刑事訴訟法第21問

2022年11月10日(木)

問題解説

問題

甲がラップに包んだ大麻樹脂の塊を飲み込んで体内に隠匿している疑いがあるため、捜査機関は、甲の腹部をレントゲン撮影の上、体内に大麻樹脂の塊らしいものが確認できた段階で、甲に下剤を用いて、大麻樹脂の塊を早期に体外に排出させ、これを押収しようと考えた。このような捜査を行うには令状が必要か。必要であるとすれば、どのような令状によるべきか。
(旧司法試験 平成14年度 第1問)

解答

第1 強制処分該当性について
1 甲の腹部をレントゲン撮影の上、体内に大麻樹脂の塊らしいものが確認できた段階で、甲に下剤を用いて、大麻樹脂の塊を体外に排出させ、これを押収する行為(以下「本件捜査」という。)が、「強制の処分」(197条1項ただし書)に該当すれば、「法律に特別の定」が必要となり、また、それに対応する令状が必要になる。
2 「強制の処分」は、強制処分法定主義と令状主義の両面にわたり厳格な法的制約に服させる必要があるものに限定されるべきである。そこで、「強制の処分」たり得るためには、重要な法益に対する侵害・制約が認められる必要がある。もっとも、「強制」という文言からすれば、それだけでは足りず、利益侵害の態様がかかる法益を剥奪する程度まで至っている必要があると解すべきである。
したがって、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な権利・利益に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものをいうと解すべきである。
本件捜査は、レントゲン撮影及び下剤の投与という点で、身体への損傷を伴い、健康状態に障害を及ぼす危険があるため、これを被処分者の同意なく行うことは、個人の意思を制圧し、身体という重要な権利・利益に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為であり、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段といえる。
3 したがって、本件捜査は、「強制の処分」に当たり、「法律に特別の定」が必要となり、また、それに対応する令状が必要になる。
第2 必要な令状の種類について
1 まず、レントゲン撮影及び下剤の投与は体内にある物という証拠物を発見し取得するために行うものであるから、捜索差押えとしての性質を有する。
したがって、捜索差押許可状(218条1項)が必要である。
2 また、レントゲン撮影及び下剤の投与は、身体に生理的・機能的変化を生じさせ、その影響は後日まで及ぶこともある。そして、その方法は、専門的知識・技術を有する鑑定人(鑑定受託者)が鑑定に必要な処分を行うものと同視でき、その際には、人権保障の見地から慎重な手続が要請されている(225条1項、4項、168条3項、4項、6項、131条)。
よって、被疑者の人権保障の観点から鑑定処分許可状(225条3項)も併用することが必要と考える。
3 そして、捜索差押許可状には、捜索すべき場所として「被疑者の身体」、差し押さえるべき物として「嚥下物」等と記載し、捜索差押えに関する条件として、「嚥下物の検査、採取については医師をして医学的に相当と認める方法によること」などと記載するべきである(218条6項準用)。
なお、鑑定処分許可状についても、身体の検査(嚥下物の検査、採取)に関する条件として、「(レントゲン透視又は下剤の投与については)医学的に相当と認められる方法によること」などと記載するべきとする見解もあるが、鑑定処分の方法は専門家である鑑定受託者の裁量に委ねるべきであるし、また、鑑定受託者が当然に安全な方法を選ぶことが前提となっていると思われることから、このような記載は不要である。

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