憲法第28問

2023年1月1日(日)

問題解説

問題

Xらは、世界平和を願うA団体の組員であるところ、自衛隊がPKO活動の一環として、B国に派遣されることに反対している。そこで、Xらは、A団体の組員1人とともに「B国への自衛隊派遣反対!」という標題で、自衛隊によるPKO活動を反対する内容のビラ(以下「本件ビラ」という。)を作成し、甲駅南口1階階段付近(以下「本件通路」という。)において、 多数の乗降客や通行人に対して、ビラ多数枚の配布及び拡声器による演説(以下「本件行為」という。)を行った。本件通路は、甲駅の駅舎の一部ではあるが、甲駅の南口と北口をつなぐ連絡通路として、鉄道利用者以外の者も自由に出入りすることができる。甲駅は,利用者が1日平均約15万人であり、Xらが本件行為を行ったのは通勤通学ラッシュの時間帯である午前8時から約20分間であった。その間、甲駅の駅長であるC及びC の要請を受けた警察官は、Xらに対して、本件行為を制止し、駅構内から退去するよう要求したが、Xらは、これに応じず、本件行為を継続した。
Xらは、Cの要求に応じず甲駅に滞留したことが、不退去罪(刑法第130条後段)に該当するとされ、起訴された。
(1) あなたがXらの弁護人となった場合、あなたは、どのような憲法上の主張を行うか。
ただし、Xらが甲駅に滞留した行為が不退去罪の構成要件に該当することは前提としてよい。
(2) 検察側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で、あなた自身の見解を述 べなさい。

解答

第1 小問(1)について
1 Xらの弁護人としては、Xらに不退去罪を適用し、処罰することは、 21条1項に反すると主張するべきである。具体的には、本件行為は表現の自由の行使として違法性が阻却されるから、不退去行為をもって処罰することは許されないと主張すべきである。
2 B国への自衛隊派遣反対というXらの政治的意見を記載した本件ビラ配布及び拡声器による演説は、政治的表現行為であるから、本件行為は表現の自由の行使として、21条1項の保障を受ける。
そして、表現の自由は、自己実現、自己統治の価値が支える重要な権利として尊重されなければならない。また、本件行為は、上記のようにXらの政治的意見が記載されているものであるから、自己統治の価値が端的に表れる場面であり、特に厚く保護されなければならない。また、ビラ配布や演説は、情報の受け手の地位に甘んじている一般国民にとっ て その思想を他人に届ける上で、簡便で有効な手法であり、手厚く保 護されるべきであるから、これを処罰することは、表現の自由に対する重大な制約となる。
したがって、管理権者の意思を害する程度が重大であるなどの特段の事情が認められない限り、原則として、表現の自由の行使として違法性を阻却すべきである。
3 本件行為は、穏当な態様で行われており、また、極めて短時分にとどまるものであるから、甲駅構内の正常な管理権にほとんど実害をもたらさないものといえる。
したがって、管理権者の意思を害する程度が重大であるとはいえず上記特段の事情が認められない。
よって、本件ビラ配布及び拡声器による演説は表現の自由の行使として、その違法性が阻却されるべきである。
にもかかわらず、 Xらに不退去罪を適用し、処罰することは、21条1項に反する。
第2 小間(2)について
1 検察官の反論
これに対して、検察官は、規制対象が表現そのものではなく、表現の手段にすぎないから、表現の自由に対する制約は間接的付随的なものにとどまっている、また、甲駅構内は、鉄道利用者など一般公衆の通行が 支障なく行われるために駅長のもつ管理権が広く認められるべき場所でありいわゆるパブリックフォーラムとはいえないから、表現活動の自由一般に妥当するような理論が規律する場面ではないと反論することが 考えられる。
2 私見
(1) 確かに、本件行為は政治的意見を表明するものであって、表現の自由の保障を受ける。
しかし、本件では、表現そのものを処罰するのではなく、表現の手段、すなわちビラの配布のために建造物から退去しなかったことを処罰することの憲法適合性が問題となっている。その意味で、検察官側 の反論にあるように、間接的付随的な規制にすぎない。そうだとすれぼ、表現そのものを規制するような場合と同様の厳格な審査が要求されるわけではない。
もっとも、表現の手段を処罰する場合であっても、その場所が、表現活動の場として確保されるべきいわゆるパブリックフォーラムである場合には、表現の自由の保障に可能な限り配慮する必要がある。
しかし、検察官側の反論にあるように、駅構内は、鉄道利用者など一般公衆の通行が支障なく行われるべき場所であるといえ、表現活動の場として確保されるべきパブリックフォーラムであると評価することはできない。
よって、原則として表現の自由が保障される場所における言論と同様に解すべき理由はない。
そこで、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものである場合には、これを処罰することは表現の自由を侵害するものではないと解すべきである。
(2) 甲駅は、1日平均約15万人もの利用者がおり、通勤通学ラッシュの時間帯には、多数の利用者が電車を利用するために甲駅に立ち入るのである。このような時間・場所において、C及びCの要請を受けた警察官による退去要求に反して、20分もの間、本件行為を継続したことは、利用者の通行及びCの管理権の妨げとなり得る行為態様であったといえる。
そうだとすれば、本件行為を継続するために甲駅舎内に滞留する行為は、甲駅利用者の利用権及び管理権者の管理権を不当に害するものといわざるを得ない。
3 したがって、Xらに不退去罪を適用し、処罰することは, 21条1項 に反しない。Xの弁護人が主張するような違法性却を認める余地は ないというべきである。
以上

解説音声

問題解答音読

答案