民事訴訟法第21問

2022年11月6日(日)

問題解説

問題

XはYに200万円を貸し付けていたが、返済期日を過ぎても一向に返済の目処が立たないため、Yの唯一の財産であるZに対する100万円の貸金債権を代位行使する訴訟を提起した。 これに対して乙が提出した答弁書には、XがYに対して200万円を貸し付けた事実はないとして、予備的に訴えの却下を求める旨、及びYのZに対する100万円の貸金債権については、既に時効によって消滅しているとして、予備的に請求の棄却を求める旨が記載されていた。
その後、Xは第1回口頭弁論期日になって、訴えの取下げを申し立てたが、乙はこれに同意しなかった。
(1) Xによりなされた訴えの取下げの効力について論じなさい。
(2) Xによる上記申立ての翌日、Xは、受訴裁判所に対して、「前記取下げは、裁判外でZから脅迫されて行ったもので、真意に基づくものではない。」と主張し、期日指定の申立てをした。この主張が認められる場合、裁判所としてはどのような措置を講ずるべきか。

解答

第1 小問(1)
訴えの取下げは、判決が確定するまでは、これをすることができる(261条1項)。しかし、被告が①「本案について準備書面を提出」すること②「弁論準備手続において申述」すること、又は③「口頭弁論」をすることのいずれかの行為をした後は、被告の同意がないと訴えの取下げはその効力を生じない(同条2項本文)。
本件では、Zによる答弁書の提出があるから、①本案について準備書面を提出したとも考えられる。
しかし、その内容は主位的に訴えの却下を求める本案前の抗弁を提出しつつ、予備的に本案について棄却を求めるものである。
このような本案の答弁は、本案前の抗弁が排斥されることを停止条件とするものであり、確定的に本案の答弁が効力を生じたわけではないから、「本案について準備書面を提出」したとはいえない。また、実質的にも訴えの不適法として排斥を求める者が、取下げを妨げることは許されないというべきである。
したがって、被告による同意は不要である。
2 よって、Zの同意がなくとも、Xによる取下げは有効である。
第2小問(2)
(1) 本件では、XはZから脅迫されたことを理由として、期日指定の申立てをしている。仮に、真実としてXがZから脅迫を受けていたのであれば、強迫(民法96条1項)の規定が類推適用される可能性がある。
(2) しかし、訴訟行為は、訴訟手続の一環をなし手続安定の要請が働く。このような要請から、訴訟行為については、独自の規制の必要性がある。
具体的には、訴訟行為には外観主義、表示主義が強調され、意思表示の規定、特に話など意思主義に立脚する規定は訴訟行為になじまない。
したがって、原則として訴訟行為に意思表示の規定の(類推)適用
(3) もっとも、上記の例外が認められる。
ア まず、刑事上罰せられるべき他人の行為を契機としてなされた訴訟行為は、再審事由に該当する(338条1項5号)重大な瑕疵があるといえる。そうだとすれば、手続内でもその無効を肯定してよい。このため、再審事由に関する規定を類推するのが妥当である。この場合、同条2項の適用はないものと解すべきである。
イ また、その後に他の訴訟行為が重ねられることがなく、かつ意思表示の瑕疵を無視することが不利益を受ける者の権利を害する場合として添えの取下げ、請求の放棄・認諾・和解がある。この場合にも、意思表示の規定の類推適用を肯定すべきである。手続の安定を害するおそれが少なく、当事者の権利保護の要請が強い場合だからである。
2 本件で、Zの脅迫は「刑事上罰すべき他人の行為」に該当し、338条1項5号を類推することで訴えの取下げの効果が否定できるし、民法96条1項の類推適用によってもXの取下げの効果が否定できる。
よって、裁判所は期日指定の申立てに従い、審理を続行すべきである。
以上

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