先約優先

【先約優先】014記事目
「先約優先」を行動指針に入れています。先約優先とは、「無条件に、先に交わした約束を優先すること」です。
言葉の意味は、ごく簡単なことです。そして、当たり前のことであります。ところが、自分のこと、そして世の中一般を見ていると、この当たり前のことがそうでない事例が多いわけです。
まず、お客さん相手の仕事の場合を見てみましょう。
たとえば、○月×日△時に、Aさんという顧客との商談予定が入っているとします。
今、Bさんという顧客と商談のアポを取ろうとしているのですが、あいにくBさんは○月×日△時しか空いていないというのです。
Aさんとの取引額は100万円で、一方のBさんとの取引額は1億円だとします。利益率は同じ。
この場合、あなたならどうしますか?ということです。
多くの方、そして私次女も、Aさんとの予定をキャンセルして、Bさんのアポを入れる、と答えてしまうのではないでしょうか。
しかし、よくよく考えて、それが本当に良いのでしょうか?
無理やり合理的に理屈で説明すれば、今のAさんの取引額は100万円かもしれませんが、将来、Aさんが1億円の取引をしてくれる可能性だってあるわけです。
しかしながら、そのようにひねくれて考えなくても、これはキャンセルを食らったAさんがこのことを知ったとき、どのような気持ちになるかを考えれば自明です。そして、何よりも、自分が同じことをされたら自分はどう思うでしょうか。
Aさんのような立場に立った事例が増えてくれば、世間のあなたの評判はどうなるでしょうか?こういった評判は千里を走ります。
確かに、後の相手が超大物で超太客、スティーブ・ジョブズや孫正義、さらにはイーロン・マスクさんかもしれないし、そのアポ断ったら二度とそのチャンスはないかもしれません。
でも、それで良いではないですか。
カネや名声に転んでAさんとの約束を反故にした、その負い目は一生残ります。
ということで、わたしは、先約を反故にして良い場合を、「親の死に目か天皇皇后両陛下とのご面会」くらいに限定して自らに課しています。日本人ですから。ここは唯一の例外で。
次に、対身内(社内)の場合を見てみましょう。
もう少し、現実的にありそうな例を挙げてみましょう。
大口顧客のCさんから連絡があり、□月△日◯時に来てほしいとのことでした。
ところが、当日は社内会議が予定されていて、出席を予定していました。
この場合、ほとんど100パーセントの人が、社内会議をキャンセルして顧客訪問を選ぶでしょう。
社内のことは内輪だと。
顧客こそが大切なのだと。
しかし、その社内会議を仕切っていた人の気持ちはどうでしょう。
その会議で、あなたと話をしたいと思っていた人の気持ちはどうでしょうか?
そのようなことを続けていると、社内に「不都合の澱み」が残ります。
この汚れ、は、簡単には落ちません。帳面消しの飲み会や懇親会をやっても、一度離れた社員の心をまとめるのは、簡単なことではありません。だって、最初に約束をすっぽかしたのは自分なのですから。
さて、対家庭の場合はいかがでしょうか。
仕事と家庭の問題も、同様です。
週末に、家族でディズニーランドに行く約束をしていました。
ところが、直前になって、超大口の顧客、もしくは通常ではご一緒できないレベルの上役(担当役員とか社長とか)からゴルフに誘われてしまいます。
あなたなら、どうしますか?
さて、ここで、プライベートより仕事優先、として家族との約束を破り続けていると、そのうち家族から信頼されなくなってしまいます。
この世でもっとも愛する家族から信頼されなくなるのは辛いことです。
このように、「どちらが大事か」という判断は、目先の利益のことでしかなく、長い目で見ると、どちらが大事か利益になるのか満足するかなどというのは、「誰にも分からないこと」なのだと思い至ります。つまり、家族が優先とか仕事が優先とか、その結果含めてそういうのは、ずっと後でしかよくわからないということなのです。ということで、それならば、予約が入った順番にずらさない、というのが最もよい対処法であろうというわけです。先に入った予定をご縁として大切にする。これだけで、結果なんかどうでもいいじゃないですか。さもしく、後で入った予定のほうが自分にとって得か損かどうか、いちいち値踏みするのは間違っている、というあきらめにも似た境地です。
このように、「先約優先」がもたらすものは、よく考えるとはるかに大きなものがあります。
先約優先は、目先の利益を逃してしまうかもしれません。というか、きっと逃がしています(笑)。その代わり、長い目で見た時その目先の利益をはるかに上回る、多くのものをもたらしてくれます。
第一に、スケジュール管理のミスが少なくなるということです。先約を優先する、ということは、「予定をその場ですぐに決める」ということです。仮押さえをして、優先順位を決める、という工程が無くなります。最後まで、雑な仮の予定で、いつも他力でもっといいことがもたらされるかも、と思っている青い鳥症候群に陥ってしまうため、スケジュール管理のミスも多くなります。落ち着きません。なにしろ、今の予定を上回る自分にとってメリットがあることがもたらされるかもしれない、と浮ついているからです。相手にとっても失礼です。そして、そういう人間は、相手からも、軽んじられ、予定を、ブッチされます(笑)。因果応報というやつです。わたしは、予定がキャンセルされたときには、自分に至らないところがあったと少しだけ反省して、次に進みます。つまり、自分が原因でない自由になった時間を天の恵みとして、本当にやりたかった自分のことに振り向けるわけです。こうやって時間は作り出すものだと思います。
結局、先約優先、は、一度決めたスケジュールを動かさないわけですから、その後の予定の変更をシャットアウトし、予定を確定させ、結果、ダブルブッキングなどの不都合を防ぐことができるのです。
次に、適当な、「守れない約束」はしなくなることが効用として挙げられます。先約優先を心がけると、約束を必ず守る癖が身についていきます。後でキャンセルするということがなくなります。予定を入れたら、必ず履行しなければならない、ということになります。あとで撤回や取消しがきかないというのは、覚悟がいることであり、この覚悟を持って予定を入れる、覚悟がないなというときは、予定を、勇気をもって、入れない、という判断をするということになります。「初めから守れないとわかっている約束」をしなくなります。
こういうのは枚挙にいとまがございません。例えば、目の前の仕事を取りたいがために、無理な条件や納期を約束してしまう。適当なことを、その場のノリや酔った勢いで約束してしまう、などです。このように、誠実さを欠くことから人の縁は、簡単に疎遠になっていくものです。
それから、先約優先を守っていると、相手もきちんと約束をしてくれるようになります。スケジュールはどんどん埋まっていきます。逆に、自らが、必ず約束を守るという評判が高まり、『簡単には会えない人』になっていきます。哲学者のカントは、毎朝決まった時間にきっちりと散歩をしたので、それを近所の人は時計代わりにしたといいますが、このように、行動が習慣化されていると、その人の評判は高まります。何か相談があるときは、その時分に、出待ちしておけばよいわけです。わたしも、実は、この方法は、よく使います。
先約優先とは、「約束を守ってくれる人」という信頼が高まっていく活動です。約束の内容ではなく約束をしたということ自体に価値を見出すことです。先約優先を続けていくことで、
「この人は、物事の大きさや損得で優先順位をつけない」
「交わした約束は必ず守ってくれる」
「自分のことを尊重してくれる」
など、相手や世間からの信用が積み重なっていきます。
信用は、誠実な言動をコツコツと積み重ねていくことでしか、高めることはできません。
そして、こうして積み重なった信用があるからこそ、「この人に頼みたい」という信頼が生まれていくのです。この人に何かを頼みたいというときの一番の前向きな衝動、それが人間としての信頼と信用です。決して、能力や実績や美貌やコストの安さ、ではありません。このことを肝に銘じて活動したいと思います。
先約優先は、『先縁尊重』とも言えます。言うのは簡単ですが、取り組むことは実は非常に難しいこと。徹底はなかなか難しいですが、肝に銘じて取り組んでいきたいです。人は必ずベストのタイミングで、人と会うようにできていると思っています。
目の前の相手を今の地位や能力や年齢や仕事上の重要性などの周りの事情で区別しない。
相手の持っているものではなくて、相手そのものの人間性や可能性、意思や意欲や軸を見て会うかどうか、話すかどうかを決めること。
50年生きていますが、この哲学は間違っていないと思います。
最後まで読んでくださった方に、一つご報告。この記事の公開日時は令和6年(2024年)8月12日(月曜日、山の日の祝日の振り替え休日)午前9時です。この日を、当職の、創業記念日、真の独立記念日としました。これからは、いち事業者です。よろしくお見知りおきを。
以上