民法第28問

2022年12月22日(木)

問題解説

問題

Xは、A社に対して1億円を貸し付けるとともに、A社に対する貸金債権を被担保債 権として、A社所有の甲建物について抵当権の設定を受け、その旨の登記を設定した。その際、XA社間では、甲建物を他に賃貸する場合には、Xの承諾を得ることを合意した。
ところが、A社は、かかる合意に反して、Xの承諾を得ずに、A社の代表取締役であるYに対して、甲建物を賃料月額1万円、期間 30年、敷金3億円の約定で本件建物を貸し渡した。 なお、甲建物の適正賃料は、月額100万円程度である。
その後、弁済期を過ぎてもA社が1億円の返済をしようとしないので、Xは、抵当権の実行としての競売手続を開始した。しかし、競売手続の中で、甲建物の最低売却価格は引き下げられる一方であるにもかかわらず、甲建物の買い手は一向に現れる気配がない。
そこで、 XはYに対して、Xに対して甲建物を明け渡すよう求めた。Xの請求は認 められるか。

解答

1 Xは、甲建物を占有するYに対し、抵当権に基づく妨害排除請求として甲建物の明渡しを求めることが考えられる。
2 では、かかる請求は認められるか。
(1)ア まず、抵当権は目的物の交換価値を把握する権利であるところ、そもそも抵当権に基づく妨害排除請求が認められるのか。
抵当権は非占有権であるから、抵当目的物の占有関係に干渉することはできない。また、誰が占有するかで、本来目的物の担保価値が異なることはない。
したがって、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができないのが原則である。
もっとも、 占有者の存在が実質的に競売価格の下落を招く場合がある。そのような場合は、担保価値の減少が認められ、抵当権に対する侵害が観念できる。また、非占有権という性質は、抵当権者は設定者の使用収益権能を妨げ得ないということにすぎず、その占有態様による担保価値の低下を受忍すべきことを意味しない。
したがって、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態にあれば、抵当権に基づく妨害排除請求も認められるものと解する。
本件では、競売手続の中で、 甲建物の最低売却価格は引き下げら れる一方であるにもかかわらず、甲建物の買い手は一向に現れる気 配がない。そうだとすれば、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるといえる。
したがって、 本件では、一般論としてXは抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。
(2)ア もっとも、本問のYは賃借権という正当な占有権原を有する者であり、本来民法395条によって6か月間は明渡しの猶予を受けることができるのである。また、所有者の使用収益権と抵当権者の交価値把握権能の調和を図る必要もある。
したがって、妨害排除請求の要件は厳格に解すべきである。具体的には、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態にあることに加え、競売手続を妨害する目的があることも要求すべきである。
本件では、A社は、Xとの合意に反して甲建物を賃貸していること、 YはそのA社の代表取締役としての地位にあること、適正賃料 が100万円の建物に対し、賃料月額1万円が著しく低廉である上、期間 30年、敷金3億円と敷金が著しく高額である賃貸条件は、著しく不合理であることなどからすれば、競売手続を妨害する目的も認められる。
したがって、 本件ではXは抵当権に基づく妨害排除請求ができる。
(3)ア では、抵当権者への直接の明渡しを請求することも可能か。
イ 確かに抵当権は占有を本質としない権利であるから、抵当権設 定者への返還を求めることが原則である。しかし、抵当不動産を適切に維持・管理することが期待できない場合には、抵当権者は占有者に対し、直接自己への明渡しを求めることができると考える。理論的にも、管理占有が認められるから、抵当権者への明渡しが不可能であるとまではいえない。
したがって、上記の場合には、 肯定的に解すべきである。
ウ 本件では、上記のような背信行為をするA社において、甲建物を適切に維持・管理することは到底期待できないといえる。
したがって、Xは、直接自己への甲建物の明渡しを求めることができる。
3 以上より、Xの請求は認められる。
以上

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答案