民法第24問

2022年11月25日(金)

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問題

Aは、Bから3000万円を借り受け、その担保としてAの所有する甲土地及び乙建物(後記の庭石を除いた時合計2900万円)に抵当権を設定して、その旨の登記をした。甲土地の庭には抵当権設定前から、庭石(時価200万円)が置かれていたが抵当権設定登記後、A宅を訪問したCは、同庭石を見て、それが非常に珍しい物であったことから欲しくなり、Aに同庭石を譲ってくれるよう頼んだところ、Aは、これを了承し、Cとの間で同庭石の売買契約を締結し、同庭石は後日引き渡すことにした。このAC間の売買契約を知ったDは、日ごろよりCを快く思っていなかったことから、専らCに嫌がらせをする意図で、Aとの間で同庭石の売買契約を締結して、Cが引渡しを受ける前に、A立会いの下で同庭石をD自らトラックに積んで搬出し、これを直ちにEに転売して、Eに引き渡した。
この事案について、次の問いに答えよ。
1 CE間の法律関係について論ぜよ。
2 Bは、Eに対して物権的請求権を行使したいが、その成立の根拠となるBの主張について考察せよ。
(旧司法試験 平成17年度 第2問)

解答

第1 小問1について
1 Cは甲土地の庭に置かれていた庭石(以下「本件底石」という。)を占有するEに対して、その所有権に基づき、その引渡請求をすることが考えられる。
これに対して、Eは「引渡し」(178条、182条1項) を得ており自己が優先すると反論するだろう。
2 これに対してCとしては、Dがいわゆる背信的悪意者に当たる旨、及び背信的悪意者からの譲受人たるEもその地位を承継しており、「第三者」(178条) に当たらない旨を再反論するものと思われる。そこで、このようなCの主張に理由があるか以下検討する。
(1) まず、Dは専らCに嫌がらせをする目的で本件魔石をAから買い受けており、いわゆる背信的悪意者にならないか問題となる。
では、 このような背信的悪意者に当たるDから譲受けを受けたEは「第三者」に当たるか。
178条は自由競争原理内の取引を規律する規定であるから、「第三者」とは、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する者を指す。そうであれば、背信的悪意者は自由競争原理を逸脱しており、保護すべき利益を欠くから、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」には当たらない。
(2) もっとも、背信的悪意者からの譲受人については別途の考慮を要する。すなわち背信的悪意者は信義則上権利を主張できないだけであって、全くの無権利者ではないし、 反 的に判断すべきだからである。
したがって、背信的悪意者たる地位は当然に承継されるものではなく、背信的悪意者であるか否かは個別的に判断すべきである。
本問でも、E自身が専らCに嫌がらせをする意図で本件庭石を譲り受けたなどという特段の事情がない限り、Eは「第三者」に当たる。以上から、そのような特段の事情が無い限り、「引渡し」を受けたEがCに優先するから、Cの上記請求は認められない。
第2 小問2について
1 Bが本件庭石との関係で主張することが考えられる物権は抵当権のみであるところ、抵当権も物権であることから、物権的請求権たる妨害排請求権の行使は認められる。
Bとしては、この妨害排除請求権の行使として、Eに対して下記の ようにAに対して本件庭石を返還するように求めることが考えられる。なお、本問では、Aの立会いの下で本件庭石がDによって出されており、Aの下へ本件庭石の返還を求めたとしても、再度Aが同様の行為に及ぶ可能性がある。Aによる本件底石を含めた抵当目的物の適切な維持管理が期待できない場合には、例外的にBの下への返還を求めることもできるものと解すべきである。
2 そしてかかるBの主張が認められるためには、①本件庭石に抵当権の効力が及んでいること、②かかる抵当権に妨害状態が生じていること、及び、③かかる抵当権の効力をEに対して対抗することができることが必要である。
3(1) まず、①本件庭石に抵当権の効力が及んでいるか検討する。
本件庭石は、200万円という価格からして、それ自体が独立して取引の客体となるので、甲土地とは独立した存在と認められる。そして、本件庭石は、甲土地に付属し、継続的にその効用を助けるものであるから、「従物」(87条1項)に当たる。
「従物」に抵当権の効力が及ぶとする規定はない。
もっとも、370条は「付加して一体となっている物」(付加一体物) に抵当権の効力が及ぶと定めている。その趣旨は、目的物の交換価値を高めて、抵当権者を保護する点にある。
そうだとすれば、「一体」とは、物理的一体性のみならず、経済的一体性をも含むと考えるべきである。
「従物」は抵当目的物と経済的一体性を有するから、370条によって抵当権の効力が及ぶと解すべきである。
本件庭石は上記のように「物」に当たるから、370条によって抵当権の効力が及ぶ。
(2) そして、被担保債権額が3000万円であるところ、本件磨石(時価200万円)の売却によって甲土地及び乙建物の時価が被担保債権額を下回っており(時価2900万円)、②抵当権に対する妨害が認められることは明らかである。
(3)ア もっとも、本件庭石はDによって甲土地から搬出されている。そこでまず目的不動産から分離されたことによって効力が失われるのではないかという問題があるが、否定すべきである。抵当目的物の交換価値を維持する必要があるし、 一旦効力が及んだ場合に失われるとする理由はないからである。
したがって、分離された物にも抵当権の効力は及ぶ。
ウ もっとも、依然として抵当権の効力が及んでいるとしても、その 効力を第三者に対抗できるか否かは別問題である。
抵当権は登記を対抗要件とする権利であるから、分離物が抵当不動産上に存在し登記による公示力が及ぶ限りで、抵当権の効力を第三者に対抗できると解すべきである。そうすると、一旦分離物が当該不動産から出されれば、抵当権の効力を第三者に対抗することはできなくなると解される。
本問では、本件庭石が甲土地から搬出された後にEへ譲渡されて いるので、「第三者」たるEに対する対抗力が失われており、③原則としてEに対しては抵当権の効力を対抗できない。
ただし、E自身が背信的悪意者であるという事情が認められれば、Eは「第三者」に当たらないから、Bは抵当権の効力を対抗することができる。具体的には、Eが本件庭石に設定された抵当権の存在及び本件石に抵当権の効力が及ばなくなることにより、担保価値が被担保債権を下回りBに損害が生じることを知りながら、専らBに損害を与える目的で本件庭石を譲り受けたというような特段の事情が認められる場合には、Bは抵当権に基づいて、本件庭石を抵当権設定者たるAの下へ返還するよう請求することができる。
以上

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