転職活動

上司や同僚、家族からのふとした「言葉」が、あなたを変えたことはありますか。誰かの心を救い、あるいは奮い立たせた言葉の数々を、エピソードを添えてお伝えします。

霧島英子(37歳、仮名)

新卒の時には得意だったはずの面接の場が、しらけた空気になっていた。
 
「環境を変えたい」と思ってエントリーした、第二新卒の中途採用面接。しかし、「これまで頑張ってきたことは何ですか」というありきたりな質問に、答えられない自分がいた。思いつくのは学生時代のエピソードばかり…。
 
あれ。社会人になってから、私、何やってきたんだっけ。

新卒で金融機関に入社して、すぐに「合わない」と思った。
 
お客様に記入してもらった書類は、ちょっとの書き損じでも突き返される。厳しいルールに「なんの意味があるの?」と、うんざりしながら手を動かすうちに、気持ちは離れていった。
 
「会社の外には、自分の活躍できるところがきっとある」。今なら分かる。それは甘かった。

面接で口ごもる自分に、男性の面接官は尋ねた。
 
「この1年間、何をしてきたんですか。成功も、失敗もしていないですよね」
 
叱るわけでも、バカにしたふうでもない。淡々と言われたのが余計に衝撃だった。自分がなんと返事をしたのか、もう覚えていない。
 
面接が終わって会社を出て、高層ビルの明かりを眺めた。寒空の下で、情けないなと心底思った。
 
「『これをやりました』って自信をもって言えることがないと、自分が行きたい場所には行けないんだ。それが社会人なんだ」。あの景色は、一生忘れないと思う。

「今日はこの書類を完璧に仕上げるのが、私のミッションだ」
 
「小さなことでも、お客様に『YES』って言ってもらえるように提案してみよう」
 
それから、気持ちを入れ替えて仕事に取り組んでみた。コツは、「ゲーム」だと思うこと。つまらなかった仕事はだんだん楽しくなり、周囲も手を貸してくれるようになった。

金融機関にはそれから3年勤めた。最後は自分で「この仕事、結構向いてるかもな」と思うほどになり、転職する際には周囲が心から惜しんでくれた。自分の理想とする引き際だ。

2社目、3社目とキャリアを積み上げ、IT企業で働き始めた。「変わるのは、いつからでも遅くはない」。その心意気で新しい業界にも挑戦できるのは、1社目でやり切った経験があったからに他ならない。

落ちた面接が、私の人生を変えてくれた。