憲法第5問

2022年7月21日(木)

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問題

公職選挙法は, 未成年者が選挙運動を行うことを禁止し、違反者には刑事罰を科している。この規制の憲法上の問題点を論じなさい。
【参照条文】
○ 日本国憲法 (抜粋)
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 (略)
○ 公職選挙法 (昭和25年法律第100号) (抜粋)
(未成年者の選挙運動の禁止)
第137条の2 年齢満18年未満の者は、選挙運動をすることができない。
2 (略)
(事前運動 教育者の地位利用、戸別訪問等の制限違反)
第239条 次の各号の一に該当する者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。
第129条、第137条、第137条の2又は第137条の3の規定に違反して選挙運動をした者
二以下 (略)
(中央大学法科大学院 平成23年度 改題)

解答

1 公職選挙法137条の2第1項及び239条1項1号 (以下、総称して「本件各規定」という。)は未成年者が選挙運動を行うことを禁止し、違反者には刑事罰を科している。これは、未成年者の選挙運動の自由を制約するものである。
(1) まず、未成年者も 「国民」 (11条) であることから、 当然に人権保障が及ぶ。
(2) そして、選挙運動の自由は、政治的表現の自由の一種として、21条1項が規定する表現の自由の保障を受けると解する。選挙運動の自由は、主権者たる国民が参政権を行使する際の判断資料を提供する重要な表現行為であり、自己統治の価値が端的に現れるからである。
2 もっとも、かかる人権も無制限に認められるわけではなく、「公共の「福祉」(12条、13条)による制約があり得る。特に、未成年者の場合にはいまだ人格の発展が未成熟であり、そのような未成年者自身の健全な成長の育成保護を図る観点から人権が制約される。
ただし、そのような育成保護は、過度の人権の制約を伴うおそれがあることから人権保障の趣旨を没却しないよう、人権の性質に従って、未成年者の心身の健全な発達を図るための必要最小限の制約のみが許されると解する(限定されたパターナリスティックな制約)。
具体的には、目的が必要不可欠なものであり、手段が目的達成のための必要最小限度のものであるといえなければならない。手段審査に当たっては、①年齢面での発達段階、②人格的自律にとっての核に関わるものか、周辺的なものか、③制約の課される場合あるいは文脈等を考慮して、総合的にその当否を決すべきである。
3(1) 本件制度の目的は、未成年者が政治闘争に巻き込まれないようにする点にあると思われるが、未成年者が選挙運動に参加することによってかえって政治意識が高揚し、その心身の健全な発達につながることも考えられる。
そうすると、目的が必要不可欠であるか否かすら疑わしい。
(2) 仮に、目的が必要不可欠であったとしても、以下のように、目的達成の手段として必要最小限度であるとはいえない。
ア まず、①公職選挙法137条の2は, 18歳未満の者の選挙運動を一律に禁止しているが、18歳未満の者といっても年齢層は幅広く、また、発達の程度には個人差があるのであって、一律に規制をすることは疑問である。特に、高校生等は、 現代社会や政治経済等に関する授業を履修しているのであり、政治的な知識は成人と比してもほとんど変わりはないといえる。このように、未成年者といってもその成熟度合いは異なるのであるから、年齢や成長度合いに応じた制限をかけるようにするという手段をとることができる。
次に、②選挙運動の自由は、上記のように表現の自由の中でも、とりわけ自己統治の価値に資するものであって、極めて重要な権利であるから、必要最小限度の制約といえるか否かは厳格に判断されるべきである。
ウ また、③公職選挙法239条1項1号では刑事罰を科すると規定されているが保護されるべき未成年者自身を刑事罰の対象とするのは背理である。刑事罰によらなくとも、きめ細やかな対応ができる行政指導や行政処分の方法による方が適切に対処できる上、未成年者の心身の健全な発達にとっても適切であるといえる。
4 以上より、本件各規定は、21条1項に反し、違憲である。
以上

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