商法第8問

2022年8月8日(月)

問題

X社の発起人代表は、発起人全員の合意に基づき、第三者から払込資金を借り入れ、各発起人の引き受けた株式の払込みに充て、設立登記を済ませた。その発起人は、代表取締役に就任し、設立登記直後に、払込取扱銀行からその払込金相当額の払戻しを受けて、借入れ先に返済した。この場合、X社の設立の効力につきどのような問題を生ずるか。また、だれがどのような責任を負うことになるか。
(旧司法試験昭和57年度第1問(一)改題)

解答

第1 払込みの効力
1(1)本問では、第三者から払込資金を借り入れ、各発起人の引き受けた株式の払込みに充てた上で、払込取扱銀行からその払込金相当額の払戻しを受けており、いわゆる見せ金に該当する可能性がある。
(2)仮に見せ金に当たる場合、その払込みは無効であると解する。なぜなら、引受け、払込み及びその後の払戻しのいずれも有効なものであるが、会社にとって実質的には財産が確保されておらず、見せ金行為を全体としてみると、個々の行為は仮装払込みのためのからくりの一つにすぎないからである。
(3)ただし、見せ金においては、個々の行為が適法であるから、見せ金による払込みと適法な払込みとの区別は難しい。そのため見せ金か否かの判断は慎重になされなければならない。具体的には、①借入金を返済するまでの期間の長短、②会社資金としての運用の事実の有無、③借入金の返済と会社の資金関係に及ぼす影響の有無などの事情をもって総合判断すべきである。本問では、①資本金を設立登記直後に払い戻しており、②会社資金としての運用もないと推測される。また、③発起人による払込金全額を返済に充てており、会社財産全額が払い戻されているから、会社の資金関係に及ぼす影響は甚大である。したがって、本問における払込みは見せ金に当たると解すべきである。
3 以上から、本問における払込みは、無効である。
第2 設立の効力
1 会社の設立は、多数の利害関係人がいるため、設立無効の訴え(会社法(以下、法令名省略。)828条1項1号)によらなければ、無効として、無効原因は、法定されていないが、設立が無効になると利害関係人に多大なる影響が及ぶことから、限定的に解さなければならない。具体的には、設立手続に重大な不能がある場合に限られると解すべきである。
2 そこで、払込みが無効であるという上記理由が重大な瑕疵といえるかを検討する。
(1)払込みが無効であれば、本問では一切有効な払込みがないことになるから、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)を満たさない。その場合、予定された事業が遂行できないおそれがあるため、設立手続について重大な瑕疵が生じ、設立無効原因があることになる。もっとも、仮装払込みに関する義務(52条の2)履行等によって最低財産が確保されるなど瑕疵が事後的に治癒されれば、設立無効事由は消滅する。
(2)本件の払込みは上記のように仮装払込みであって無効であり、「払込み」をなしていないことになる。この場合に、仮に、株式が未成立(不存在)となるのであれば、発起人全員が株主になることができないため、発起人が0人となり、「各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を一株以上引き受けなければならない」と定める25条2項違反という設立無効原因があることになる。この点について、52条の2第5項、102条4項が支払義務の履行がない場合であっても、善意・無過失の譲受人のもとでは株主権を行使できることとしていることとの整合性から、株式発行自体は有効であり、株式発行の無効原因もないと考える。そうだとすれば、株式は有効に成立しているため、25条2項に違反しない。
第3 責任を負う者及びその範囲
1 見せ金をした発起人の責任
本問では、発起人全員が仮装し払込みを行っているので、52条の2第1項に従って責任を負う。任務懈怠責任として、会社・第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(53条1項、2項)。
2 代表取締役の責任
代表取締役が自己及び他の発起人の借入金の返済に充てるために株式会社の金銭を取得する行為は、法律行為に関する限り、利益相反取引(356条1項2号)に当たり、任務懈怠責任を負う(423条1項)。この場合、任務懈怠の推定(423条3項1号)があり、無過失責任を負担する(428条1項)。第三者に損害が生じた場合には、第三者に対する賠償責任を負担する可能性もある(429条1項)。
以上

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