民法第26問

2022年12月8日(木)

問題解説

問題

Aは、Bに同人所有の動産を売却し、引き渡した。その際、Aは、当該売買代金債権を担保するため、Bの所有する甲建物に抵当権を設定し、その登記を経由した。BはC社に甲建物を賃貸し、さらにC社はDへ転貸した。Bに対する売買代金債権の弁済期が過ぎたにもかかわらず弁済がなかった場合、AはC社のDに対する転貸料債権に物上代位することができるか。
C社のDに対する転賃料債権がEに対して譲渡され、C社からDに対して内容証明郵便による債権譲渡の通知が行われていた場合はどうか。
なお、C社はBを代表取締役とする実体のない株式会社であり、転資料はBの生活費 に充てられていたものとする。

解答

第1 前段について
1 Aは「債務者」BのC社に対する賃料債権に物上代位をすることができるのは間違いない(372条、304条1項、371条)。
2(1) では、C社のDに対する転貸料債権(以下「本件債権」という。)も同様に物上代位の対象となるか。抵当目的物の賃借人が「債務者」 に含まれるのか、問題となる。
(2) 賃料債権は抵当権設定者等の抵当権の負担を受ける者が得る収益なのに対して、転貸料債権は直接には抵当権の負担を受けない賃借人が得るものである。
そうだとすれば、抵当目的物の賃借人は「債務者」(304条1項 本文)に含まれず、原則として転貸料債権は物上代位の対象にはならないと解すべきである。
もっとも、これを一切否定すると、詐害的な転貸借がなされた場合 にも転貸料債権に物上代位できなくなり、賃料債権に対して物上代位を認めた意味がなくなる。
そこで、所有者の取得すべき資料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借 関係を作出したものであるなど、賃借人を所有者と同視することを相当とする特段の事情ある場合には、転貸料も例外的に物上代位の対象になると解する。
(3) 本問では、C社とBは別人格であり、本件債権は物上代位の対象にならないのが原則である。
しかし、 C社はBを代表取締役とする実体のない会社であり、しかも、転貸料はBの生活費に充てられている。そうだとすれば、Bは、その取得すべき資料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用しているといえ、賃借人を所有者と同視することを相当とする特段の事情が認められる。
(4) したがって、本件債権は物上代位の対象となる。
3 以上より、AはC社のDに対する転貸料債権に物上代位することができる。
第2 後段について
1 本件債権は、Eに譲渡され、Dに対して、確定日付ある証書による通知がなされているから、第三者対抗要件が備えられている(467条2項)。
そこで、このような場合でもなお、抵当権に基づく物上代位権を行使し得るのか、債権譲渡が「払渡し又は引渡し」(372条、304条1 項ただし書)に含まれるのか問題となる。
2 「差押え」が要求されている趣旨は、弁済のあて先が不明確になることによる二重弁済の危険から第三債務者を保護する点にある。一方、第 三者については、抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、「差押え」 によってこれを保護する必要はない。
また、債権の譲受人が優先すると考えると執行妨害が容易にできてし まう。
したがって、債権譲渡は「払渡し又は引渡し」に含まれないと解すべ である。
3 以上から、Aは、本件債権がEに譲渡され、第三者対抗要件が備えられてもなお、物上代位をすることができる。
以上

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