刑事訴訟法第23問

2022年11月24日(木)

問題解説

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問題

捜査機関は、甲を、都内を中心に頻発している振り込め詐欺を行っているグループの主導者であるとの嫌疑で逮捕、勾留し、これについて取調べをしていた。ところが、勾留3日目になって振り込め詐欺グループの一員であると疑われていたVの遺体が山中で見つかったことから、甲が、目標額に達しなかったVにリンチを加え、死亡したVを遺棄したのではないかと強く疑われた。そこで、警察官Pは、勾留3日目からは殺人の被疑事実についての取調べを行った。
その後、甲は詐欺の事実で起訴され、被告人として勾留されている。検察官Qは、第1回公判期日前において、起訴済みの詐欺事件について、共犯者間の役割の関係に未だ不明瞭な点があると感じたため、甲に対して出頭義務がないことを告知した上で甲を取り調べた。甲も、沢山の人を騙したことを後悔していたので、進んでこの取調べに応じた。
P及びQによる取調べは適法か。なお、違法性の承継については触れなくてよい。

解答

第1 Pの取調べについて
1 本問では詐欺罪での勾留中、殺人、死体遺棄被疑事件についての取調べを行っている。このような身柄拘束の基礎となっていない被疑事実について身柄拘束中の被疑者を取り調べることは適法か。
捜査において捜査機関は被疑者を取り調べることができるが(198条1項)余罪について取り調べることができるかは別問題である。
2 条文上被疑者の取調べを身柄拘束の基礎となった被疑事実に限定する趣旨は窺われない。
この点につき、取調べに対して事件単位の原則を適用し、原則とし て、余罪取調べを否定する見解がある。
しかし、逃亡、罪証隠滅防止のための制度である逮捕、勾留と証拠収集活動である取調べは異なる制度であるから、取調べと事件単位原則を結びつけることはできない。
そうだとすれば、余罪の取調べは、それが任意捜査で行われる限り、無制限に行うことができるのが原則である。
もっとも、余罪の取調べが具体的状況下において令状主義を潜脱するものである場合には、当該取調べは違法となると考えるべきである。具体的には、①本罪と余罪の関係、②罪質、軽重の相違、③余罪の嫌疑の程度、④その取調べの態様等を考慮して判断すべきである。
3 本問についてみると、確かに③余罪たる殺人、死体遺棄事件は、勾留後に偶然発覚したものにすぎず、捜査機関に、身柄拘束の当初より、詐欺の身柄拘束を利用して殺人事件を取り調べる意図があったとはいえない。
しかし、①本罪と余罪は詐欺と殺人、死体遺棄であって関連性は密接とまでは言い難く、また、②余罪の方が勾留の被疑事実である振り込め詐欺より重大事犯であるといえる。
さらに、勾留3日目からは、余罪の取調べに重きが置かれているものと考えられる。
以上の事実からすると、Pの取調べは令状主義を潜脱するものであるといえる。
4 よって、Pの取調べは違法である。
第2 Qの取調べについて
1 甲は起訴されて被告人となっているから、Qの取調べは、被告人に対する取調べである。198条1項は「被疑者…を取り調べることができる」としているため、そもそも、被告人を取り調べることが許されるか問題となる。
2 確かに、刑事訴訟法の採用する当事者主義(298条1項、312条1項等)及び公判中心主義(282条1項、303条等)の観点から、起訴後の取調べは、できる限り避けなければならない。しかし、任意捜査は、一般的に197条1項により、起訴の前後を問わず認められているのであるから、198条の「被疑者」の文言を根拠にこれを否定するのは妥当でない。
そこで、公訴維持のために必要があれば、任意捜査として行われる限度で許容されると解する。
3 本問についてみると、Qは出頭義務がないことの告知をしており、甲はそれを知りつつ進んで取調べに応じている。このような事情からは、Qの取調べは任意捜査の限度で行われているといえる。
4 よって、Qの取調べは適法である。
以上

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