憲法第27問
2022年12月18日(日)
問題解説
問題
団体Aが、講演会を開催するためX市の設置・管理する市民会館の使用の許可を申請したところ、X市長は、団体Aの活動に反対している他の団体が上記講演会の開催を実力で妨害しようとして市民会館の周辺に押しかけ、これによって周辺の交通が混乱し市民生活の平穏が害されるおそれがあるとして、団体Aの申請を不許可とする処分をした。
また、団体Bが、集会のために上記市民会館の使用の許可を申請したところ、市民会館の使用目的がX市の予定している廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会を開催するものであることが判明したので、X市長は、団体Bの申請を不許可とする処分をした。
A及びBは、X市長の各不許可処分に対して不満があり、これを争おうと考えてい る。
[設問1]
あなたがA及びBの訴訟代理人となった場合において、いかなる憲法上の主張を行うべきかについて論じなさい。
[設問2]
設問における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を、X市の反論を想定しつつ、論じなさい。
(旧司法試験 平成8年度 第1問 改題)
解答
第1 設問について
1 A及びBは、X市長の不許可処分(以下、Aに対する不許可処分を「本件不許可処分①」、Bに対する不許可処分を「本件不許可処分②」という。)により、市民会館を使用した集会を開催できない。
したがって、21条1項で保障される集会の自由を制約されている。
2 集会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要であり、対外的に意見を表明するための有効な手段である。地方自治法上「公の施設」(同法244条1項)は、設置目的に適う利用については「正当な理由」がない限り原則としてこれを認めなければならない (同条2項)とされているのはこの趣旨であるところ、市民会館は「公の施設」に当たる。
また、本件不許可処分は、集会の自由に対する事前規制に当たる。事前規制は権力による濫用の危険性が大きく、慎重な審査が必要である。したがって、厳格な審査基準が妥当すると解すべきである。
具体的には、上記「正当な理由」を限定解釈し、①近い将来実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白で、②重大な害の発生が時間的に切迫しており、③当該規制がその害悪を避けるのに必要不可欠である場合にのみ、規制が許されるものと解する。
3(1) 本件不許可処分について
市民会館周辺の交通の混乱等が生じる蓋然性は明らかではないから、①実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であるとはいえずまた、②重大な害悪の発生が時間的に切迫していると認め難い。仮に、重大な害悪の発生が明白かつ時間的に切迫しているとしても、③それ自体Aの集会を不許可にするのではなく、彼らの集会を妨害しようとする団体を取り締まるべきである。
よって、本件不許可処分①は、21条1項に反し、違憲である。
(2) 本件不許可処分②について
本問では、Bが他の団体と暴力による抗争をしているなどの事情は認められないから、①②は認められない。また、仮に、重大な害悪の発生が明白かつ時間的に切迫しているとしても、③市民会館の使用を不許可とする必要はなく、例えば、Bが、廃棄物処理施設の建設を実力で阻止しようとした段階で取り締まれば足りるというべきである。よって、本件不許可処分②は、21条1項に反し、違憲である。
第2 設問2について
1 反論
本間は、X市長が、A及びBが行っている集会の中止を求めるなどの積極的な妨害を行った事案ではないから、集会の自由に対する制約は認められない(反論①)。仮に、集会の自由に対する制約が認められたとしても、地方自治法244条2項の「正当な理由」の判断について裁量が広く認められる(反論②)。
2 私見
(1) 確かに、21条1項は表現の自由の一類型として「集会」の自由を保障しているが、これは集会を行うことを公権力によって妨害されない自由をいうにとどまり、その集会のための場所、施設の提供を国や自治体に対して要求するといった権利までを含むものではない。
しかし、公の施設の管理者としては、一旦公共施設が設置された以上、設置目的に適う利用については、「正当な理由」がない限り、原則としてこれを認めなければならない(地方自治法244条2項)。したがって、A及びBは、設置目的に適う利用である限り、市民会館を使用した集会を開催する権利を有しているところ、本件不許可処分はこれを制約している。反論①は認められない。
(2) 集会の自由の制約が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されるおそれのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を比較衡量して決せられる。
もっとも、一般に精神的自由は経済的自由に比べ、厳格な審査基準が妥当すること、とりわけ集会の自由は重要な意義を有することは、A及びBが主張するとおりである。
また、上記のとおり、公共施設の設置目的に適う利用については原則として認められて然るべきであるし、当該公的施設の利用目的に沿う利用である限り、他者の人権を侵害する事態は通常想定し難い。
以上から、集会の自由を制限することが必要かつ合理的なものとして肯認されるのは、上記危険性が高度である場合に限られるものとい うべきである。具体的には、A及びBが主張する基準によって判断するのが相当である。反論②も認められない。
3(1) 本件不許可処分について
3 本問において、①②が認められないのはAが主張するとおりである。仮に、重大な害悪の発生が明白かつ時間的に切迫しているとしても、Aが主張するとおり、③それはAの集会を不許可にするのではなく、彼らの集会を妨害しようとする団体を取り締まるべきである。他の団体による妨害を理由として不許可処分とすることができるのは、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別の事情がある場合に限られると解すべきである。かかる特別の事情が認められない限り、本件不許可処分が必要不可欠ともいえない。
したがって、本件不許可処分①は上記要件を満たさず、Aの集会の自由を侵害するものとして21条1項に反し、違憲である。
(2) 本件不許可処分②について
1 施設の建設を「実力で阻止する」ための決起集会である以上、その集会により何らかの実力行使が行われた場合には、人の生命・身体や財産に対する実質的な害悪の発生は予期される。
2 また、集会の段階でも、その実質的な害悪の発生が時間的に切迫している。
3 そして、Bの集会が廃棄物処理施設の建設を実力で阻止するための決起集会である以上、市民会館周辺の警備の強化などにより、害悪の発生を防止することも難しいと思われるから、当該集会の不許可処分が害悪を避ける必要不可欠な手段といえる。
したがって、本件不許可処分②は、集会の自由を侵害するものでなく、21条1項に反せず、合憲である。
以上