世界の巨大IT企業の巨額節税スキーム

悪魔の節税スキーム

世界戦略として、低税率と相対的な国家の安定性で世界中の巨大IT企業を実質的に呼び込んできた国があります。

アイルランドです。

もともと、北アメリカに多くの移民を出し、アイルランドの一番の特産品はアイルランド人だとも言われたこの国のもう一つの顔は、租税のメッカということです。

アイルランドの法人税率は12.5%です。

低税率を武器に多国籍企業の投資を呼び込み、高い経済成長につなげてきました。

Google、Apple、Amazonが採用するダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチという手法があり、アイルランドの税制、オランダ(ダッチ)との租税条約を組み合わせた節税スキームによって、アイルランドに設立した二つのうちの一つの会社に、巨額の利益が計上され(プールされる)ことで、アイルランド以外の利益を究極まで節減し、結果、巨額の節税が完成されるという悪魔的手法です。

1980年代に、かのAppleが手を染め、そしてアメリカを代表する多国籍企業、特にIT企業がこぞって利用した方法で「究極の節税スキーム」といわれています。

こうした場を提供しているアイルランドは実績として過去18年間実施してきた低法人税率政策を背景に、ファイザー、インテル、ヤフー、リンクトイン、TikTok、アップル、IBM、ツイッターなど、科学技術、金融、製薬分野の約1,000社の多国籍企業を誘致しています。

これらの多国籍企業がアイルランド経済に占める重要性は高く、わずか上位100社で税収の80%近くを占めているようです。

​​Googleが用いた20億ドルの節税スキーム「ダブルアイリッシュ、アンド、ダッチサンドイッチ」(Double Irish and Dutch Sandwich)を解説しましょう。

もともとAppleが1980年代に開発したと言われ、その後、GoogleやFacebookなど世界的な多国籍企業が利用してきた方法です。

各国の税制に目を配り、グループ内の会社を巧みに利用することにより、高税率の国から低税率又は無税の国に所得を移転し、まったく合法的に節税をはかるものです。

2つのアイルランド法人と、1つのオランダ法人を利用することから、このスキームの名前がつけられました。

Googleは、このスキームによりアイルランドでの税金の発生を抑えるとともに、法人実効税率の高い米国(35%)で所得が生じるのを回避し、2011年だけで20億ドル(2,000億円)の税金の支払いを免れたと言われています。

スキームの具体的な構成を、ノートの写真と解説でお届けします。

①米国のGoogle本社が、検索・広告システムのライセンスを、アイルランドの統括会社に付与します。

検索・広告システム(知的財産権)が、Googleの主力製品であり、売れる商品です。

②アイルランドの統括会社の管理は、英国自治領バミューダ諸島の管理会社が行います。

アイルランドの統括会社は、海外で管理されているため、アイルランド税法上「非居住者」として扱われ、その国外所得に対してアイルランド法人税は課されません。さらに、海外であるバミューダ諸島では法人税はかかりません、というか存在しません。

③アイルランドの統括会社は、同じくアイルランドの販売会社に対して、検索・広告システムのライセンスを付与します(サブライセンス)。

④アイルランドの販売会社は、事業の実態があり、巨額の売上があるにもかかわらず、巨額のライセンス料を支払うことにより、利益を大幅に圧縮します。

アイルランドの販売会社はGoogleの海外事業(米国外事業)の拠点であり、検索・広告システムを活用し、Googleの米国外の売上の88%を獲得しているそうです。しかしながら、一方で、売上高に匹敵する多額のライセンス料を支払うため、税引前利益を売上高の1%程度に抑制してしまいます。

⑤及び⑤’アイルランドの販売会社は、ライセンス料の支払いを、オランダ法人を経由して行います(ここで、オランダ(ダッチ)を二つのアイルランド法人でサンドイッチにするということ)。

ライセンス料をオランダ法人を経由して支払うと、ライセンス料の支払に係る源泉徴収が必要ありません(アイルランドからオランダへのライセンス料の支払には、両国の租税条約により源泉徴収税が課されません。また、オランダでは、ライセンス料についての源泉徴収税は課されません)。また、オランダ法人はペーパーカンパニーであり実態はありません。

⑥アイルランドの統括会社は、オランダ法人から巨額のライセンス料を受領しますが、それに関する法人税を納めなくてよいです。

上記②で述べたように、アイルランドの統括会社はアイルランド税法上「非居住者」であり、海外事業から生じた所得についてアイルランドへの納税義務はありません。また、バミューダで課税されるのかといえば、バミューダには法人税がないため、課税されません。

⑦アイルランドの統括会社は、Google本社に対してごく少額(米国の税務当局と握った程度の少額の)ライセンス料しか支払いません。

ライセンス料がごく少額でも、Google本社は米国歳入庁との間で事前価格合意を得ており、問題となることはないように、あらかじめ上院議員や政府の高官に手をまわして、ロビー活動を展開しておきます。

この一連の手続きを取るだけで、アイルランド統括会社が支払うライセンス料をごく少額におさえ、本来Google本社に帰属するはずの利益を、アイルランド統括会社に移転することができるのです(移転価格操作)。

こうしてGoogleは、海外事業で得た利益についてアイルランドや米国で課税されることを避け、アイルランド(管理しているのは法人税のない国バミューダ)に蓄積することができるというわけです。

頭の良い人たちが考えた漏れのないストラクチャーですが、やっていることは単なる脱税であり、決して褒められたものではありません。

そろそろ、その高い能力をもっと別の、世のため人のためになることに使うときがやってきたようです。

以上