自然債務

カフェー丸玉事件

今は令和6年ですが、少し前の昭和8年頃、大阪のカフェ「丸玉」の女給に熱を上げた客が、女給に独立資金として400円渡すという約束をしました。
男にはそんな金もなく、ウソであったが、そのことを真に受けた女給が、いつまでも400円くれないことにしびれをきらし、訴えたものです。
1審、2審は、男の敗訴。
大審院は「浅い馴染みの客が、女給に多額の金銭を与える約束をしても、その履行を強制されない特殊の債務関係が生じるに過ぎない」と、男の勝訴判決を下しました(民法414条、大判昭10.4.25)。
今風に言えば、キャバクラに数ヶ月通った男が、おれはIT企業の社長で金持ちだとか吹聴した揚げ句、キャバ嬢に「おれが400万円だすから店辞めて、おれとつきあわない?」と持ちかけ、真に受けたキャバ嬢は男といい関係になった挙句に店を辞めたものの、いつまでたっても400万円くれないので怒り心頭に達し、訴訟を起こした、とういようなものです。
大審院(旧法の組織。現在の最高裁に相当)は「飲み屋での客の戯れ言を真に受けなさんな」という、常識的な判断を下したのです。
ちなみに、カフェ「丸玉」の跡地はパチンコ「マルタマ」になっているそうです。

自然債務というものは、執行力及び訴求力もない債務として、存在?するものです。自然債務は、債務者が自ら進んでこれを履行するときには、履行した債務者から返還を請求されることはないという、給付保持力のみを有する債務と解されています(大判昭10.4.25、カフェー丸玉女給事件)。この場合には、強制執行ができないのはもちろん、債務不履行に基づく損害賠償を請求することもできません。

以上