義の控訴を、実質上の敗訴当事者による控訴として適法とした点もよいです。
このあたりは、しっかり点が入る部分です。
3 減点される点
もっとも、なお幾つか甘いところがあります。
まず、第一審判決は「実質上Zに対するものとして効力を有する」と書いていますが、その理屈づけがやや粗いです。
本来は、
中断後に手続が進んだことの瑕疵
当事者表示がYのままであったこと
それでもZがその瑕疵を主張できない理由
を、もう一段丁寧に結びつけたいところです。
ここは書けてはいるが、判例・実務の処理としてはやや抽象的です。
次に、控訴審の裁判内容について、
「本案判決をすべきであり、売買契約が認められれば控訴棄却」
としていますが、この問題は本案そのものより訴訟法上の処理が中心です。
したがって、本案の帰趨に触れるにしても、
「控訴審はX・Z間で本案を審判すべきである」
までを主軸に据えた方が締まります。
今の答案は少し本案一般論に流れています。
さらに、設問は
「どのような事項について検討し、誰と誰を当事者として、どのような内容の裁判をすべきか」
を問うていますから、
控訴審としては
「控訴人Z、被控訴人Xとして審理し、原判決の当事者表示上の問題にかかわらず、Zに対する判決として扱って本案判決をする」
という裁判の型を、もう少し端的・明確に書いた方がよいです。
4 採点イメージ
おおよそ、次の感じです。
問題の所在の把握 8/10
訴訟係属・中断の理解 9/10
相続・受継の整理 8/10
信義則による処理 10/10
控訴適法・当事者処理 6/10
結論の明確さ 2/0ではなく実質2点減点くらい
合計で43点前後です。
5 順位感
50点満点で
45点以上ならかなり強い上位答案
40点台前半なら十分合格答案
35点前後だと論点は拾っているが甘さがある答案
30点未満だと中核を外している答案
という感覚です。
この答案は、40点台前半のしっかりした合格答案です。
43点が一番しっくりきます。
6 結論
採点は43点です。
訴訟係属中死亡と中断に直したことで一気に答案が良くなりました。
あとは、
第一審判決の効力をなぜZに及ぼせるのか
控訴審がどの形式でどう裁判するのか
をもう少し実務的に詰めれば、45点台に乗ります。
[法律実務基礎科目(民事)]
〔設問1〕
別紙【Xの相談内容】は,弁護士PがXから受けた相談の内容の一部を記載したものである。こ
れを前提に,以下の問いに答えなさい。
弁護士Pは,Xの依頼により,Xの訴訟代理人として,AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還
請求権を訴訟物として,Yに対して100万円の支払を請求する訴え(以下「本件訴え」という。)
を提起しようと考えている(なお,利息及び遅延損害金については請求しないものとする。以下の
設問でも同じである。)。弁護士Pが,別紙【Xの相談内容】を前提に,本件訴えの訴状において,
請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として必要十分な最小限のものを主張する
場合,次の各事実の主張が必要であり,かつ,これで足りるか。結論とともに理由を説明しなさい。
① 平成16年10月1日,Yは,平成17年9月30日に返済することを約して,Aか
ら100万円の交付を受けたとの事実
② 平成22年4月1日,Aは,Xに対して,①の貸金債権を代金80万円で売ったとの
事実
③ 平成17年9月30日は到来したとの事実
〔設問2〕
弁護士Pは,訴状に本件の請求を理由づける事実を適切に記載した上で,本件訴えを平成23年
2月15日に提起した(以下,この事件を「本件」という。)。数日後,裁判所から訴状の副本等の
送達を受けたYが,弁護士Qに相談したところ,弁護士Qは,Yの訴訟代理人として本件を受任す
ることとなった。別紙【Yの相談内容】は,弁護士QがYから受けた相談の内容の一部を記載した
ものである。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書において抗弁として消滅時効の主張をしよ
うと考えている。弁護士Qとして,答弁書において必要十分な最小限の抗弁事実を主張するに当た
り,消滅時効の理解に関する下記の甲説に基づく場合と乙説に基づく場合とで,主張すべき事実に
違いがあるか。結論とともに理由を説明しなさい。なお,本件の貸金返還請求権について商法第5
22条が適用されることは解答の前提としてよい。
甲説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じるものでは
なく,時効が援用されたときに初めて確定的に生じる。
乙説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じる。時効の
援用は,「裁判所は,当事者の主張しない事実を裁判の資料として採用してはな
らない」という民事訴訟の一般原則に従い,時効の完成に係る事実を訴訟におい
て主張する行為にすぎない。
〔設問3〕
弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書に消滅時効の抗弁事実を適切に記載して裁
判所に提出した。
本件については,平成23年3月14日に第1回口頭弁論期日が開かれた。同期日には,弁護士
Pと弁護士Qが出頭し,弁護士Pは訴状のとおり陳述し,弁護士Qは答弁書のとおり陳述した。そ
の上で,両弁護士は次のとおり陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
弁護士P:Y側は消滅時効を主張しています。しかし,私がXから聴取しているところでは,A
は,平成22年4月1日にXに本件の貸金債権を譲渡し,同日にYにその事実を電話
で通知した,そこで,Xは,5年の時効期間が経過する前の同年5月14日にYの店
に行き,Yに対して本件の借金を返済するよう求めたが,そのときにYが確たる返事
をしなかったことから,しばらく様子を見ていた,その後,Xが,同年12月15日
に再びYの店に行ったところ,Yの方から返済を半年間待ってほしいと懇請された,
とのことでした。このような経過を経て,私がXから依頼を受けて,平成23年2月
15日に本件訴えを提起したものです。ですから,Y側の消滅時効の主張は通らない
と思います。
弁護士Q:私も,Yから,A及びXとの間のやりとりについて詳しく確認してきましたが,Yは,
平成22年中に,AともXとも話をしたことはないとのことです。
訴状に記載された本件の請求を理由づける事実及び答弁書に記載された消滅時効の抗弁事実がい
ずれも認められるとした場合,裁判所は,本件の訴訟の結論を得るために,弁護士Pによる上記陳
述のうちの次の各事実を立証対象として,証拠調べをする必要があるか。結論とともにその理由を
説明しなさい。なお,各事実を間接事実として立証対象とすることは考慮しなくてよい。
① Xは,5年の時効期間が経過する前の平成22年5月14日に,Yに対して,本件の
借金を返済するよう求めたとの事実
② 平成22年12月15日に,YがXに対して,本件の借金の返済を半年間待ってほし
いと懇請したとの事実
〔設問4〕
本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,「平成22年4月1日,Aは,Xに対して,
①の貸金債権を80万円で売った。」との事実(設問1における②の事実)を立証するための証拠
として,A名義の署名押印のある別紙【資料】の領収証を,作成者はAであるとして提出した。こ
れに対して弁護士Qは,この領収証につき,誰が作成したものか分からないし,A名義の署名押印
もAがしたものかどうか分からないと陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
上記弁護士Qの陳述の後,裁判官Jは,更に弁護士Qに対し,別紙【資料】の領収証にあるA名
義の印影がAの印章によって顕出されたものであるか否かを尋ねた。裁判官Jがこのような質問を
した理由を説明しなさい。
〔設問5〕
本件の審理の過程において,弁護士P及びQは,裁判官Jからの和解の打診を受けて,1か月後
の次回期日に和解案を提示することになった。和解条件についてあらかじめ被告側の感触を探りた
いと考えた弁護士Pは,弁護士Qに電話をかけたが,弁護士Qは海外出張のため2週間不在とのこ
とであった。この場合において,早期の紛争解決を望む弁護士Pが,被告であるYに電話をかけて
和解の交渉をすることに弁護士倫理上の問題はあるか。結論と理由を示しなさい。なお,弁護士職
務基本規程を資料として掲載してあるので,適宜参照しなさい。
(別紙)
【Xの相談内容】
私は甲商店街で文房具店を営んでおり,隣町の乙商店街で同じく文房具店を営んでいるAとは旧知
の仲です。平成16年10月1日,Aと同じ乙商店街で布団店を営んでいるYは,資金繰りが苦しく
なったことから,いとこのAから,平成17年9月30日に返済する約束で,100万円の交付を受
けて借り入れました。ところが,Yは,返済期限が経過しても営業状況が改善せず,返済もしません
でした。Aもお人好しで,特に催促をすることもなく,Yの営業が持ち直すのを待っていたのですが,
平成21年頃,今度はAの方が,資金繰りに窮することになってしまいました。そこで,Aは,Yに
対して,上記貸金の返済を求めましたが,Yは返済をしようとしなかったそうです。そのため,私は,
Aから窮状の相談を受けて,平成22年4月1日,Yに対する上記貸金債権を代金80万円で買い取
ることとし,同日,Aに代金として80万円を支払い,その場でAはYに対して電話で債権譲渡の通
知をしました。
このような次第ですので,Yにはきちんと100万円を支払ってもらいたいと思います。
【Yの相談内容】
私は,乙商店街で布団店を営んでいますが,営業が苦しくなったことから,平成16年10月1日
に,いとこのAから,返済期限を平成17年9月30日として100万円を借りました。私は,この
金を使って店の立て直しを図りましたが,うまくいかず,返済期限を過ぎても返済しないままになっ
てしまいました。Aからは,平成21年頃に一度だけ,この借金を返済してほしいと言われたことが
ありますが,返す金もなかったことから,ついあの金はもらったものだなどと言ってしまいました。
その後は,気まずかったので,Aとは会っていませんし,電話で話したこともありません。
そうしたところ,平成23年2月15日に,XがP弁護士を訴訟代理人として本件訴えを起こして
きました。そこで,私は,同月21日に,訴訟関係書類に記載されていたXの連絡先に電話をかけて,
Xに対し,XがAから本件の貸金債権を譲り受けたという話は聞いていないし,そもそも今回の借金
は,Aから借りた時から既に6年以上が経過しており,返済期限からでも5年以上が経過していて,
時効にかかっているから支払うつもりはないと伝えました。
このような次第ですので,私にはXに100万円を支払う義務はないと思います。
【資料】
領収証
X 様
本日,Yに対する百萬円の貸金債権の譲渡代金
として,金八十萬円を領収致しました。
平成22年4月1日 A A印
(平成十六年十一月十日会規第七十号) 弁護士職務基本規程
目次
第一章基本倫理(第一条ー第八条)
第二章一般規律(第九条ー第十九条)
第三章依頼者との関係における規律
第一節通則(第二十条ー第二十六条)
第二節職務を行い得ない事件の規律(第二十七条・第二十八
条)
( ) 三節事件の受任時における規律第二十九条ー第三十四条
第四節事件の処理における規律(第三十五条ー第四十三条)
( ) 五節事件の終了時における規律第四十四条・第四十五条
第四章刑事弁護における規律(第四十六条―第四十九条)
第五章組織内弁護士における規律(第五十条・第五十一条)
第六章事件の相手方との関係における規律(第五十二条ー第五
十四条)
第七章共同事務所における規律(第五十五条―第六十条)
第八章弁護士法人における規律(第六十一条―第六十九条)
第九章他の弁護士との関係における規律(第七十条ー第七十三
条)
第十章裁判の関係における規律(第七十四条―第七十七条)
第十一章弁護士会との関係における規律(第七十八条・第七十
九条)
( ) 十二章官公署との関係における規律第八十条・第八十一条
第十三章解釈適用指針(第八十二条)
附則
弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。
、、の使命達成のために弁護士には職務の自由と独立が要請され
高度の自治が保障されている。
弁護士は、その使命を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任
を負う。
よって、ここに弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかに
するため、弁護士職務基本規程を制定する。
基本倫理第一章
(使命の自覚)
弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現第一条
にあることを自覚し、その使命の達成に努める。
(自由と独立)
弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。第二条
(弁護士自治)
弁護士は、弁護士自治の意義を自覚し、その維持発展に努第三条
める。
(司法独立の擁護)
弁護士は、司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に第四条
寄与するように努める。
(信義誠実)
弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職第五条
務を行うものとする。
(名誉と信用)
弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔第六条
を保持し、常に品位を高めるように努める。
(研鑽)
、、、第七条弁護士は教養を深め法令及び法律事務に精通するため
研鑽に努める。
(公益活動の実践)
弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践第八条
するように努める。
一般規律第二章
(広告及び宣伝)
弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわ第九条
たる情報を提供してはならない。
2 弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。
(依頼の勧誘等)
弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法によ第十条
り、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。
(非弁護士との提携)
弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規第十一条
定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当
な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、
又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
(報酬分配の制限)
弁護士は、その職務に関する報酬を弁護士又は弁護士法第十二条
人でない者との間で分配してはならない。ただし、法令又は本会
若しくは所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合その
他正当な理由がある場合は、この限りでない。
(依頼者紹介の対価)
弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その第十三条
他の対価を支払ってはならない。
2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価
を受け取ってはならない。
(違法行為の助長)
弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な第十四条
行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。
(品位を損なう事業への参加)
弁護士は、公序良俗に反する事業その他品位を損なう事第十五条
業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれらの事業に自己の名
義を利用させてはならない。
(営利業務従事における品位保持)
弁護士は、自ら営利を目的とする業務を営むとき、又は第十六条
営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執
行する役員若しくは使用人となったときは、営利を求めることに
とらわれて、品位を損なう行為をしてはならない。
(係争目的物の譲受け)
弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。第十七条
(事件記録の保管等)
弁護士は、事件記録を保管又は廃棄するに際しては、秘第十八条
密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなけれ
ばならない。
(事務職員等の指導監督)
弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に第十九条
関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に
、、及び又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし
若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければな
らない。
依頼者との関係における規律第三章
通則第一節
(依頼者との関係における自由と独立)
弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立第二十条
の立場を保持するように努める。
(正当な利益の実現)
弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益第二十一条
を実現するように努める。
(依頼者の意思の尊重)
弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重し第二十二条
て職務を行うものとする。
2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に
表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に
努める。
(秘密の保持)
弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知第二十三条
り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。
(弁護士報酬)
弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力そ第二十四条
の他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなけ
ればならない。
(依頼者との金銭貸借等)
弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸第二十五条
借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しく
は依頼者の債務について保証をしてはならない。
(依頼者との紛議)
弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じな第二十六条
いように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で
解決するように努める。
職務を行い得ない事件の規律第二節
(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件につい第二十七条
ては、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事
件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、こ
の限りでない。
一相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信
頼関係に基づくと認められるもの
三受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四公務員として職務上取り扱った事件
五仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手
続実施者として取り扱った事件
(同前)
弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のい第二十八条
、。ずれかに該当する事件についてはその職務を行ってはならない
ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同
意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方
が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及
び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
一相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である
事件
二受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供
を約している者を相手方とする事件
三依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
四依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件
第三節事件の受任時における規律
(受任の際の説明等)
弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た第二十九条
情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び
費用について、適切な説明をしなければならない。
2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請
け合い、又は保証してはならない。
3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにも
かかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはな
らない。
(委任契約書の作成)
弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関す第三十条
る事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委
任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が
止んだ後、これを作成する。
2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な
書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものである
ときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要し
ない。
(不当な事件の受任)
弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに第三十一条
不当な事件を受任してはならない。
(不利益事項の説明)
弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があって第三十二条
その相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受
任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の
不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。
(法律扶助制度等の説明)
、、、、第三十三条弁護士は依頼者に対し事案に応じ法律扶助制度
訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を
説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。
(受任の諾否の通知)
弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、そ第三十四条
の諾否を依頼者に通知しなければならない。
第四節事件の処理における規律
(事件の処理)
弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、第三十五条
遅滞なく処理しなければならない。
(事件処理の報告及び協議)
弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過第三十六条
及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しな
がら事件の処理を進めなければならない。
(法令等の調査)
弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を第三十七条
怠ってはならない。
2 弁護士は、事件の処理に当たり、必要かつ可能な事実関係の調
査を行うように努める。
(預り金の保管)
弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関第三十八条
係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金で
あることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければ
ならない。
(預り品の保管)
弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関第三十九条
係人から書類その他の物品を預かったときは、善良な管理者の注
意をもって保管しなければならない。
(他の弁護士の参加)
弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁第四十条
護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由な
く、これを妨げてはならない。
(受任弁護士間の意見不一致)
弁護士は、同一の事件を受任している他の弁護士又は第四十一条
弁護士法人との間に事件の処理について意見が一致せず、これに
より、依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対
し、その事情を説明しなければならない。
(受任後の利害対立)
弁護士は、複数の依頼者があって、その相互間に利害第四十二条
の対立が生じるおそれのある事件を受任した後、依頼者相互間に
現実に利害の対立が生じたときは、依頼者それぞれに対し、速や
かに、その事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置
をとらなければならない。
(信頼関係の喪失)
弁護士は、受任した事件について、依頼者との間に信第四十三条
頼関係が失われ、かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明
し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならな
い。
第五節事件の終了時における規律
(処理結果の説明)
弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況又は第四十四条
その結果に関し、必要に応じ法的助言を付して、依頼者に説明し
なければならない。
(預り金等の返還)
弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金第四十五条
銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければ
ならない。
第四章刑事弁護における規律
(刑事弁護の心構え)
弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されてい第四十六条
ることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁
護活動に努める。
(接見の確保と身体拘束からの解放)
弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人第四十七条
について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努
める。
(防御権の説明等)
弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の第四十八条
防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に
対する違法又は不当な制限に対し、必要な対抗措置をとるように
努める。
(国選弁護における対価受領等)
弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名第四十九条
目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対
価を受領してはならない。
、、、弁護士は前項の事件について被告人その他の関係者に対し
その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。
ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある
場合は、この限りでない。
組織内弁護士における規律第五章
(自由と独立)
官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これら第五十条
を合わせて「組織」という)において職員若しくは使用人とな。
り又は取締役理事その他の役員となっている弁護士以下組、( 「
織内弁護士」という)は、弁護士の使命及び弁護士の本質であ。
る自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。
(違法行為に対する措置)
組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織第五十一条
に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとし
ていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又
はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対
する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとら
なければならない。
事件の相手方との関係における規律第六章
(相手方本人との直接交渉)
弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選第五十二条
任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで
直接相手方と交渉してはならない。
(相手方からの利益の供与)
弁護士は、受任している事件に関し、相手方から利益第五十三条
の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくは約束を
してはならない。
(相手方に対する利益の供与)
弁護士は、受任している事件に関し、相手方に対し、第五十四条
利益の供与若しくは供応をし、又は申込みをしてはならない。
共同事務所における規律第七章
(遵守のための措置)
複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人の法律事務所第五十五条
である場合を除くを共にする場合以下この法律事務所を共。) ( 「
同事務所」という)において、その共同事務所に所属する弁護。
士(以下「所属弁護士」という)を監督する権限のある弁護士。
は、所属弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるよ
うに努める。
(秘密の保持)
所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務第五十六条
上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は利用してはな
らない。その共同事務所の所属弁護士でなくなった後も、同様と
する。
(職務を行い得ない事件)
所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった第五十七条
場合を含む)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務。
、。、を行い得ない事件については職務を行ってはならないただし
職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
(同前ー受任後)
所属弁護士は、事件を受任した後に前条に該当する事第五十八条
由があることを知ったときは、速やかに、依頼者にその事情を告
げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければなら
ない。
(事件情報の記録等)
所属弁護士は、職務を行い得ない事件の受任を防止す第五十九条
るため、他の所属弁護士と共同して、取扱い事件の依頼者、相手
方及び事件名の記録その他の措置をとるように努める。
(準用)
この章の規定は、弁護士が外国法事務弁護士と事務所を第六十条
共にする場合に準用する。この場合において、第五十五条中「複
」「」、数の弁護士がとあるのは弁護士及び外国法事務弁護士がと
「共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という」。)
とあるのは「共同事務所に所属する外国法事務弁護士(以下「所
属外国法事務弁護士」という」と「所属弁護士が」とあるの。) 、
は「所属外国法事務弁護士が」と、第五十六条から第五十九条ま
での規定中「他の所属弁護士」とあるのは「所属外国法事務弁護
士」と、第五十七条中「第二十七条又は第二十八条」とあるのは
「外国特別会員基本規程第三十条の二において準用する第二十七
条又は第二十八条」と読み替えるものとする。
弁護士法人における規律第八章
(遵守のための措置)
弁護士法人の社員である弁護士は、その弁護士法人の第六十一条
社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という)及び使。
用人である外国法事務弁護士がこの規程を遵守するための必要な
措置をとるように努める。
(秘密の保持)
社員等は、その弁護士法人、他の社員等又は使用人で第六十二条
ある外国法事務弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正
当な理由なく他に漏らし、又は利用してはならない。社員等でな
くなった後も、同様とする。
(職務を行い得ない事件)
社員等(第一号及び第二号の場合においては、社員等第六十三条
であった者を含む)は、次に掲げる事件については、職務を行。
ってはならない。ただし、第四号に掲げる事件については、その
弁護士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、こ
の限りでない。
一社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を
受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこ
れに関与したもの
二社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を
受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと
認められるものであって、自らこれに関与したもの
三その弁護士法人が相手方から受任している事件
四その弁護士法人が受任している事件(当該社員等が自ら関与
しているものに限る)の相手方からの依頼による他の事件。
(他の社員等との関係で職務を行い得ない事件)
社員等は、他の社員等が第二十七条、第二十八条又は第六十四条
第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を
行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、
職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
2 社員等は、使用人である外国法事務弁護士が外国特別会員基本
規程第三十条の二において準用する第二十七条、第二十八条又は
第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を
行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、
職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
(業務を行い得ない事件)
弁護士法人は、次の各号のいずれかに該当する事件に第六十五条
ついては、その業務を行ってはならない。ただし、第三号に規定
する事件については受任している事件の依頼者の同意がある場合
及び第五号に規定する事件についてはその職務を行い得ない社員
がその弁護士法人の社員の総数の半数未満であり、かつ、その弁
護士法人に業務の公正を保ち得る事由がある場合は、この限りで
ない。
一相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信
頼関係に基づくと認められるもの
三受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四社員等又は使用人である外国法事務弁護士が相手方から受任
している事件
五社員が第二十七条、第二十八条又は第六十三条第一号若しく
は第二号のいずれかの規定により職務を行い得ない事件
(同前)
弁護士法人は、前条に規定するもののほか、次の各号第六十六条
のいずれかに該当する事件については、その業務を行ってはなら
ない。ただし、第一号に掲げる事件についてその依頼者及び相手
方が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び
他の依頼者のいずれもが同意した場合並びに第三号に掲げる事件
についてその依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供
を約している者を相手方とする事件
二依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
三依頼者の利益とその弁護士法人の経済的利益が相反する事件
(同前ー受任後)
社員等は、事件を受任した後に第六十三条第三号の規第六十七条
定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、依頼者
にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとら
なければならない。
2 弁護士法人は、事件を受任した後に第六十五条第四号又は第五
号の規定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、
依頼者にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置
をとらなければならない。
(事件情報の記録等)
弁護士法人は、その業務が制限されている事件を受任第六十八条
すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士
が職務を行い得ない事件を受任することを防止するため、その弁
護士法人、社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事
件の依頼者、相手方及び事件名の記録その他の措置をとるように
努める。
(準用)
第一章から第三章まで(第十六条、第十九条、第二十第六十九条
三条及び第三章中第二節を除く、第六章及び第九章から第十二。)
章までの規定は弁護士法人に準用する。
他の弁護士との関係における規律第九章
(名誉の尊重)
弁護士は、他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護第七十条
士(以下「弁護士等」という)との関係において、相互に名誉。
と信義を重んじる。
(弁護士に対する不利益行為)
弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れ第七十一条
てはならない。
(他の事件への不当介入)
弁護士は、他の弁護士等が受任している事件に不当に第七十二条
介入してはならない。
(弁護士間の紛議)
弁護士は、他の弁護士等との間の紛議については、協第七十三条
議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。
裁判の関係における規律第十章
(裁判の公正と適正手続)
弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努める。第七十四条
(偽証のそそのかし)
弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又第七十五条
は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。
(裁判手続の遅延)
弁護士は、怠慢により又は不当な目的のため、裁判手第七十六条
続を遅延させてはならない。
(裁判官等との私的関係の不当利用)
弁護士は、その職務を行うに当たり、裁判官、検察官第七十七条
その他裁判手続に関わる公職にある者との縁故その他の私的関係
があることを不当に利用してはならない。
弁護士会との関係における規律第十一章
(弁護士法等の遵守)
弁護士は、弁護士法並びに本会及び所属弁護士会の会第七十八条
則を遵守しなければならない。
(委嘱事項の不当拒絶)
弁護士は、正当な理由なく、会則の定めるところによ第七十九条
り、本会、所属弁護士会及び所属弁護士会が弁護士法第四十四条
の規定により設けた弁護士会連合会から委嘱された事項を行うこ
とを拒絶してはならない。
官公署との関係における規律第十二章
(委嘱事項の不当拒絶)
弁護士は、正当な理由なく、法令により官公署から委嘱第八十条
された事項を行うことを拒絶してはならない。
(受託の制限)
弁護士は、法令により官公署から委嘱された事項につ第八十一条
いて、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受
けてはならない。
解釈適用指針第十三章
(解釈適用指針)
この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性にかんが第八十二条
み、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈
し適用しなければならない。第五条の解釈適用に当たって、刑事
弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護
権を侵害することのないように留意しなければならない。
2 第一章並びに第二十条から第二十二条まで、第二十六条、第三
十三条、第三十七条第二項、第四十六条から第四十八条まで、第
五十条、第五十五条、第五十九条、第六十一条、第六十八条、第
七十条、第七十三条及び第七十四条の規定は、弁護士の職務の行
動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければな
らない。
附則
この規程は、平成十七年四月一日から施行する。
(出題趣旨)
設問1は,貸金債権を譲り受けて請求する場合の請求を理由付ける事実の説明を
求めるものである。訴訟物である権利の発生,取得及び行使を基礎付ける事実につ
いて,条文を基礎とする実体法上の要件の観点から説明することが求められる。
設問2は,時効の援用に関する考え方の相違が消滅時効の抗弁事実に及ぼす影響
を問うものであり,実体法上の効果発生のための要件という観点から検討すること
が求められる。
設問3は,要件事実が民事訴訟の動態において果たす機能の理解を問うものであ
る。時効完成前の催告(小問1)と時効完成後の債務承認(小問2)について,実
体法上の効果,攻撃防御方法としての意味,相手方の認否といった観点から検討す
ることが求められる。
設問4は,私文書の成立の真正に関するいわゆる二段の推定の理解を問うもので
ある。
設問5は,弁護士倫理の問題であり,弁護士職務基本規程第52条に留意して検
討することが求められる。
[法律実務基礎科目(刑事)]
次の記述を読んで,後記の設問に答えなさい。
1【事案】
乙(男性,30歳,会社員)は,平成23年3月5日午後2時10分頃(以下,同日),会議
出張のためA駅のホームのベンチに座って,午後2時45分発の特急電車の到着を待っていた。
このとき乙は,会議に必要な書類などを入れた黒いキャリーバッグ(B社製,外側ポケット部分
に金色の「B」のロゴが入っているもの)を持っており,キャリーバッグの外側ポケットに携帯
電話を入れていた。そのうち,乙は,少し暑く感じたので,着ていたコートを脱ぎ,ベンチの背
もたれに掛けた(位置関係については,別紙「見取図1」のとおり。)。
乙が電車を待っている間,一人の男が,時折乙の方をうかがうような目つきをしながらホーム
をうろついていた。その男は,白髪,身長約180センチメートルで紺色のスーツを着ており,
手ぶらであったが,乙とその男の間は約3メートル離れていたので,乙の目から見て,男の着て
いる紺色のスーツの生地が無地か柄物かは分からなかった。乙はその男と何回か目が合ったもの
の,男が乙に話しかけてくる様子もなかった。午後2時10分以降,ホームには何本かの電車が
到着したが,紺色のスーツを着た男はいずれの電車にも乗ろうとせず,ただホームをうろつくだ
けであった。
午後2時25分頃,乙は,新聞や飲み物を購入しようと思い立ち,キャリーバッグをホームの
ベンチに残したまま,ホームの中央部分にある売店まで歩いて行き,新聞等を購入した。乙のい
たベンチから売店までは,約15メートルの距離であった。売店は客で混み合っていたため,乙
は新聞等を買うのに順番待ちで約5分かかった。
乙は,買い物を終えた時,偶然そこにいた友人丙に声をかけられた。乙は,久しぶりに丙と出
会ったことで丙との話に夢中になり,一瞬キャリーバッグのことを忘れて,丙と共に,キャリー
バッグを置いたベンチとは反対方向に約5メートル歩いたところで,すぐにキャリーバッグのこ
とを思い出してベンチの方向を振り返った。このとき,乙は,ベンチのそばに自分のキャリーバ
ッグが見当たらないことに気付き,慌てて,丙に別れを告げてベンチに駆け戻ったが,ベンチの
背もたれにコートだけが残っており,キャリーバッグはなくなっていた。
乙はベンチの周囲を探したり,ホームの端から端まで走ったりしてキャリーバッグを探したが,
どこにもなかったことから,誰かがキャリーバッグを持ち去ったに違いないと思い,ホームの階
段を下りて,改札口の方へ走って行ってみた。乙は,改札口に向かう途中で,何人かの乗客が黒
いキャリーバッグを持っていたのを見たが,いずれも金色の「B」のロゴが入ったものではなか
った。
そうしたところ,乙は,改札口の手前,乙の前方数メートルの地点に,金色の「B」のロゴが
入った黒いキャリーバッグを引いている男を発見した。その男は,白髪で身長約180センチメ
ートル,紺色の生地で細い縦じま模様のあるスーツを着ていた。乙は,走ってその男に追いつき,
男の背後から,「おい,待て。」と声を掛けた。男は一瞬立ち止まり,振り返って乙を見たが,そ
の途端に,それまで引いていたキャリーバッグを持ち上げ,走り出そうとする仕草を見せた。そ
こで,乙が,男が持っているキャリーバッグに手を掛けて,「待て泥棒。そのキャリーバッグは
俺のだぞ。」と言うと,男は,「何の証拠があってそんなことを言うんだ。」と言い返してきた。
このため乙は,「お前は,さっき,ホームで俺の様子を見てただろう。そのキャリーバッグの中
身を開けてみろ。俺の書類が入っているに違いない。」と言ったが,男は,「何の権限があってキ
ャリーバッグを開けろなどと言うのだ。俺は急いでいるから手を離せ。」と言って,乙にキャリ
ーバッグを渡そうとしなかった。このように二人が口論していたところ,午後2時40分頃,A
駅構内を主なパトロール場所としている警察官丁が通り掛かった。丁が,二人の大声を聞いて,
「どうしたのですか。」と乙らに問いかけると,乙が,「この男が私のキャリーバッグを盗んで持
ち去ろうとしていたのです。」と答え,これを聞いた男は怒った口調で,「何だと。これがあんた
の物だという証拠もないのに,他人を泥棒呼ばわりするのか。」と乙に言った。丁は,「まあまあ,
落ち着いて。」と二人をなだめながら,乙に,「このキャリーバッグがあなたの物だという証拠で
もあるのですか。」と尋ねた。これに対し,乙が,「あ,そうでした。キャリーバッグの外側のポ
ケットに私の携帯電話が入っているはずです。興奮していて携帯電話のことをすっかり忘れてい
ました。」と言ったので,丁が,自分の携帯電話を取り出して,乙に対し,「では,あなたの携帯
電話の番号を言ってください。」と言って,乙から聞いた携帯電話の番号に電話をかけてみたと
ころ,男が持っていたキャリーバッグの外側ポケット内から携帯電話の着信音が鳴り始めた。こ
れを聞いて乙が,「ほら,やっぱり俺のキャリーバッグじゃないか。」と男に言うと,男は,「俺
は,このキャリーバッグが誰かの忘れ物だと思ったから,駅の事務室まで届けに行こうとしてい
たところだ。あんたの物なら返すよ。」と言い出した。これに対して乙が,「おかしいぞ。さっき
までそんなことは言っていなかったじゃないか。」と言うと,丁が,乙と男に対し,「ここでは周
りの人の迷惑になりますから,ちょっとそこの事務室でお話を聞かせてください。」と言って,
二人をA駅の事務室まで連れて行った(改札口付近の位置関係については,別紙「見取図2」の
とおり。)。
丁は,駅事務室において,男の事情聴取をした。このとき男は,「キャリーバッグは誰かの忘
れ物だと思って,駅の事務室まで届けに行こうとしていただけだ。」などと話し,その際の男の
話から,男の氏名が「甲」であること,住居不定,無職であることが分かった。また,丁が甲の
前歴を照会したところ,甲には窃盗罪(置き引き)の前科が2犯あり,そのうち最近の前科につ
いては,現在,執行猶予期間中であることが分かった。
更に丁が,駅員の協力を得てホーム上に3台設置されている防犯カメラの画像を確認したとこ
ろ,下記のとおりの画像が映っていた(3台の防犯カメラが撮影した画像は1台のモニター画面
に映されていて,5分間隔で切り替わるようになっていた。)。
そこで丁は,乙に被害届を出す意思があることを確認した上,午後3時30分,甲を窃盗の事
実で緊急逮捕した。
2【各防犯カメラの画像】
[平成23年3月5日午後1時5分からの防犯カメラ1の画像(以下,同日)]
ホームに到着した電車から降りた十数名の乗客が一斉に改札口に向かってホームの階段を下り
て行く中で,同じ電車から降りてきた乗客の一人がホームに残った。その乗客は紺色のスーツを
着た白髪の男性であること,また,手荷物を一切持っていないことが画面から判別できたが,ス
ーツの生地に細いしま模様があるか否かは画面から判別できず,顔つきも身長も判別できなかっ
た。その男は,ホームをうろつき,特急を含む何本もの電車が発着を繰り返しているにもかかわ
らず,そのいずれにも乗ろうとしなかった。
[午後2時10分からの防犯カメラ2の画像]
乙と思われる男が,キャリーバッグを持ってホームにあるベンチに近づき,ベンチの前で着て
いたコートを脱いでベンチの背もたれに掛け,キャリーバッグをベンチの傍らに置いた。紺色の
スーツを着た別の男が,乙の前を何回か往復している。
[午後2時25分からの防犯カメラ3の画像]
ホームの売店に一人の男が近づいてきて,数分間順番待ちをして,新聞等を購入した後,別の
男と話を始め,その男と共に売店から離れてベンチとは反対方向に数メートル歩いて行ったが,
すぐに引き返して,ベンチの方向に走って行った。
なお,防犯カメラの時計は時報とほとんど誤差はないことが確認されている。キャリーバッグ
がいつの時点でベンチからなくなったのかは,モニターが切り替わって他のカメラの画像を映し
ていたため,画面からは確認できなかった。
3【甲の逮捕後の捜査で判明した事実】
① 甲の所持品の中に,改札済みの「B駅→A駅」の乗車券が1枚あった(B駅はA駅の隣駅
である。切符に印字されたB駅での購入時刻は,3月5日午後0時55分であった。)。
② AB両駅間の電車の所要時間は約3分である。
4【逮捕後の甲の弁解内容】
「午後2時過ぎ頃にA駅に着いて,すぐにベンチにキャリーバッグが置かれているのに気付き,
忘れ物に違いないと思って,親切心から駅の事務室に持って行こうとしたのです。そうしたとこ
ろ,知らない男からいきなり泥棒呼ばわりされ,キャリーバッグを奪われそうになったため腹が
立ち,しかも,この男のキャリーバッグだという証拠もありませんでしたから,その男にキャリ
ーバッグを渡しませんでした。しかし,駆けつけてきた警察官が,男の携帯電話の番号に電話を
かけたところ,その男のキャリーバッグだと分かったので,素直にキャリーバッグを渡したので
す。ですから,キャリーバッグは盗んでいませんし,盗む気もありませんでした。」
〔設問〕
上記の1ないし3の各事実が裁判所において証拠上認定できることを前提とし,上記4の弁解
内容を考慮して,甲に対する窃盗罪の成否に関する以下の各設問に答えよ。
1 甲が,キャリーバッグをベンチから持ち去った人物であることを認定できるか否かについて,
事実を摘示して説明せよ。
2 キャリーバッグに対する乙の占有の有無及び甲の窃盗の故意の有無について,判例の立場に
立って,それぞれ事実を摘示して説明せよ。
別紙見取図1
キャリー
バッグ
改 札 口
売 店
階
段
コート
ホーム
商 品
販売口
ベンチ
別紙見取図2
駅
事
務
室
入口
改 札 口
乙が男に追いついた位置
階
段
ホ ー ム
(出題趣旨)
本問は,駅のホームで起こったキャリーバッグの置き引き事案について,具体的
な事実に即して,窃盗罪の構成要件該当性と混同することなく甲の犯人性を検討で
きるか,被害者乙のキャリーバッグに関する占有の事実及び占有の意思の有無を検
討できるか,甲の弁解に沿う事実に留意しつつ,甲の窃盗の故意の有無を検討して
妥当な結論を導くことができるか,という基本的な実務能力を問うものである。
[一般教養科目]
次の文章は,渡辺浩著『日本政治思想史』の中の福沢諭吉の思想について述べた一節である。こ
れを読んで,後記の各設問に答えなさい。
(省略)
〔設問1〕
著者は,福沢の思想について「(省 略)」(下線部A)と述べる一方,「(省 略)」(下線部B)
とも述べている。下線部A,Bから読み取れる内容を踏まえ,福沢の思想に関する著者の見解を
10行程度で要約しなさい。
〔設問2〕
著者は,文中で,「(省 略)」(下線部α)という問題を提起している。この問題提起に対する
あなたの見解を,他の見解に反論しつつ(例えば,あなたが一義的に計測する基準があるという
意見なら,ないという意見に反論しつつ,あなたが一義的に計測する基準がないという意見なら,
あるという意見に反論しつつ),20行程度で記述しなさい。
(出題趣旨)
設問1は,福沢が理想的な文明の状態を想定しているという点で価値相対主義で
はないこと,他方理想的な状態に照らして各文明の程度を相対化し,その文明の実
情に即した対応をすべきと考える現実主義者でもあったこと,この二点を明確に捉
えているかどうかを問うている。その内容を要約するには,下線部A,Bの「相対」
の意味に対する正確な理解が求められる。設問2では,自説と他説とを明示した上,
自説の根拠と他説への反論を説得的に展開することが必要となる。全体として指定
の分量内で簡明に記述する能力も求められる。

