民法第22問

2022年11月11日(金)

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問題

1 Aは、自己の所有する甲土地をBに対して売却し、引き渡したが、登記が自己名義のままであることを奇貨として、甲土地をCに対しても売却し、登記名義をCに移転してしまった。その後、Bが甲土地を占有している事実を知ったCは、Bに対して、甲土地の明渡しを求めた。これに対して、Bは、留置権の成立を主張して、明渡しを拒んでいる。
Cの請求は認められるか。なお、Cは、Aから甲土地を購入した当時、甲土地がBにも売却されていることは知らなかったものとする。
2 Dは、Eに対して、自己の所有する乙建物を賃貸し、引き渡したが、Eが半年以上貨料を支払わないため、催告の上、賃貸借契約を解除した。しかし、解除後も、Eは乙建物に居住し続けていた。その間、台風によって乙建物の屋根の一部が破損したため、Eは、自らの費用でこれを修理した。
その後、DからEに対して乙建物の明渡請求がなされた。これに対して、Eは、留置権の成立を主張して、明渡しを拒んでいる。
Dの請求は認められるか。なお、Dの賃貸借契約の解除は有効になされていることを前提としてよい。

解答

第1 問1
1 Cは、甲土地を占有するBに対し、所有権に基づき甲土地の明渡しを請求することが考えられる。
CはAから甲土地を譲り受け、Bに先立って登記を備えており、かつ二重譲渡の事実に善意であるから、どのような立場に立ったとしても甲土地の所有権の取得に関しては177条によりBに優先する。
2 これに対して、Bは留置権(295条)の成立を主張して、明渡しを拒んでいる。被担保債権は、Aが甲土地の登記名義をCに対して移転したことで、履行不能(412条の2第1項)となった所有権移転義務 (555条)及び甲土地の登記名義の移転義務(560条)の履行に代わる損害賠償請求権(415条1項、2項1号)である。
以下、留置権の成立要件を検討する。
(1) 留置権の成立要件は、①「他人の物の占有」、②「その物に関して生じた債権」(以上、295条1項)、③「担保債権が弁済期」にあること(同項ただし書)、④「占有が不法行為によって始まった」 ものでないこと(同条2項)である。
(2) 本件で、BはC所有の甲土地を占有している(①充足)。そして、上記被担保債権は期限の定めのない債務であるから(412条3項)、履行の時に「弁済期が到来する(③充足)」。また、その「占有が不法行為によって始まった」ものでもない(④充足)。
(3)では、上記者賠償請求権は、②「その物に関して生じた債権」といえるか。
留置権の本質は、物の返還を拒絶し債務者に心理的圧迫を加え債務の弁済を促す点にある。そうだとすれば、債務者者に心理的圧迫を加えて債務の弁済を促し得るという関係が必要である。
したがって、②「その物に関して生じた債権」といい得るためには、留置権の成立時点(被担保債権成立の時点)において、被担保債権の債務者と目的物の引渡請求権者が同一人であること(引渡義務と被担保債権とが同一の法律関係から生じていること)が必要であると解する。
本件において、被担保債権の債務者はAであり、一方で、目的物たる甲土地の引渡請求権者はCであるので、同一人ではない。
したがって、②「その物に関して生じた債権」ということはできない (②不充足)。よって、BはAに対する損害賠償請求権を被担保債権として、留置
権を主張してCに対して明渡しを拒むことはできない。
3 以上から、Bの留置権の主張は認められず、Cの請求は認められる。
第2 問2
1 DのEに対する請求は、賃貸借契約の終了に基づく目的物返還義務(601条)を根拠とするものである。そして、Dの解除は適法になさ れているから、賃貸借契約は終了しているといえる。
2(1) 一方で、Eは留置権の成立を主張してこれを拒んでいるので、その成立要件を検討する。被担保債権は、乙建物の屋根の一部の破損を修理した際に要した費用に関する必要費償還請求権(196条1項)である。
(2) 以下、留置権の成立要件について検討する。
Eは、①D所有の乙建物を占有している(①充足)。また、上記被担保債権は、乙建物という占有の目的物そのものから生じており、②「その物に関して生じた債権」といえる(②充足)。そして、上記被担保債権は、③物の返還時に「弁済期」が到来する(③充足)。最後に、④Eの乙建物の占有は賃貸借契約に基づいて開始したものであるから、「占有が不法行為によって始まった」とはいえない(④充足)。
したがって、留置権の成立要件には問題がないかに思える。
(3)ア もっとも、Eは賃貸借契約の解除後を知りながら必要費を支出している。そうすると、占有が不法となり、それを認識していながら、被担保債権を取得したものであるといえる。このようなEを保する必要はないのではないか。
イ 留置権の趣旨は、当事者間の公平にある。295条2項が「占有が不法行為によって始まった」場合について留置権の成立を否定しているのは、留置権の成立を認めることが公平に反するからである。そうだとすれば、途中から不法占有になった場合も、当事者間の公平の観点から、留置権は成立しないと解すべき場合がある。法的根拠としては295条2項を類推適用すればよい。
したがって、途中から不法占有になった場合において、留置権を認めることが当事者間の公平の理念に反するときは、留置権は成立しないと解する。
ウ 本問において、Eの債務不行を原因とする賃貸借契約の終了によりEは不法占有者になっており、また、Eは当然そのことを認識していると思われるから、悪意である。そうだとすれば、Eに留置権の成立を認めることは当事者間の公平の理念に反するといえる。 したがって、上記請求権を被担保債権とした留置権は成立しない。
3 以上から、Eの留置権の主張は認められず、Dの請求は認められる。
以上

問題解答音読

手書き解答

以上が抜けていますが、ここで終わりです