憲法第18問

2022年10月17日(月)

問題解説

問題

以下の各小問においてX、1及びX2の請求が認められるかについて、憲法上の問題点に触れながら、論じなさい。
(1) X1は、厳格なA教信者であるが、自衛官であるX1の夫が公務中に交通事故で死亡してしまったため、現在は、A教の信仰を心のよりどころとして生活している。B県隊友会は、退職自衛官を中心に組織され、自衛隊員の社会的地位の向上等を目的とする社団法人であるが、自衛隊員の社会的地位及び士気の高揚を図ることを目的として、殉職者であるX1の夫についてC県護国神社に合祀申請をしたところ、同神社は合祀を決定した。これに対して、X1は、C県護国神社の行為はX1の意思に反するものであり、X1の宗教上の自由を侵害したとしてC県護国神社に対して、損害賠償請求をした。
(2) X2は、内閣総理大臣であるDが、靖国神社の参拝をしたことにより、「戦没者 が靖國神社に祀られているとの観念を受け入れるか否かを含め、戦没者をどのように回顧し祭祀するかしないかに関して自ら決定し、行う権利ないし利益」が侵害されたとして、国家賠償請求訴訟を提起した。

解答

第1 小間(1)
1 X1は、C県護国神社による夫の合祀が、X1の宗教上の自由を侵害すると主張している。C県護国神社は、私人であるところ、私人間において信教の自由(20条1項)の侵害があったことを理由に損害賠償請求(民法709条)をすることができるか。
2 この点について、私的自治の保護の観点から、憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用は認められないが、憲法が定める人権規定は全法秩序の最高の価値秩序であるから、私法規定の適用に当たって十分斟酌されなければならないと解する。
そこで、本問では、民法709条の「法律上保護される利益」の判断に当たって、信教の自由の重要性を斟酌することになる。
3 ここで、X1が主張する「法律上保護される利益」は宗教上の自由であるところ、その趣旨とするところは、C県護国神社がX1の夫を合祀したことにより、自己の意思に反する宗教的方法で追慕、慰霊等が行われ、その結果、自己の心の静謐が害されることなく信仰生活を送る利益 (宗教上の人格権)であると考えられる。もっとも、信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴 うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り、寛容であることを要請している。 したがって、宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることができないというべきである。
4 本問では、上記の強制や不利益の付与は認められないから、X1の 「法律上保護される利益」に対する侵害が認められない。
以上から、X1の損害賠償請求は認められない。
第2 小問(2)
1 本問は、国家賠償請求訴訟であるが、小問(1)同様、法的利益の侵害が認められなければならない。
そこで、X2の主張する「戦没者が靖國神社に祀られているとの観念を受け入れるか否かを含め、戦没者をどのように回顧し祭祀するか、しないかに関して自ら決定し、行う権利ないし利益」が法的利益といえるかを検討する。
2 人が神社に参拝する行為自体は、他人の信仰生活等に対して圧迫、干渉を加えるような性質のものではないから、他人が特定の神社に参拝することによって、自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとし、不快の念を抱いたとしても、これを被侵害利益として、直ちに損害賠償を求めることはできないと解するのが相当である。
そして、X2の主張する権利ないし利益も、上記のような心情ないし宗教上の感情と異なるものではないというべきである。このことは、内閣総理大臣の地位にある者が靖國神社を参拝した場合においても異なるものではないから、本件参拝によってX2に損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったとはいえない。この点について、小問(1)においては、亡夫が神社神道の祭神として祀られることに対する妻の宗教上の感情について、「祭神として祀られないこと」という利益は軽視し得ないものであるから、必ずしも強制や不利益の付与を伴うものではなくても、その被侵害利益を保護すべきであるという考え方も成り立ち得る。これに対して、本小問で問題となって いる利益は、X2の個人的な信仰や信条に基づく主観的感情的平額と異なるものではなく、個別的・主観的・抽象的な宗教上の感情にすぎないものといわざるを得ない。そのため、上記のような考え方によっても、法的利益とは認め難い。
3 なお、Dによる靖国神社の参拝は、その目的が宗教的意義を有し、靖国神社という宗教法人に対する援助、助長又は促進という効果をもち得るため、政教分離原則20条3項)に反する可能性があるが、同項は、国家と宗教とを分離するという制度自体の保障を規定したものであって、直接に国民の権利ないし自由の保障を規定したものではないから、これに反する行為があったことから直ちに国民の権利ないし法的利益が侵害されたものということはできない。
4 以上から、X2の国家賠償請求は認められない。
以上

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