商法第16問

2022年10月3日(月)

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問題

X社は、公開会社でない株式会社であり、従業員の福利厚生・愛社精神の育成を目的として、従業員持株制度を採用している。X社は、従業員持株制度の醸成のために一定額の資金援助を行っている。
Yは、X社の従業員であり、上記従業員持株制度によりX社の株式を取得した。その際、X社Y間で、Yの退職時にはYが当該株式を取得価額で持株会に譲渡する旨の合意がなされた。 本件従業員持株制度およびX社Y間の合意の問題点について論じなさい。なお、X社の配当性向は、毎年およそ80%であるものとする。

解答

第1 株式の自由譲渡(会社法(以下、法令名省略。)127条)との関係
1 本件の従業員持株制度に基づく合意は、従業員であるYが退職した際に、取締役会が指定する者に取得価格で譲渡することを強制するという内容であり(以下「本件合意」という。)、契約による譲渡制限に当たる。
このような契約による譲渡制限は、株式譲護自由の原則(127条)や公序良俗(民法90条)に反し、無効ではないか。
この点について、契約自由の原則からすれば、契約による株式譲渡制限は原則として有効である。もっとも、同条の趣旨は、株主の投下資本回収の方法を確保する点にあるから、株主の投下資本回収を不当に妨げる場合には、当該契約は、127条の趣旨に反し、公序良俗に反するものとして、無効であると解する。
2 では、本件合意は公序良俗に違反しないか。
X社は非公開会社であるから、もともとX社株式には市場性がなく、Yとしては、将来の価格が取得価格を下回ることによる損失を被るおそれもない反面、およそ将来の譲渡益を期待し得る状況にもなかったということができる。そして、Yは、自由意思により入社持株会から額面金額で本件株式を買い受け、本件合意をしたものであって、X社株式を取得することを事実上強制されていたというような事情はうかがわれない。さらに、X社は、例年80%前後の配当を行っていたのであるから、多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれを全て会社内部に留保していたというような事情も見当たらない。
以上によれば、本件従業員持株制度及び本件合意は、株式譲渡自由の原則や公序良俗に反するものではなく、有効というべきである。
第2 株主平等との関係
X社は従業員持株制度の奨励のために一定額の資金援助を行っている。このように株式購入資金を与えることは株主平等原則(109条1項)に反するおそれがある。
しかし、従業員持株制度は従業員に対する福利厚生、愛社精神の育成などを目的としてなされるものである。そうだとすれば、このような株式購入資金は給与等に準ずるものとみることができる。すなわち、 資金は、株主としての地位に基づいてではなく、従業員としての地位に基づいて支給されるものということができる。
したがって、株主平等原則に違反しない。
第3 利益供与との関係(120条)
奨励金の支給は株主に対して無償で行われるから、120条2項前段により利益供与との推定が働く。しかし、福利厚生目的であることを会社が立証できれば、推定は覆ることとなる。
本件では、X社は従業員の福利厚生・愛社精神の育成を目的として、従業員持株制度を採用しているのであるから、上記立証をすることができれば、指定は覆る。
第4 結論
以上より、本件従業員持株制度及びX社Y間の合意は、有効となる。

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