刑法第3問

問題

 甲は乙に対して、報酬を支払うことを約束して、Aを殺すように依頼した。そこで、乙は、ある夜Aを殺そうとして待ち伏せていたが、まわりが暗かったために、BをAだと思い、ピストルを発射してBを殺してしまった。
 甲及び乙の罪責を論じなさい。

解答 自作最新 2022年7月10日(日)

第1 乙の罪責
1 乙は、殺意をもってピストルでBを射殺しており、人を殺したとして、殺人罪(199条)の罪責を負うか検討する。本件行為は、殺人罪の客観的構成要件に該当するものの、乙はBをAと誤信して殺害しており、故意(38条1項本文)が認められるか問題となる。
2 この点、故意責任の本質は犯罪事実の認識によって反対動機が形成できるのに、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難である。そして、犯罪事実は、刑法上構成要件として類型化されており、かつ、各構成要件の文言上、具体的な法益主体の認識までは要求されていない。そして、認識した犯罪内容と発生した事実がおよそ構成要件の範囲内で符合していれば犯罪事実の認識があったと考えられ、故意が認められると解する。
3 本件では、乙のA殺害の認識と乙が実行したB殺害の結果はともに人の殺害という構成要件の範囲内で一致している。よって、乙の故意は認められる。
4 以上より、乙は殺人罪の罪責を負う。
第2 甲の罪責
1 甲は乙に対してAを殺害するよう依頼し、Bを殺害させている。そのため、甲は乙を教唆し殺人を実行させたとして、殺人罪(199条)の教唆犯(61条10)の罪責を負うか検討する。本件教唆行為によって、実際に正犯乙が殺害したのはAではなくBであり、甲の依頼と異なる結果となっている。そのため、甲には殺人教唆の故意(38条1項)が認められるか問題となる。
2 この点、認識した犯罪内容と発生した事実がおよそ構成要件の範囲内で符合していれば犯罪事実の認識はあったと考えられ、故意が認められると解する。
3 本件では、甲のA殺害依頼の認識と正犯者乙が実行したB殺害の結果はともに人の殺害という構成要件の範囲内で一致している。よって、甲の故意は認められる。
4 以上より、甲は殺人罪の教唆犯の罪責を負う。
以上
(776文字)

問題解答音声
解説音声

◁行政法第3問

▷刑事訴訟法第3問

解答 アガルート

第1 乙の罪責について
1 乙は、殺意をもってピストルでBを射殺しているので、「人を殺した」として、殺人罪(199条)の罪責を負う可能性がある。
上記行為は、殺人罪の客観的構成要件に該当する。しかし、乙はBをAと誤信して殺害しており、故意(38条1項本文)が阻却されるのではないか。
2 故意責任の本質は犯罪事実の認識によって反対動機が形成できるのに、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難である。
そして、犯罪事実は、刑法上構成要件として類型化されており、かつ、各構成要件の文言上、具体的な法益主体の認識までは要求されていないと解されるから、認識した内容と発生した事実がおよそ構成要件の範囲内で符合していれば犯罪事実の認識があったと考えられ、故意が認められると考える。
3 本問では、乙はAという「人」を殺害するつもりで、Bという「人」を殺害しているにすぎないから、同一構成要件内で主観と客観が一致している。したがって、乙の故意は阻却されない。
 以上から、乙は殺人罪の罪責を負う。
第2 甲の罪責について
1 甲は乙に対してAを殺害するよう依頼し、Bを殺害させている。そのため、甲は乙を「教唆して」殺人罪(199条)を「実行させた」として、教唆犯(61条10)の罪責を負う可能性がある。
 しかし、実際に乙が殺害したのはBであり、甲の依頼と異なる結果が生じている。 そのため、甲には同罪の故意(38条1項)が認められないのではないか。
2 前述のように構成要件の範囲内で主観と客観が一致していれば故意責任を問い得る。
3 本間においては、甲の主観と正犯者である乙が実行した結果はともに「人」という構成要件の範囲内で一致しているので、甲には故意が認められる。
 以上から、甲は殺人罪の教唆犯の罪責を負う。
以上