刑事訴訟法第28問

2023年1月4日(水)

問題解説

問題

便せんに約600字に及ぶ脅迫文言を記載し、これを郵送する方法によって害悪を告知した脅迫罪の事案において、検察官は、起訴状の公訴事実に証拠として請求する予定の右文書に記載された脅迫文言の全文を引用して記載した。
この場合における公訴提起をめぐる問題点について論ぜよ。
(旧司法試験 平成10年度 第1問)

解答

第1 全文引用したことの適法性
1 本問起訴状には脅迫の手段とされた脅迫文言の全文が引用されている。そこで、本問起訴状は、その「内容を引用した」として、256条 6項に反するのではないか。
2 起訴状一本主義とは、起訴状には、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならないという原則をいう。かかる原則の趣旨は、予断排除ないし予断防止を中核とし、公平な裁判所(憲法37条1項)の理念、当事者主義化、直接主 義公判中心主義を実現することにある。
このような起訴状一本主義の趣旨からすれば、脅迫事件における起訴状に脅迫文書の全文を引用するがごときは、裁判官に予断を生ぜしめるおそれが大きく、許されないとも思える。
3 しかしながら、他方において256条3項は、「訴因を明示するには、罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」として 訴因の特定を要請している。訴因の特定が要請される趣旨は、訴因が審判対象であることから、裁判所に対して審判の対象を明らかにし(識別機能)被告人に防御の範囲を明示する(告知機能)という点にある。
よって、このような訴因の特定の趣旨からすれば、訴因をできる限り具体的かつ詳細に記載することが望ましい。
4 そして、審理の対象が明らかにならないと訴訟は進行しないから、一般的に訴因明示の要求は予断防止の要請に優位すると解すべきである。
そこで、文書の記載内容それ自体が構成要件に該当する要素である場合には、全文とほとんど同様の記載をしても、256条6項に違反しないと解すべきである。
本件では、脅迫文の記載内容それ自体が構成要件に該当する要素であるから、全文とほとんど同様の記載をしても、256条6項に違反しない。
第2 起訴状一本主義違反の効果
1 仮に、起訴状の記載が起訴状一本主義に反する場合、裁判官が一度抱いた予断は、起訴状記載の削除によって払拭されるものではない。
したがって、もはや削除による治癒の余地はなく、公訴提起は無効として、形式裁判により訴訟を打ち切るべきである。
その場合、本問における裁判所は公訴棄却の判決(338条4号)をすることになる。
以上

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答案