行政法第21問

2022年11月8日(火)

問題解説

問題

法務省に勤務するXは、平成28年7月1日、受刑者に対して暴行を加えたという理由で、法務大臣から停職6月とする旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受けたが、これに納得がいかなかったことから、人事院に審査請求をした。
これに対して、人事院は、平成29年1月14日付けで、本件懲戒処分を6月間停給 月額10分の1の減給処分に修正する旨の判定(以下「本件修正裁決」という。)をした。
Xは、受刑者に対する暴行の事実自体を否認しており、本件修正裁決にも不満をもっているため、取消訴訟を提起しようと考えている。
以上の事案において、Xがいかなる取消訴訟を提起するべきであるかについて、検討しなさい。
【資料】 国家公務員法(昭和22年10月21日法律第120号)(抜粋)
(職員の意に反する降給等の処分に関する説明書の交付) 第89条職員に対し、その意に反して、降給し、降任し、休職し、免職し、その他これに対しいちじるしく不利益な処分を行い、又は懲戒処分を行おうとするときは、その処分を行う者は、その職員に対し、その処分の際、処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない。 2.3 (略) (審査請求) 第90条 前条第1項に規定する処分を受けた職員は、人事院に対してのみ審査請求をすることができる。 2 前条第1項に規定する処分及び法律に特別の定めがある処分を除くほか、職員については、審査請求をすることができない。職員がした申請に対する不作為についても、同様とする。 3 第1項に規定する審査請求については、行政不服審査法第2章の規定を適用しない。 (調査) 第91条第90条第1項に規定する審査請求を受理したときは、人事院又はその定める機関は、直ちにその事案を調査しなければならない。 2~4 (略) (調査の結果採るべき措置) 第92条 前条に規定する調査の結果、処分を行うべき事由のあることが判明したときは、人事院は、その処分を承認し、又はその裁量により修正しなければならない。 2 前条に規定する調査の結果、その職員に処分を受けるべき事由のないことが判明したときは、人事院は、その処分を取り消し、職員としての権利を回復するために必要で、且つ、適切な処置をなし、及びその職員がその処分によって受けた不当な 処置を是正しなければならない。人事院は、職員がその処分によつて失った俸給の弁済を受けるように指示しなければならない。 3 (略) (審査請求と訴訟との関係) 第92条の2 第89条第1項に規定する処分であつて人事院に対して審査請求をす ることができるものの取消しの訴えは、審査請求に対する人事院の裁決を経た後でなければ、提起することができない。

解答

1 Xとしては、本件懲戒処分の取消訴訟と本作修正裁決の取消訴訟を提起することが考えられる。
2(1) 修正裁決により原処分である本件意戒処分は一体として消滅し、人事院による新たな割戒処分がされたと考えると、本件修正裁決の取消訴訟を提起することになる。 一方、原処分である本件懲戒処分がいまだ存続していると考えると、修正裁決の取消訴訟では、本件懲戒処分自体の違法を主張できない(行政事件訴訟法10条2項)。そうだとすれば、処分要件の有無自体を争う意思のあるXとしては、本件懲戒処分の取消訴訟を提起すべきである。
(2) アでは、原処分である本件窓戒処分は、本件修正裁決により消滅しているのか。
イ 国家公務員法(以下「法」という。)によれば、職員は、懲戒処分等、法89条1見所定の処分を受けたときは、人事院に対して審査請求をすることができ(法90条)、人事院がかかる審査請求を受理したときは、人事院又はその定める機関においてその事実を調査し(法91条)、その調査の結果、処分を行うべき事由のあることが判明したときは、人事院は、その処分を承認し、又はその裁量により修正しなければならず(法92条1項)、また、調査の結果、その職員に処分を受けるべき事由のないことが判明したときは、人事院は、その処分を取り消し、職員としての権利を回復するために必要で、かつ適切な処置をし、及びその職員がその処分によって受けた不当な処置を是正しなければならないものとされてい
る(法92条2項)。
ウ 以上の規定からすれば、法は、懲戒処分等の法89条1項所定の処分に対する審査請求の審査については、処分権者が職員に一定の処分事由が存在するとして処分権限を発動したことの適法性及び妥当性の審査と、当該処分事由に基づき職員に対しいかなる法律効果を伴う処分を科するかという処分の種類及び量定の選択、決定に関する適法性及び妥当性の審査とを分けて考えていると解することができる。
そして、当該処分につき処分権限を発動すべき事由が存在すると認める場合には、処分権者の処分権限発動の意思決定そのものについてはこれを承認した上、処分権者が選択、決定した処分の種類及び量定の面について、その適法性及び妥当性を判断し、人事院の裁量によって、以上の点に関する処分権者の意思決定の内容に変更を加えることができるものとし、これを処分の「修正」という用語で表現しているものと解するのが相当である。
エ そうすると、懲戒処分につき人事院の修正裁決があった場合に、 それにより懲戒権者の行った原処分である懲戒処分が一体として取り消されて消滅し、人事院において新たな内容の懲戒処分をしたものと解するのは相当でなく、修正裁決は、原処分を行った懲戒権者の懲戒権の発動に関する意思決定を承認し、これに基づく原処分の存在を前提とした上で、原処分の法律効果の内容を一定の限度のものに変更する効果を生ぜしめるにすぎないものであり、これによ り、原処分は、当初から修正裁決による修正どおりの法律効果を伴う懲戒処分として存在していたものとみなされることになるものと解すべきである。
(3) 本問でも、原処分である本件懲戒処分は、本件修正裁決による修正どおりの法律効果を伴う懲戒処分として存続している。
3 以上から、Xは本件懲戒処分の取消訴訟を提起すべきである。
以上

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