行政法第8問

2022年8月11日(木)

問題

A県知事は、平成7年12月19日、運輸大臣に対してA空港の設置許可申請をし、運輸大臣は、平成8年7月26日、航空法第38条第1項に基づき、同空港の設置処分をした。
起業者であるA県は、A空港整備事業(以下「本件事業」という。)のために土地を収用し又は使用することが必要であるとして、平成16年11月30日、土地収用法(以下「法」という。)第16条に基づき、国土交通省Z地方整備局長(以下「Z」という。)に対して、本件事業認定の申請をし、平成17年7月5日、国土交通大臣から権限の委任を受けたZが、法第20条に基づき、事業認定をした(以下「本件事業認定」という。)。
A県は、A県収用委員会に対し、法第39条第1項に基づく裁決の申請及び法第47条の2第3項に基づく明渡裁決の申立てをし、これを受けた同委員会は、平成18年10月18日、同年11月2日及び平成19年1月19日の各日付で、起業地内の土地及び建物の権利を有するXらに対し、収用又は使用する区域、土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失の補償、権利取得の時期等の事項を定める旨の権利取得裁決をし、物件の所有権に対する損失の補償、明渡しの期限等の事項を定める旨の明渡裁決をした(以下、上記権利取得裁決及び上記明渡裁決を総称して「本件収用裁決」という。)。
Xらは、本件事業認定には違法があるため、本件収用裁決は取り消されるべきであると考え、取消訴訟を提起した。
本件事業認定に処分性が認められることを前提として、本件収用裁決の取消訴訟において本件事業認定の違法性を主張することができるか否かについて、以下の【判例】を踏まえ、肯定する立場・否定する立場の双方から論じなさい。
【判例】最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決・民集63巻10号26 31頁「本件条例(注:東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号))4条1項は規模な建築物の敷地が道路に接する部分の長さを一定以上確保することにより、 避難又は通行の安全を確保することを目的とするものであり、これに適合しない建築物の計画について建築主は建築確認を受けることができない。同条3項に基づく安全認定1項所定の接道要件を満たしていない建築物の計画について、同項を適用しないこととし、建築主に対し、建築確認申請手続において同項所定の接道義務の違反がないものとして扱われるという地位を与えるものである。
平成11年東京都条例第41号による改正前の本件条例4条3項の下では、同条1項所定の接道要件を満たしていなくても安全上支障がないかどうかの判断は、建築確認をする際に建築主事が行うものとされていたが、この改正により、建築確認とは別に知事が安全認定を行うこととされた。これは、平成10年法律第100号により建築基準法が改正され、建築確認及び検査の業務を民間機関である指定確認検査機関も行うことができるようになったこと(法6条の2、7条の2、7条の4、77条の18以下参照)に伴う措置であり、上記のとおり判断機関が分離されたのは、接道要件充足の有無は客観的に判断することが可能な事柄であり、建築主事又は指定確認検査機関が判断するのに適しているが、安全上の支障の有無は、専門的な知見に基づく裁量により判断すべき事柄であり、知事が一元的に判断するのが適切であるとの見地によるものと解される。以上のとおり、建築確認における接道要件充足の有無の判断と、安全認定における安全の判断は、異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが、もともとは一体的に行われていたものであり、避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。そして、前記のとおり、安全認定は、建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり、建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。」
「他方、安全認定があっても、これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない(これに対し、建築確認については、工事の施工者は、法89条1項に従い建築確認があった旨の表示を工事現場にしなければならない。)。そうすると、安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても、その者において、安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく、建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて、その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない。」
【資料】 土地収用法(昭和26年6月9日法律第219号)(抜粋)
(土地を収用し、又は使用することができる事業)第3条 土地を収用し、又は使用することができる公共の利益となる事業は、次の各号のいずれかに該当するものに関する事業でなければならない。
十二航空法(中略)による飛行場(中略)で公共の用に供するもの 十三~三十五(略)(事業の認定)第16条起業者は、当該事業又は当該事業の施行により必要を生じた第3条各号の一に該当するものに関する事業(以下「関連事業」という。)のために土地を収用し、又は使用しようとするときは、この前の定めるところに従い、事業の認定を受けなければならない。(事業の認定の要件)第20条 国土交通大臣又は都道府県知事は、申請に係る事業が左の各号のすべてに該当するときは、事業の認定をすることができる。一事業が第3条各号の一に掲げるものに関するものであること。 二業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。 三事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。四土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること。(公聴会)第23条 国土交通大臣又は都道府県知事は、事業の認定に関する処分を行おうとする場合において、当該事業の認定について利害関係を有する者から(中略)公聴会を開催すべき旨の請求があつたときその他必要があると認めるときは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない。2 前項の規定による公聴会を開こうとするときは、起業者の名称、事業の種類及び起業地並びに公聴会の期日及び場所を一般に公告しなければならない。 3(略)(事業の認定の告示)第26条 国土交通大臣又は都道府県知事は、第20条の規定によつて事業の認定をしたときは、遅滞なく、その旨を起業者に文書で通知するとともに、起業者の名称、事業の種類、起業地、事業の認定をした理由及び次条の規定による図面の縦覧場所を国土交通大臣にあつては官報で、都道府県知事にあつては都道府県知事が定める方法で告示しなければならない。2 都道府県知事は、前項の規定による告示をしたときは、直ちに、国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。3 国土交通大臣は、第1項の規定による告示をしたときは、直ちに、関係都道府県・知事にその旨を通知しなければならない。4事業の認定は、第1項の規定による告示があつた日から、その効力を生ずる。(起業地を表示する図面の長期縦覧)第26条の2 国土交通大臣又は都道府県知事は、第20条の規定によつて事業の認定をしたときは、直ちに、起業地が所在する市町村の長にその旨を通知しなければならない。2 市町村長は、前項の通知を受けたときは、直ちに、(中略)起業地を表示する図面を、(中略)公衆の縦覧に供しなければならない。 3(略)(収用又は使用の裁決の申請)第39条起業者は、第26条第1項の規定による事業の認定の告示があつた日から1年以内に限り、収用し、又は使用しようとする土地が所在する都道府県の収用委員会に収用又は使用の裁決を申請することができる。2 土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(括弧内略)は、自己の権利に係る土地について、起業者に対し、前項の規定による申請をすべきことを請求することができる。(以下略)3(略)(却下の裁決)第47条収用又は使用の裁決の申請が左の各号の一に該当するときその他この法律の規定に違反するときは、収用委員会は、裁決をもつて申請を却下しなければならない。申請に係る事業が第26条第1項の規定によつて告示された事業と異なるとき 二 申請に係る事業計画が第18条第2項第1号の規定によつて事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく異なるとき。(収用又は使用の裁決)第47条の2 収用委員会は、前条の規定によつて申請を却下する場合を除くの外、収用又は使用の裁決をしなければならない。2 収用又は使用の裁決は、権利取得裁決及び明度裁決とする。3 明渡裁決は、起業者、土地所有者又は関係人の申立てをまつてするものとする。4(略)

解答

第1 違法性の承継を肯定する立場
1 本件事業認定は「処分」(行政事件訴訟法3条2項)に該当するため、取消訴訟の排他的管轄に服する結果、同訴訟により事業認定の効力を失わせた後でなければ、同処分の違法性を後行訴訟で主張することはできないのが原則である。
2 もっとも、先行処分である本件事業認定に無効の瑕疵がある場合、後行処分である本件収用裁決も当然に無効となる。なぜなら、先行処分が無効であれば、公定力・不可争力は認められないから、その効力の無効を前提として後行処分の効力を考えることになるからである。よって、この場合は、本件収用裁決の取消訴訟において、本件事業認定の違法を主張することができる。
3 これに対して、先行処分に取り消し得る権限があるにとどまる場合、上記のように原則として本件事業認定と後行処分である本件収用裁決の違法性は別個に判断されるから、本件事業認定の違法性を本件収用裁決の取消訴訟において主張することはできない。しかし、①両者が1つの目的・効果の実現を目指す一連の手続を構成していると評価できるかという実体法的側面、及び②先行行為の適否を争うための手続的保障が制度上十分であるかといった手続法的側面の両面から考察し、後続行為の取消訴訟において、先行行為の違法性を取消事由として主張させることが相当である場合には、違法性の承継が認められる。その場合には、取消訴訟により事業認定の効力を失わせることなく、本件事業認定の違法性を本件収用裁決の取消訴訟において主張することができる。
4(1)先行の事業認定は、起業者の申請に基づき、起業者に収用権を付与する処分であるところ、土地所有権の消滅取得という法効果は収用裁決によって完成するのであるから、事業認定もそれに至る一つの段階と位置づけ得る。そのため、両者は1つの目的・効果の実現を目指す一連の手続を構成していると評価できる(①充足)。
(2)また、法令に従った公告、縦覧、公聴会等の手続が実施されるとしても、事業認定段階で国民が訴訟を提起することが期待できるとはいえず、これらの点のみでは手続保障としては不十分であるから、手続法的側面からも違法性の承継が認められるべきである(②充足)。
5 したがって、先行処分に取り消し得る暇疵があるにとどまる場合であっても、Xらは、本件収用裁決の取消訴訟において、本件事業認定の違法性を主張することは許されるというべきである。
第2 違法性の承継を否定する立場について
1 ①について
事業認定が法20条各号の全てに該当するときになされるものである一方、収用裁決において、収用委員会は、申請にかかる事業が告示された事業と異なるとき及び申請にかかる事業が事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく異なるときを除き、収用又は使用の裁決をしなければならないものであり(法47条、47条の2第1項)、事業認定の適法性について審理することが予定されているものではない。そして、各処分それぞれについて取消訴訟を提起することができるものである。そうだとすれば、事業認定と収用裁決が1つの目的・効果の実現を目指す一連の手続きを構成していると評価できない(①不充足)
2 ②について
また、本件事業認定手続において、起業地又は起業予定地内に権利を有する者に対し、法令に従った公告・縦覧・公聴会等の手続が実施される(法23条、26条、26条の2)。そうだとすれば、本件事業認定手統に際して、事業認定が行われることを争おうとする者に申請の内容、起業地又は起業予定地等を知る機会が保障されていたと認められる。したがって、Xらにおいて、本件事業認定の取消訴訟を提起する機会が保障されているから、手続的保障が制度上十分であるといえる(②不充足)
3 以上からXらは、本件収用裁決の取消訴訟において、本件収用裁決の違法事由として、本件事業認定の違法性を主張することは許されないというべきである。
以上

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