ペロブスカイト太陽電池(曲がる太陽光発電所)

次世代の太陽電池として、液状の材料を塗布して作った薄膜で形成するペロブスカイト太陽電池に注目が集まっている。結晶シリコン型よりも高いとされる変換効率の可能性や、曲げやゆがみに強くて軽い利点を生かした新たな応用分野の広がりが見込めること、さらに、印刷の技術で量産できる低コスト製造の可能性も期待される。京都大学発スタートアップ企業であるエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)の加藤尚哉代表取締役に同社の現状などを聞いた。

大手企業からの出資など資金調達でも注目を集めています(関連ニュース:三菱マテ、ペロブスカイト太陽電池の京大ベンチャーに出資)。これまでの取り組み状況などを教えてください。

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加藤尚哉代表取締役
(出所:エネコートテクノロジーズ)
 ペロブスカイト太陽電池は、大手メーカーからわれわれのようなスタートアップまでさまざまな企業が事業化を目指して開発に取り組んでいます。企業の母体も化学や自動車などと幅広く、それだけ技術のすそ野や可能性の広い分野と言えます。

 なにが魅力かというと、まず変換効率の高さです。セル(発電素子)の実験レベルで25%台という記録が公表されているなど、いま実用化されている結晶シリコン型などを上回ります。

 実用化を目指している企業はほぼ、より広い面積で変換効率が20%のセル製品を開発することを目指していると思います(図1)。ある程度の面積では16%台などを実現できているのが現在の各社の状況です(関連ニュース:パナソニック、インクジェットで効率16.09%)。

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図1●結晶シリコン型と異なる用途に向く
(出所:エネコートテクノロジーズ)
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 太陽光発電システムは、いつでも最高水準に近い日射で発電できるわけではありません。特に日本では中~低照度の日射状況が多いのが現実です。

 そこで中~低照度の状況における変換効率が重要になります。ペロブスカイト太陽電池はこれも相対的に高いのです。低照度の環境では、室内光も想定できますが、室内光に対しても変換効率が高いという利点があります(図2)。

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図2●低照度や室内光でも高効率に発電
(出所:エネコートテクノロジーズ)
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 製造プロセスも大きく異なります。「塗布」と「低温の処理」という原理的に低コストの手法を使うことができます。形成するのは薄い膜なので材料の量も少なくてすみます。

 薄膜のデバイスのため、さまざまな基板を使うことができます。ガラス基板でも極薄のものまで可能になり、樹脂フィルムも基板にできます。フィルム基板を使うことで容易に曲がるような柔軟性も実現でき、これまで難しかった機器や場所に設置できます。さらに、薄膜で軽いので、重量の制約もほとんどなくなります。

 一方で、大きな課題として、大面積化や耐久性があります。

 このようなペロブスカイト太陽電池の中で、われわれの特徴は京都大学 化学研究所の若宮淳志教授(同社の取締役 最高科学責任者)が取り組んできた材料の知見を活用していることです。この研究のシーズを基に、京都大学の全面的なバックアップを受けて起業しました。その後、産官学の連携も活用しながら開発を進めています。

 ペロブスカイト太陽電池はこれからの分野で、かつ、材料選択の幅が広い状況です。京大で蓄積された材料研究などの成果を活用して、例えば、用途などに合わせて材料を変えるといったこともできそうです。こうした大学発スタートアップの利点を生かしていきます。

 製造プロセスでは、基板1枚ごとに処理する枚葉式で当面は開発や製造を進めていきます。

 ペロブスカイト太陽電池では、塗布と低温プロセスで形成できる利点を生かして、ロール状に巻いて供給された樹脂フィルムを使って、まるで新聞紙を印刷するようなイメージで連続的に処理する「Roll to Roll」と呼ばれる製造プロセスに関心が集まっています。

 同じ材料を使って同じ製品を大量に作れる状況になれば、こうした「Roll to Roll」での製造がより有効になると思います。ペロブスカイト太陽電池は、このような原理的に低コストの製造プロセスを広く活用できる分野になって欲しいと期待しています。

 われわれも将来的には「Roll to Roll」で製造することを目指していますが、当初の段階では採用せず、枚葉式で進めていきます(図3)。

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図3●本社に導入した製造ラインと試作品
(出所:エネコートテクノロジーズ)
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 いくつか理由がありますが、まず材料や製造プロセスに変更や進化の余地が多く残っていて、枚葉式の方が柔軟に対応しやすいことがあります。

 材料が変われば塗布からはじまる成膜時の処理にも変化が生じます。化学反応を伴う製造プロセスのため、反応などの律速工程もあります。このため、当面は一定の材料を使って一定の速度で流し続けるような理想的な製造は難しいのではないかと予想していて、枚葉式で小回りの利く対応を優先します。

 スタートアップ企業なので、大企業のようにいきなり「Roll to Roll」の大規模な設備による製造ラインを導入するのは経営面で難しいという理由もあります。