行政法第19問

2022年10月25日(火)

問題解説

問題

次の[事例] を読み、下記の【設問] 1~3に答えなさい。なお、解答に際しては【資料】に掲載されている条例を参照しなさい。
[事例]A市には法律又は条例の授権によらないで制定された「宅地開発指導要綱」がある。これによれば、10戸以上からなるマンションの建築主に対しては、A市が公園施設負担金の支払いを求めることになっている。
X社は、A市において12戸からなるマンションの建築を計画していた。そのため、A市は、上記要綱に基づき、X社に対し公園施設負担金の支払いを求めた。しかし、X 社は、負担が重過ぎることを理由に、この要請を拒否した。
その後、X社は、当該マンションが「A市廃棄物処理条例」の中規模集合住宅に該当するため、敷地内に廃棄物保管場所を設置することとし、廃棄物保管場所等設置届を市長に提出した(以下「本件行為」という。)。ところが、市長は、X社が公園施設負担金の支払いを拒否したことを理由に、X社から提出された設置届の受け取りを拒否した。X社は、設置届の受け取りを拒否されたまま、適法にマンションの建築確認を得て、マンションを完成させたが、A市は、A市廃棄物処理条例第5条の設置届が市長に提出されていないことを理由に、マンションの入居者が出した廃棄物を収集していない。
なお、本件では、行政手続法と同様の規律内容を有するA市行政手続条例が適用されるものとする。
(設問)1.行政指導と行政行為を比較して、両者の差異について、説明しなさい(両者の定義を単に挙げるだけではなく、違いが分かるように比較すること。)。
2.本件行為は、A市行政手続条例の「届出」に該当するか、それとも、同条例の「申請」に該当するか。理由とともに、答えなさい。
3.本件において、A市行政手続条例違反がありうるものとして検討すべき条項は何か。検討すべき条項を列挙しなさい。なお、本問については、下記の【資料】に掲載されているA市行政手続条例の条文の範囲で検討し、解答すればよい。
(1)A市廃棄物処理条例(平成2年3月20日条例第45号)(抜粋) 第5条中規模集合住宅を建築しようとする者(以下「建築主」という。)は、その敷地内に廃棄物保管場所を設置しなければならない。2 建築主は、廃棄物保管場所を敷地内に設置する場合には、当該建築に係る建築物の確認の申請の前に、廃棄物保管場所等設置届(以下「設置届」という。)を市長に提出しなければならない。3 (略) 4 A市は、第2項の設置届が市長に提出された日の翌日から、廃棄物保管場所に出された廃棄物を収集しなければならない。
(2) A市行政手続条例(平成6年12月22日条例第42号)(抜粋) (審査基準) 第5条 行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその条例等の定めに従って判断するために必要とされる基準(以下「審査基準」という。)を定めるものとする。2 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、条例等により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。 (申請に対する審査,応答) 第7条 行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開 始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の条例等に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、 速やかに、申請をした者(中略)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。 (行政指導の一般原則) 第30条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該市の機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまで も相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。(申請に関連する行政指導) 第31条 申請(法律及び法律に基づく命令(告示を含む。)に基づくものを含む。 以下この条において同じ。)の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請をした者が当該行政指導に従う意思がない旨を明確に表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請をした者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。 (行政指導の方式) 第33条 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。2 行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
(中央大学法科大学院 平成23年度)

解答

第1 問1について
1(1) 行政指導とは、行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう(A市行政手続条例2条6項)。
(2) 行政行為とは、行政庁が、行政目的を実現するために法律によって認められた権能に基づいて、一方的に国民の権利義務その他の法的地位を具体的に決定する行為をいう。 2 まず、この両者の違いは法的根拠の要否にある。すなわち、法律の留保原則に照らし、行政指導を行う場合には法的根拠は不要であるが、行政行為の場合には、法的根拠が必要となる点に違いがある。
また、行政指導の場合には相手方の任意の協力を求めるのみであり、相手方の法的地位に影響を与えないのに対し、行政行為の場合には一方的に相手方の権利義務関係を形成するなど、その法的地位に影響を与えることになるという違いもある。
第2 問2について
1 申請とは、法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう(A市行政手続条例2条3号)。一方、届出とは、行政庁に対し一定の事項の通知をする行為であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているものをいう(同条例2条7号)。
2 両者の差異は、申請が行政庁に諾否の応答義務を生じさせるものであるのに対して、届出はそれが行政庁に到達した時点で手続上の義務が履行されたものとみなされる点にある(同条例37条参照)。
3 本件行為は、A市廃棄物処理条例5条2項に基づくものであるが、A市には、この設置届が市長に提出された日の翌日から、廃棄物保管場所に出された廃棄物を収集する義務が生じることになる(同条4項)。そうすると、設置届の提出のみで手続上の義務が履行されたものとみなされているといえる。
したがって、本件行為は届出に当たる。
第3 問3について
1 まず、A市がX社に対して公開施設負担金の支払を求めた行為は、法律又は条例の授権によらないで制定された「宅地開発指導要綱」に基づくものであるから、法令の根拠に基づかない行政作用であり、行政指導に当たる。
2 そうすると、A市は、X社に対して、行政指導を拒否したことを理由に設置届の受取りを拒否した上で、同届が市長に提出されていないとして、マンションの入居者が出した廃棄物を収集しないという不利益な取扱いを行っていることになる。そこで、A市行政手続条例30条2項違反を検討する必要がある。
また、このようなA市の態度は、任意の協力の限度を超えて、X社に対して行政指導に従わせようとするものであるから、同条1項違反も問題となる。
さらに、問題文の事情からは明らかではないものの、行政指導の趣旨及び内容並びに責任者が明確に示されていない場合には、同条例33条1項違反も検討する必要がある。なお、X社が書面の交付を求めていた場合には同条2項も併せて検討する必要がある。
3 なお、設問2で検討したとおり、本件行為は申請ではないから、同条例5条、7条、31条は検討する必要がない。
以上

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