刑法第4問

刑法第4問 問題

 大学生Xは、同級生数人を集めて参加費無料の「コカインパーティー」をするつもりで、薬物の密売に手を染めている友人Aから麻薬であるコカインを代金10万円で買うことを約束していた。数日後、AからXの携帯電話に単に、「手に入った」と記載してあるだけのメールが入り、Xは、折り返し、「○月○日正午、学生食堂で」とメールで返信し、Aは「OK」とメールで返答した。待ち合わせの時刻ころ、Xが学生食堂で昼食をとっていると、まもなくAがやってきて隣の席に座ったので、Xは約束の10万円を支払い、Aから封をした茶封筒を受け取った。Xは、この茶封筒に上記麻薬が入っているものとおもい、開封せずにそのまま自宅に持ち帰ると、クローゼット内のアクリル衣装ケースの衣類の間に隠し入れ、後日「コカインパーティー」ですべて費消する目的で所持していた。キャンパス内の薬物取引の内偵をしていた警察は、Aを逮捕し、その供述からXが自宅に薬物を隠し持っているとの情報を得て、捜索差押許可状によってX宅を捜索したところ、上記アクリル衣装ケースから茶封筒を発見した。茶封筒の内容物を鑑定したところ、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の粉末であった。
 Xの罪責について論じなさい。
 なお、覚せい剤取締法第41条の2によれば、覚せい剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者は、10年以下の懲役に処するとされ、麻薬取締法第66条1項によれば、麻薬をみだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者は、7年以下の懲役に処するとされている。
(駒澤大学法科大学院 平成17年度)

刑法第4問解答 2022年7月17日(日)自作

第1 覚せい剤譲受け罪及び所持罪(覚醒剤取締法41条の2)の成否
1 XはAから覚せい剤を譲り受けて所持しており、客観的事実としては、覚せい剤譲受け罪及び所持罪の客観的構成要件に該当する行為を行っている。一方で、Xの認識は麻薬であるコカインの譲受け及び所持である。
2 この点、38条2項によれば、本問のように軽い犯罪事実の認識で重い犯罪事実を犯した場合、重い犯罪(覚せい剤譲受け罪及び所持罪)で行為者を処断することはできない。
3 従って、Xには、覚せい剤譲受け罪及び所持罪は成立しない。
第2 麻薬譲受け罪及び所持罪(麻薬取締法66条1項)の成否
1 では、軽い犯罪事実である麻薬譲受け及び所持で処罰できないか問題となる。この点、行為者が認識していた構成要件的事実と現実に発生した構成要件的事実が異なる場合、故意犯の成立を認めることができるか問題となる。
2 この点、故意責任の本質は、規範に直面しながらもあえて犯罪行為に出た人格態度に対する重い非難であるといえる。そして、規範は構成要件の形で与えられているから、認議した事実と実現した事実とが異なる抽象的事実の錯誤の場合、原則として故意の成立を認めることはできない。しかしながら、構成要件は一定の法益侵害を生じさせる一定の行為の型であり、保護法益の共通性と行為態様の共通性が重なり合う場合がある。そして、行為者が認識した事実と実現した事実との間に構成要件の実質的な重なり合いが認められる場合、その限度では規範に直面したといえ、その範囲で故意犯の成立を認めることができると解する。
3 これを本間についてみると、覚せい剤譲受け罪及び所持罪と麻薬譲受け罪及び所持罪は行為態様が共通であるといえ、また、両罪ともに違法有害な薬物から社会を守ることを目的としており、保護法益にも共通性がある。従って、軽い犯罪事実たる麻薬譲受け罪及び所持罪の限度で故意犯の成立を認めることができる。
4 以上より、Xに麻薬譲受け及び所持罪が成立する。
以上

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刑法第4問解答 考え方と答案構成

刑法第4問解答 2022年7月17日(日)アガルート

第1 覚せい剤譲受け罪及び所持罪(覚醒剤取締法41条の2)の成否
 XはAから覚せい剤を譲り受けて所持しており、客観的事実としては、覚せい剤譲受け・所持罪の客観的構成要件に該当する行為を行っている。一方で、Xの認識は麻薬であるコカインの譲受け・所持である。
 38条2項によれば、本問のように軽い犯罪事実の認識で重い犯罪事実を実現した場合、重い犯罪(覚せい剤譲受け罪及び所持罪)で行為者を処断することはできない。
 したがって、Xには、覚せい剤譲受け罪及び所持罪は成立しない。
第2 麻薬譲受け罪及び所持罪(麻薬取締法66条1項)の成否
1 では、軽い犯罪事実(麻薬受け用及び所持)で処罰できないか問題となる。
 このように行為者が認識していた構成要件的事実と現実に発生した構成要件的事実が異なる場合、故意犯の成立を認めることができるかは解釈に委ねられている。
2 この点、故意責任の本質は、規範に直面しつつ犯罪行為に出た反規範的人格態度に対する重い非難である。そして、規範は構成要件の形で与えられているから、認議した事実と実現した事実とが異なる抽象的事実の錯誤の場合、原則として故意の成立を認めることはできない。
 もっとも、認識した事実と実現した事実との間に構成要件の実質的な重なり合いが認められる場合、その限度では規範の問題が与えられるので、その範囲で故意犯の成立を認めることができる。構成要件は一定の法益侵害を生じさせる一定の行為の型であるから、保護法の共通性と行為態様の共通性が重なり合いの判断基準となる。
3 これを本間についてみると、覚せい剤譲受け及び所持罪と麻薬譲受け及び所持罪は行為態様が共通であり、また、両罪ともに違法有害な薬物から社会を守ることを保護法益にしており、保護法益にも共通性がある。
 したがって、軽い犯罪事実たる麻薬譲受け罪及び所持罪の限度で故意犯の成立を認めることができる。
4 以上より、Xに麻薬譲受け及び所持罪が成立する。
以上