刑事訴訟法第27問

2022年12月21日(水)

問題解説

問題

甲は、任意で提出した尿から覚せい剤が検出されたため、覚せい剤自己使用罪で起訴された。起訴状の公訴事実には、「被告人は、平成26年6月1日から7日までの間に、A町内又はその周辺において、覚せい剤を自己の身体に注射又は服用して施用し、もって覚せい剤を使用した」と記載されている。この起訴状の適法性について、論じなさい。

解答

1 本問では、起訴状記載の公訴事実において、犯罪の日時、場所、方法に幅がある。これは、「訴因を明示するには、できる限り日時場所 及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」と規定し、訴因の特定を要求する256条3項に反するのではないか。
訴因の特定が要求されている趣旨は、裁判所に対して審判対象を明確にする(審判対象画定機能)とともに、被告人の防御の範囲を示す(防御告知機能)点にある。もっとも、訴因は第一次的には裁判所に対して審判対象を明確にする点にその趣旨があり、かつ被告人の防御は釈明等起訴状提出以後の手続の過程で柔軟に対応すれば足りるから、他の犯罪事実との識別が可能な程度に特定されていれば足りると解すべきである。
そうだとすれば、犯罪の種類、性質等により証拠によって明らかにし得る事実に限界があるなどの事情(特殊事情)のため、日時、場所、方法や構成要件要素の一部につき括的記載にとどめざるを得なかった場合であっても、被告人の行為が当該犯罪の構成要件に該当するものであ ると認識することができ、他の犯罪事実と区別される程度に特定されているのであれば、検察官において起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである以上、訴因の特定に欠けるところはないというべきである。
2 そして、本問のような覚せい剤自己使用罪については、以下のように場合を分けて考えるべきである。
(1) 証拠上、複数回の使用が疑われない場合
この場合、複数回の使用の可能性がないのであるから、仮に日時場所等に幅のある記載であったとしても、殊更他の犯罪事実との識別を問題にする必要はない。また、本問訴因からは、被告人甲の行為が覚せい剤自己使用罪の構成要件に該当するものであると認識できる。
そして、覚せい剤自己使用罪には、覚せい罪の使用は短期間に複数回あり得、それが全て併合罪関係となるのが通常であり、物的証拠が少ないことから、覚せい剤の使用日時、場所、方法等について被告人の自白に頼らざるを得ないという特殊事情がある。
以上から、日時、場所等に幅のある記載であったとしても、検察官において起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである以上、訴因の特定に欠けるところはない。
(2) 証拠上、複数回の使用が疑われる場合
この場合、正面から他の犯罪事実との識別が問題となる。
そこで、この場合には、検察官が当該幅のある日時において、最終1回の行為を起訴した趣旨である旨、釈明することによって特定を補充することを要すると解する。
こうすることで、他の犯罪事実との識別が可能になるのであれば、上記のように、本問訴因からは、甲の行為が、覚せい剤自己使用罪の構成要件に該当するものであると認識できるのであるから、検察官に おいて起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである以上、訴因の特定に欠けるところはないと解する。
検察官が上記の釈明をすれば、本問の起訴状記載事項は256条3項に反せず、起訴状は適法である。
以上

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答案