刑事訴訟法第11問

2022年9月3日(土)

問題解説

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問題

【事例】
甲は、令和3年3月3日午後8時ころ、K県S市内のCDショップ出入口ドアをバー ル等で破って侵入した上、現金100万円が入った金庫1個を盗み出した(以下「本件事件」という。)。甲は窃盗行為後に自動車で移動中に検問を受けたため、自動車と盗品を残して逃走したところ、同月5日、立ち寄り先において、S警察署の警察官により通常逮捕された。その後、甲は勾留された。 甲は、勾留延長を経て、他の建造物侵入窃盗事件についても取り調べられた。そして、甲が他にも同種の手口による住居侵入窃盗をしたことが判明したため、甲は、同月26日、本件事件を含む複数の住居侵入窃盗について、常習特殊窃盗罪(盗犯等防止法第2条)で起訴され、同月28日保釈を許可された。
その後、甲は、出来心から、本件事件と同種の手口で住居侵入窃盗を行った(以下「α事実」という。)。
【参照】
盗犯等の防止及処分に関する法律(昭和5年5月22日法律第9号)(抜粋) 第2条 常習として左の各号の方法に依り刑法第235条,第236条,第238条若は第239条の罪又は其の未遂罪を犯したる者に対し窃盗を以て論ずべきときは3年以上,強盗を以て論ずべきときは7年以上の有期懲役に処す 一、 二 (略) 三 門戸藩壁等を金越損壊し又は鎖を開き人の住居又は人の看守する邸宅,建造物若は艦船に侵入して犯したるとき 四 (略) 第3条 常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又は其の未遂罪を犯したる者にして其の行為前10年内に此等の罪又は同等の罪と他の者との併合罪に付3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け又は其の執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例に依る。
[設問]
α事実が起訴された常習特殊窃盗と一罪をなすものである場合、甲をα事実で逮捕・勾留することが許されるかについて論じなさい。
甲が、令和2年12月19日、K県M市内の家電量販店において発生した同種の建造物侵入窃盗事件(以下「β事実」という。)の犯人である旨が発覚した場合において、β事実で逮捕・勾留することは許されるか。なお、B事実も、起訴された常習特殊窃盗と一罪をなすものとする。

解答

1 甲は、今和3年3月28日に逮捕・勾留されていた常習特殊窃盗罪について保釈を許可されている。保釈とは、幻留の執行を停止する裁判及びその執行のことであるので、甲の勾留は観念的には継続している。
そして、α事実及びβ事実は、現在勾留中の常習特殊町盗罪と一罪関係にあるから、これらの事実について甲を逮捕・勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反して許されないのではないか。
2(1) 明文の規定はないものの、同一事件(被疑事実)についての逮捕・勾留は、原則として1回しか行うことができない(逮捕・勾留1回性 の原則)。逮捕・勾留には、訴訟行為1回性の原則が及ぶべきであるし、厳格な身柄拘束期間(203条~208条)の潜脱を防ぐためである。そして、同原則から、同一事件(被疑事実)については、時を同じくして2個の逮捕・勾留をすることができないとの一部一逮捕一勾留の原則が導かれる。
(2) では、一罪の基準は、どのように解すべきか。
この点について、手続は刑罰権の存否を明らかにするためのものである以上、一個の刑罰権について手続も一個というべきである。そして、刑罰権は実体法上一罪とされるものに対して一個のみ発生する。
したがって、一罪の基準は実体法上の罪数をもって判断すると考えるべきである。
(3) ただし、上記原則には例外を認めるべきである。
すなわち、一罪一逮捕勾留の原則は、捜査機関に一罪の関係にあ る事実について同時処理をさせる義務を負わせるものである。
しかし、それが現実的物理的に不可能な場合がある。仮にそのような場合まで逮捕・勾留を認めなければ、後の事実について罪証隠滅・ 逃亡を防止する手だてはなくなる。法は不可能を強いるものではないから、同時処理が不可能な場合は、例外的に一罪を構成する一部の罪についての逮捕・勾留も認められると考える。
3 以上をもって本間について検討する。
(1) α事実については、甲が保釈後に行ったものであり、検察官が同時処理をすることは物理的に不可能であった。
したがって、事実については、例外的に重複する逮捕が許される場合に当たり、逮捕・勾留をすることができる。
(2) 一方で、β事実は、甲が保釈される前に既に発生していた事実であ り検察官が同時処理をすることが物理的に不可能だったわけではない。また、現実的にみても、同一のK県で行われた犯罪であり、内容も同種の切盗事件であるので、同時処理が不可能だったとまでは認められない。
したがって、例外的に重複する逮捕・勾留が許される場合には当たらず、甲をβ事実で逮捕・勾留することはできない。
以上

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