民事訴訟法第19問

2022年10月23日(日)

問題解説

問題

原告の法律上及び事実上の主張に対して被告がする陳述の態様とその効果について説明せよ。
(旧司法試験 平成9年度 第1問)

解答

第1 原告の事実上の主張に対する被告の態様及びその効果について
1 原告の事実上の主張に対する被告の応答は、①否認、②自白、③不知、④沈黙の4種類がある。
2(1) ①否認とは、相手方の主張を否定する旨の応答である。否認には、特に理由を並べずに相手方の主張を否定する単純否認と相手方の主張する事実と両立しない事実を積極的に主張して行う積極否認がある。
79条3項では、審理の遅延を防止するため、積極否認をすることが当事者に義務付けられている。
(2) いずれの場合であっても、原告が主張した事実を証拠により証明しなければならないという効果が生じる。
3(1) ②自白とは、相手方の主張を認める旨の応答である。自白には、端的に相手方の主張する事実を認める自白のほか、相手方の主張と両立する事実を主張して行う制限付自白がある。
(2) 自白の効果は、原告が証拠による証明をする必要がなくなる証明不要効(179条)、裁判所が自白どおりの事実を認定しなければならなくなる裁判所拘束力(判断拘束効)、被告が原則として撤回することができなくなる当事者拘束力(撤回制限効)である。
裁判所拘束力が認められる根拠は、当事者意思の尊重と相手方への不意打ち防止という弁論主義に求められる。ただし、裁判所の自由心証(247条)を害することはできないため、主要事実の存否を推認させるという点において、証明と同様の機能を果たす間接事実及び補助事実には、上記効果は認めるべきではない。そこで、自白の効果が生じるのは、主要事実に限られる。
一方で、当事者拘束力が認められる根拠は、証明不要効や裁判所拘束力が生じることによって、自白した当事者の相手方は当該主要事実について証明を免れるという有利な地位を得ることになるところ、当事者が自由に撤回できるとすると、このような相手方の有利な地位を任意に奪うことになり、訴訟上の信義則(2条)に反するからである。そのため、当事者拘束力が生じる範囲も、主要事実に限られる。
4 不知とは、相手方の主張した事実を知らない旨の応答である。
不知は、否認と推定される(159条2項)。ここでいう「推定」とは、否認の効果を認めるのが不合理な場合を除いて否認として扱うというものであるから、原告の主張した事実が被告にとって不利な場合に限られると解するのが合理的である。
そこで、原告の主張した事実が被告にとって不利な場合には、否認と同様に扱い、その結果、原告がこれを立証しなければならない。
一方、原告の主張した事実が被告にとって有利な場合には、自白も否認もしていない状態として、争わない趣旨と理解すべきである。
したがって、その効果は、以下の沈黙と同様である。
5(1) ④沈黙とは、相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない態度である。
(2) この場合、弁論の全趣旨により、争ったと認めるべき場合を除き、自白したものとみなされる(159条1項、擬制自白)。したがって、自白と同様の効力が生じる。
ただし、援制自白は、通常の自白と異なり、当事者の訴訟行為が存在しないから、当事者拘束力(撤回制限効)が生じない。
第2 原告の法律上の主張に対する被告の叙述態様及びその効果について
1 原告の法律上の主張とは、実体法規に主要事実を当てはめた結果としての具体的な権利に関する主張をいう。
2 これに対する被告の応答は、争うか認めるかのいずれかである。
(1) まず、被告が訴益物の前提となる権利関係を争う旨の陳述をした場合、原告は、当該権利関係の発生を基礎付ける主要事実を証明する必要が生じる。
(2) 一方、被告が訴訟物の前提となる権利関係を認める旨の供述をした場合、いわゆる権利自白の問題である。
まず、証明不要効は生じると考える。その先決的法律関係には、争いがないので、事実主張・立証の必要性が少ないし、訴訟審理の促進が必要であるからである。
次に、裁判所拘束力(判断拘束効)は、事実の自白とも見得る日常的な法律概念に関する自白を除き、これを認めるべきではない。法律問題は裁判所の職責であるから、弁論主義は妥当しないし、私人の法的判断には誤解が伴いやすいからである。
そして、この場合には、相手方の有利な地位を覆すことにはならないから、当事者拘束力(強引制限)も否定すべきである。
以上

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