商法第24問

2022年11月26日(土)

問題解説

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問題

Y株式会社は、種類株式発行会社ではない取締役会設置会社であり、株主数は20名である。Y社の取締役は、平成24年3月1日に株主総会で選任されたX、A、Bの3名であり、Xは同日に取締役会により代表取締役に選定されている。
Y社においては、平成26年3月1日に開催された臨時株主総会においてXが取締役を辞任し、Cが取締役に就任し、同日の取締役会においてAが代表取締役に選定された旨の議事録があり、登記簿上も同内容が記載されているが、いずれの事実も認められない。
Xは、平成26年6月1日、当該臨時株主総会決議の不存在の確認を求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起した。
本件訴訟が係属中の平成26年7月1日、Aは、A、B、Cから構成される取締役会の決議に基づき、取締役の選任を目的とする定時株主総会(以下「本件総会」という。)を招集した。 本件総会においては、総会の目的を理解した上で委任状を作成し、これに基づいて代理人を出席させた株主も含め、株主20名全員が開催に同意し、これに出席した。そして、本件総会においては, 取締役としてA, B, Cの3名を選任する旨の決議(以下「本件決議」という。)がなされた。
以上の事案において、本件決議は有効か。

解答

1 本件総会は、A、B、Cを構成員とする取締役会により招集決定がされ、Aが招集している。しかし、本件では、平成26年3月1日に開催された臨時株主総会においてXが取締役を辞任した事実Cが取締役に就任した事実及び同日の取締役会においてAが代表取締役に選定された事実はそれぞれ認められない。
そうすると、Xが依然として(代表)取締役であり、Cは取締役ではなく、Aも代表取締役ではない(なお、Aを代表取締役に選定する取締役会(会社法(以下、法令名省略)362条2項2号)は、仮に開催されていたとしても、正しく構成された取締役会ではないから、そこでなされた決議は無効である)。
そのため、本件総会の招集を決定した取締役会決議も無効又は不存在であるから、本件総会は、代表取締役でない者が、無効又は不存在の取締役会決議に基づいて招集していることになる(298条4項、349条4項)。
2 そこで、本件決議は不存在(830条1項参照) なのではないか。
株主総会決議が不存在となる場合については明文規定を欠くが、物理的に不存在である場合だけではなく、決議の手続的瑕疵が著しく、そのため決議が法律上存在するとは認められないような場合も含まれると解される。
本件決議は、上記のように、代表取締役ではないAにより、取締役会決議なしに招集された本件総会においてなされているから、手続的瑕疵 が著しく、不存在であるのが原則である。
3 もっとも、本件では、総会の目的を理解した上で委任状を作成し、これに基づいて代理人を出席させた株主も含め、株主20名全員が開催に同意し、本件総会に出席している。このことにより、上記の手続的瑕疵が治療されないか。
招集手続(298条以下)の趣旨は、株主に株主総会への出席の機会を与えるとともにその議事及び議決に参加するための準備の機会を与える点にある。そうだとすれば、株主全員が総会の開催に同意して出席している場合、その利益を放棄していると考えられる。
したがって、かかる場合には、招集手続がなくとも、瑕疵なく総会決議が成立する。ただし、代理人が出席している場合には株主が議題を了知している必要がある。
本件では、法律上の招集手続がなされていないが、株主20名全員が開催に同意し、本件総会に出席しており、代理人を出席させた株主は総会の目的を了知した上で委任状を作成している。このような状況において本件決議がなされているから、上記の手続的瑕疵は治癒される。
したがって、本件決議は有効に成立している。
以上

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