破格の成果(青森県黒石市議会議員選挙2023)
人間、なんでもできる
せいぜい50票とか言っておった筆者は恥じねばなりません。この結果、面白いものを見せていただきました!尾城徹雄さんに光あれ。
2023年4月22日。
選挙活動最終日。夜はバドミントンの予定だった。
前日に引き続き、朝6時から自転車で走り回る。温湯温泉などの山間地を除く、平地の選挙区を2周し、夕方は幹線道路、日没後は寂れた繁華街をうろうろ。
黒石の歩行者は、犬の散歩をする人、ゴミを出す人、車を運転できない買い物のばっちゃ、そして、学生ぐらい。働き盛りの大人が歩くのは、駐車場と玄関の間でしかない。とにかく、街中には歩行者がいない。歩いていれば、有権者ではない観光客だ。
散歩とゴミ出しの人は6時から7時半で、買い物のばっちゃが歩くのは午前10時ごろ。自転車で回る私の場合、他の候補者の街宣車が眠っている8時前が勝負。
実際、選挙ビラ配りを配る枚数は、朝8時までと8時以降で、どちらも15部ずつぐらい。怪しい姿なので散歩の犬には吠えられてしまうけれど、ゴミ出しの人にはほぼ選挙ビラを受け取ってもらえる。
そして、通勤の車が幹線道路に並ぶのは、朝は7時から8時半ぐらいで、夕方も17時から18時半ぐらい。
朝、散歩中のばっちゃに選挙ビラを渡したら、「独りで選挙活動をやっている人がいると聞いたけれど、あんだが。『そんなのいるわげ、ないっきゃ』と言っだげど、わいは(あれま)、本当にいだ」と驚かれた。そして、「あんだ、朝市に来とるね」と。
政策に「朝市は無形文化財」として、保全・発展を訴えていたけれど、これが的を射ていた。会場のJAの建物が建て替えになるので、朝市を開く場所が見つからず、困っているという。朝市には屋根と駐車場が必要で、適当な場所がないらしい。そういえば、一昨年ぐらいから、ずっと、存亡の話がくすぶっていた。当落にかかわらず、重要な問題だ。
こうして、選挙活動で走り回っていると、黒石の課題がさらにいろいろ見えてくる。歩いているのは、いわゆる「買い物難民」の高齢者で、しかも、ほとんどがスマートフォンを使えない。市道などと同じように、公共通信網の整備とともに、スマートフォンの貸与などが必要なのだろう。
そして、廃校舎が市内に10ぐらいある。統廃合を一気に進めた3年前ぐらいまで現役だったから、中には鮮度が良い体育館がある。しかし、それらを使えるように改修すれば、今度はオリンピック会場級のスポカルイン黒石の利用者が減ってしまうだろう。良い選択肢はなく、「もちぐされ」か「共倒れ」かのどちらかになる。廃墟に手をつけずに新しい建物を造り、競合してしまっている。これはきびしい。
朝の通勤時間帯が過ぎた10時前。有権者がまったくいない田園地帯を、景色を眺めるため走っていた。反対車線を、ヘルメットを被ったジャイアントの自転車乗りが上ってきた。津軽でジャイアントの自転車を扱う店は極めて少ない。すれ違いざまにあいさつをしたら、「期日前であなたに投票しました」と返された。投票済みの人だと、あいさつをしても票の積み増しにはならないけれど、「票を投じた人物に間違いがなかった」ことの確認にはなっただろう。蛇の道は蛇、自転車乗りの道は自転車。
毎日8時間ぐらい自転車で走っていて、昼間になれば車の通行量も減る。しかも、道は狭い。なので、自転車なのに、いや、自転車だからかなり目立つはず。他の候補の街宣車とすれ違うときには、「○○候補の健闘をお祈りします」などと、形式的なあいさつをするのが慣習になっている。
他の街宣車から自分の存在を気が付かれないことは、薄暗くなり、車のヘッドライトが灯る夕方の通勤ラッシュ時ぐらい。だから、街宣車と自転車で、拡声器以外はほぼ対等。自分は拡声器を使っていないけれど、「おしろ候補の健闘をお祈りします」と大きな声で宣伝してもらえるのでありがたい。街宣車に、喜んで手を振ってしまう。
11時に、いつも通りにこみせ駅で津軽三味線を聞く。常駐の佐藤晶さんとは異なり、川村さんは緩い演奏。「十三の砂山」をリクエスト。この曲は、やはり、千葉勝弘先生の演奏が秀逸。「ビヨヨヨーン」と哀愁の響きがある。これは他の人にはまねしにくい特殊な弾き方なのだろう。
続いて、桜の名所、東公園へ。「黒石さくらまつり」をやっている。公園内には街宣車は入れないから、「自転車の独壇場になる」はず、だった。しかし、ソメイヨシノは完全に散り終え、寒風が吹き荒れ、すべてが寒い。売店主や演奏者のほうが多いぐらい。芝生の上に座る聴衆に選挙ビラを配ろうと思ったけれど、品が悪いので断念。看板付きのウバッグを下ろして、客として演奏を聴く。弾き語りのおっさんの「何もしないのが良くない」という歌詞が、自分がやっていることそのもの。この歳になると、誰も同じようなことを考えるのだろう。
飲食店の出店者も、決まった顔ぶれ。客が少ないから、あいさつ代わりに、順番に買わなくてはいけない感じ。肉ばかりで腹が膨れる。
アイスクリーム売りのばっちゃがいたけれど、あの寒さでは、ほとんど売れなかっただろう。このばっちゃは、津軽伝承工芸館に向かう途中、りんご園の脇の国道沿いで立っていて、やはり、売れそうな状況ではない。「売れないこと」への耐性が半端ない感じだ。
さくらまつりは、寒いので途中で撤収。選挙区巡回の2周目に入る。ラジオ番組を聴きながら、街を観察し、さらに哲学もしているので、飽きることはない。
丘陵部のりんご園を走っていたら、りんごがついに開花していた。
今後1週間に霜が降りるぐらい気温が下がると、受粉ができず、壊滅的な不作になる。花粉が飛ばないので、長雨も良くない。しかし、天気予報では、しばらく好天が続くようだ。暖冬で開花時期が早まり、心配されていた凍霜害は起きそうにない。5月初旬はりんご、8月初旬は稲の受粉期で、この時期に低温や長雨になると、黒石に限らず、津軽の経済は大打撃を受ける。
ほぼ10時間走り続け、16時ぐらいに、夜のバドミントンに備えて、40分ほど休憩。脚の筋力を回復させる。
17時から、黒石に戻ってくる車が並ぶ幹線道路を走る。1週間の選挙戦で、そろそろ自分の自転車を見る方も飽きているだろう。特殊な改造をした軽の四輪駆動車には、すでに5回ぐらい遭遇している。向こうも「またか」という感じに違いない。あまりしつこくやり過ぎても新鮮さがなくなる。ちょうど今が、「引き時」という感じだ。
さくらまつり会場でも看板を下ろしたけれど、期日前投票所前での選挙ビラ配りも自粛。今回は期日前投票が多いらしく、会場前を通る度に、会場前に複数の人が歩いている。ここほど選挙ビラを配るのに適した場所はない。しかし、そこまでやってしまうと、余りにもえげつないので、これも自粛。
ということで、日没まで、普通に街中を自転車で走り回る。
夜の寂れた繁華街。「この間、自転車は見かけたけれど、お話したかったです」という、飲食店への納入業者の若者がいた。なかなか引退しない高齢議員への不満をぶちまけていた。その直前には「フェイスブックも読んでいます」という30代ぐらいの人にも遭った。こうして日記を公開していて何だけれど、顔見知り出ない人にまで、このフェイスブックの日記を読まれてしまうのは恥ずかしい。
ということで、公開はしているけれど、宣伝まではしていない。
毎週、土曜日に行っている居酒屋「かあさん」は、選挙で客が来ないだろうと休業。「最後のお願い」を1時間繰り上げて、19時からのバドミントンをやりに行く。しかし、体育館に灯りが点いていない。代表者に連絡すると、「体育館の改修で、休み。連絡せず、すみません」ということだった。
バドミントンだけを楽しみに、朝6時から自転車で走り回っていたのに、とても残念。連日、長時間、自転車に乗っているから膝が痛くて、これ以上、自転車には乗れない。だから、「バドミントンは別脚」という言い訳を考えていた、のに。
ということで、冴えない状況で、選挙活動が終わってしまった。1週間の選挙戦で、戦場になった選挙事務所は荒れ果てた。
独りでやったのは「頼るのが面倒」ということもあるけれど、オリンピックを目指したシングルスカル選手の本に影響を受けたことが大きい。グリップの常識を変えた話などは、特に記憶に残っている。
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選挙戦の「手応え」はあった。
選挙通の情勢判断は、「もしかすると、通るかもしれない」。その内の1人は「まぁ、4年後にがんばれ…」から「もしかすっと、通っかも」になり、最後は「もぉおしかすっと通おおるがもッ」と、日ごとに力が入ってきた。
しかし、375票の大惨敗だった神戸でも「手応え」はあった。自分を応援してくれるような人は、すべての候補者を応援する。経験値がないから、「手応え」はまったく当てにならない。
ただ、「よくやった」ことは間違いないだろう。まったく無謀な選挙に出たこと自体が、まず、「よくやった」。そして、地盤血縁利権で基礎票が固まっている選挙で、他の候補が危機感を持つほどにまで追い込んだので、「よくやった」。
まぁ、何にしても、やって良かった。黒石の人の印象には残っただろう。
当選すれば、安い給料で、責任が思いやっかいな仕事をしなくてはいけない。落選すれば、多少、恥をかくけれど、自由に暮らせる。どちらでも良い。供託金にさえならければ、たった10万円で、人生でも貴重な経験を積めたことになる。30万円の供託金を没取されたにしても、この2週間の経験には、それだけの価値があった。
58歳にもなると、豪華な旅行や飲食などもつまらない。やはり、身を切り刻むような修行がおもしろい。メンタリスト DaiGoが言うように「成功によって報酬を得る。失敗によって学習を得る」。「ぼんやり2週間過ごした」人と比べれば、学習量は圧倒的に多いはず。
ただ、前回の神戸の選挙で得た教訓は「金持ちけんかせず」。戦いを常に避ける生き方が、本当は最善なのだろう。それはわかっちゃいるけれど…。
今回の選挙で失敗したのは、ポスターと新聞の折り込みチラシ。
ポスターは、己のコスプレ写真を「おもしろい」と思ってしまった。その後、ホームページを作っている時に、日清食品の「ラーメンミュージアム」の写真があるのに気が付いた。選挙期間中に張り替えようと思って、慌てて追加発注したら、シール紙ではない普通の耐水紙で誤発注。結局、張り替えられなかったけれど、手書きを加えたポスターも悪くはなかった。
新聞の折り込みチラシも、何とか1200組を配るのが間に合ったものの、500組(1000枚)を配り損ねた。「そんなに配れないだろう」と主の選挙ビラの印刷枚数を1500枚にケチったのが失敗だった。既定枚数は2種類合わせて4000枚。2種類の選挙ビラを作り、1種は補完的な内容だったので、単独配布では無意味だった。
都会だと、新聞の折り込みチラシは10数枚入ってくるから、見ずに、束ねたままで捨てられる。だから、前回の神戸でも新聞の折り込み配布を検討せず、今回も気が付かなかったのだ。しかし、津軽新報にはほとんど折り込みチラシが入らない。なので、選挙ビラを折り込みチラシにすると効果絶大。そもそも、津軽新報はテレビ欄と写真特集を含めて6ページしかない。残り4ページの記事は、隅々まで熟読されている。チラシも目立つ。
黒石市内では、津軽新報が圧倒的な影響力を持つ。マスコミでもミニコミでもないから、ミディコミか。ちょうど生活圏と販売圏が一致している。県紙の東奥日報は全国ニュースや県のニュースが手厚く、「これ一紙」で済むけれど、やはり、地域情報が足りない。朝日新聞や読売新聞などの全国紙は、田舎暮らしでは、まったく読むところがない。
選挙のやり方は、神戸のときとほとんど同じだった。完全に同じ轍を踏んでいる。大きな違いは、前回はサインドイッチマンだったから看板は前後2枚。今回はウーバー配達員だったので、看板が前後左右4枚に増えたこと。
人口21万人の神戸で375票だったから、人口3万人の黒石なら、単純計算で52票になる。ただ、少子高齢化の黒石は、人口に対して有権者が多いし、投票率も高い。「投票しました」だけでも、すでに15票ぐらい確保している。何よりも心強いのは「ポールポジション」であること。届け出を送らせたので、「届け出順」が最後。なので、投票所に並ぶ候補者名一覧で、最も目立つ左端になっているはず。「神戸超え」によって、津軽で敵を討ちたいところだ。
それだけ取れば、供託金没収はない。
おしろ・てつお(尾城徹雄)候補
意外にも、いい文章ですね。津軽弁丸出し。わたしが黒石市民なら、この人に一票入れますね。よそ者感が半端ないです。そして、最も「京都大学農学部卒」のブランドが生きる分野だと思います。ひょっとしたらひょっとして、通っちゃうかも??
挑まない人生よくない。
少年遣欧使節ではなく、少年遣大阪使節としているところなど、非常に面白いです。津軽に限らず、東北の方々には、一番近くて唯一の大都会は仙台と東京、となってしまっているようなので、そもそも関西とか大阪とかいうのは極めて新鮮だと思うのです。