民事訴訟法第24問

2022年11月27日(日)

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問題

Xら4名とYは、兄弟であったが、Xら4名は、Yに対して、Y名義の本件土地につき共有持分権に基づく各持分5分の1の所有権移転登記手続を求め、訴訟を提起した。この訴訟において、Xらは、「その土地は、AからXらの先代Bが買い受けBからその子である、Xら4名及びYが相続した」と主張した。これに対して、Yは、本件土地は「AからYが買い取ったものである」と主張した。裁判所は、証拠調べの結果、本件土地は「AからBが買い取ったが、Bがその跡取りとしての地歩を占めていたYに死因贈与したものである」との心証を形成した。
裁判所は、これを認定して、Xの請求を棄却できるか。
(岡山大学法科大学院 平成16年度 第1問)

解答

1 本問では、Xら4名が、本件土地に関し、AからBが購入したものをXら4名及びYが相続したものであると主張しており、一方、Y、AからYが購入したものであると主張している。
これに対し、裁判所は、AからBが購入したものをYに死因贈与したものであるという心証を形成しているが、これは両当事者が主張していない事実である。
2(1) 弁論主義の下では、裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできないのが原則である(弁論主義の第1テーゼ)。なぜなら、民事訴訟は私人間の私権に関する紛争解決を目的とするから、訴訟上も私的自治の原則を尊重し、事実証拠の収集における当事者の権能と責任を認めることが望ましい。また、当事者の主張した事実のみを判決の基礎とすることで、当事者に対する不意打ちも防止できるからである。
本問では、裁判所は当事者が主張していない死因贈与の事実を認定しているから、上記弁論主義の第1テーゼに反するおそれがある。
(2) 次に、弁論主義の第1テーゼの適用される「事実」の範囲をいかに解すべきか。
当事者意思の尊重及び不意打ち防止という弁論主義の趣旨からは、物の存否(訴訟の勝敗)の判断に直結する主要事実にのみ弁論主義を適用すれば足りる。また、間接事実・補助事実は、主要事実との関係では証拠と同様の機能を有するから、間接事実補助事実に弁論主義を妥当させると裁判官に不自然な判断を強いることになり、自由心証主義(247条)に反するおそれがある。
したがって、弁論主義の第1テーゼが適用される「事実」は主要事実に限られるものと解する。
(3) そして、主要事実とは、 基準の明確性の観点から、権利の発生・変更・消滅を定める規範の要件に直接該当する具体的事実を意味するものと解する。
3(1) それでは、Xら・Yが主張している所有権移転の過程(来歴経過)は主要事実に当たるのか。
来歴の内容、特に移転事実は、所有権の帰属という新たな法的効果の存否の判断に直接必要な要件をなす事実であるから、主要事実として扱うべきである。
そうすると、裏を返せば、所有権喪失という法的効果の存否の判断に直接必要な要件をなす事実もまた主要事実であるはずである。
(2) これを本問についてみると、Xら4名は、本件土地はBがAから購入したものをXら4名及びYが相続したものであると主張している。これは、Xら4名の本件土地に関する共有持分権の発生という新たな法的効果の存否の判断に直接必要な要件をなす事実であるから、主要事実である。
他方、裁判所は、本件土地は、BがAから購入したものをYに死因贈与したものであるとの心証を形成している。
これもXら4名の本件土地に関する共有持分権喪失という効果の存否の判断に必要な要件に該当する事実であるから、主要事実である。
したがって、裁判所が、Xら4名及びYの主張していない上記事実を判決の基礎とすることは、弁論主義の第1テーゼに反し許されない。
よって、 裁判所は、心証どおりの事実を認定してXの請求を棄却することはできない。
以上

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