民事訴訟法第4問

問題

甲は、株式会社乙の商業登記簿上の代表取締役丙を乙の代表者として、乙に対し、売買代金の支払を求める訴えを提起した。丙は、乙の代表者としてこの訴訟の訴状の送達を受け、口頭弁論期日に出頭して、甲の請求を争った。丙は、訴訟の審理がかなり進んだ段階で、自分はこの代表取締役に選任されたことはなく、この真実の代表取締役は丁である旨を口頭弁論期日において陳述した。右の場合における訴訟法上の問題点及び裁判所が採るべき措置について論ぜよ。
(旧司法試験 平成7年度 第2問)

解答 自作最新 2022年7月14日(木)

第1 訴訟法上の問題点
1 被告となる法人の代表者が真実の代表取締役であるか否かについては、訴訟係属や個々の訴訟行為の適法性に関わる問題であるから、裁判所は職権で調査すべきである。
 丙が真実の代表取締役である場合には、そのまま訴訟追行させればよい。これに対して丙の陳述通り、丙が真実の代表取締役ではなく、丁が真実の代表取締役だった場合が問題である。
2 丙が、真実は代表取締役ではない場合、会社を代表して訴訟追行する権限はなく、訴訟行為の効果は乙には及ばないのが原則である。
 ただし、真実の代表取締役である丁が追認すれば丙が行った訴訟行為の効果が乙に及ぶ(37条、34条2項)。一方で、丁が追認しなかった場合、原則通り、訴訟行為の効果は、乙に及ばない。
3 しかし、甲は商業登記簿を調べて代表者を丙として正当に訴訟追行を重ねてきたのであり、訴訟がかなり進んだ段階で正当な代表者でないとされたのでは、今までの訴訟追行が無駄になり、訴訟経済上妥当でない結果が生ずる。また、法人に訴え提起をする場合、代表者の確定は登記によるしかない。
 そこで、会社法908条2項の規定を類推適用し、丙が行った訴訟行為の効果を乙に及ぼすという見解がある。
 しかし、法人の真の代表者によって裁判を受ける権利を奪うことは認められない。しかも、善意・悪意で結論が左右されるのは明確性に欠け、手続の安定の要請に反する。もともと表見法理は取引安全のためのものであるから、訴訟法に適用を認めることにはなじまないといえる。かかる法の理念は、会社法13条が、訴訟行為について別異に取り扱っていることにも表れている。
 また、無効な訴訟行為の効力を救うには、真に代表権ある者による追認を待つしかないが、真の代表者が実質的に訴訟手続に関与していた場合には、信義則(2条)上真の代表者は、追認を拒絶できない。このように解することで相手方を保護することができる。
 以上のように、法的安定性を図りつつ、具体的な事案に応じて、結論の具体的妥当性を考慮することができるのだから、上記規定の類推適用は認めるべきではない。
4 したがって、丙の行った訴訟行為の効果は、丁による追認が無い限り乙には及ばない。
 ただし、真の代表者である丁が実質的に訴訟手続に関与していた場合には、信義則上訴訟行為の追認を拒絶できないと解すべきである。
第2 裁判所の採るべき措置
1 丙は会社の真の代表者ではない場合、以後は、正当な代表者によって、裁判を受ける権利を保障するため、真実の代表者丁に訴訟追行をさせるべく、裁判所は補正(37条、34条1項)を命じ、代表者を丁にすることになる。
2 以後の訴訟手続は、真の代表者である丁を法定代理人として訴訟を進行していくことになる。
以上

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第1 訴訟法上の問題点について
1 被告となる法人の代表者が真実の代表取締役であるか否かについては、訴訟係属や個々の訴訟行為の適法性に関わる問題であるから、裁判所は職権で調査すべきである。
 丙が真実の代表取締役である場合には、そのまま訴訟追行させればよい。これに対して丙の陳述通り、丙が真実の代表取締役ではなく、丁が真実の代表取締役だった場合が問題である。
2 丙が、真実は代表取締役ではない場合、会社を代表して訴訟追行する権限はなく、訴訟行為の効果は乙には及ばないのが原則である。
 ただし、真実の代表取締役である丁が追認すれば丙が行った訴訟行為の効果が乙に及ぶ(37条,34条2項)。一方で、丁が追認しなかった場合、原則通り、訴訟行為の効果は、乙に及ばない。
3 しかし、甲は商業登記簿を調べて代表者を丙として正当に訴訟追行を重ねてきたのであり、訴訟がかなり進んだ段階で正当な代表者でないとされたのでは、今までの訴訟追行が無駄になり、訴訟経済上妥当でない結果が生ずる。また、法人に訴え提起をする場合、代表者の確定は登記によるしかない。
 そこで、会社法908条2項の規定を類推適用し、丙が行った訴訟行為の効果を乙に及ぼすという見解がある。
 しかし、法人の真の代表者によって裁判を受ける権利を奪うことは認められない。しかも、善意・悪意で結論が左右されるのは明確性に欠け、手続の安定の要請に反する。もともと表見法理は取引安全のためのものであるから、訴訟法に適用を認めることにはなじまないといえる。かかる法の理念は、会社法13条が、訴訟行為について別異に取り扱っ ていることにも表れている。
 また、無効な訴訟行為の効力を救うには、真に代表権ある者による追認を待つしかないが、真の代表者が実質的に訴訟手続に関与していた場合には、信義則(2条)上真の代表者は、追認を拒絶できない。この ように解することで相手方を保護することができる。
 以上のように、法的安定性を図りつつ、具体的な事案に応じて、結論の具体的妥当性を考慮することができるのだから、上記規定の類推適用は認めるべきではない。
4 したがって、丙の行った訴訟行為の効果は、丁による追認が無い限り乙には及ばない。
 ただし、真の代表者である丁が実質的に訴訟手続に関与していた場合には、信義則上訴訟行為の追認を拒絶できないと解すべきである。
第2 裁判所の採るべき措置について
1 丙は会社の真の代表者ではない場合、以後は、正当な代表者によっ て、裁判を受ける権利を保障するため、真実の代表者丁に訴訟追行をさせるべく、裁判所は補正(37条34条1項)を命じ、代表者を丁に することになる。
2 以後の訴訟手続は、真の代表者である丁を法定代理人として訴訟を進行していくことになる。
以上