民法第16問

2022年10月2日(日)

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問題

Aは、自己所有の土地(以下「本件土地」という。)をBに売却し、同土地をBに引き渡したが、まだ登記はされていない。その後、Bは、Cに対して本件土地を転売して引き渡したが、BC間でも登記はされていない。ところが、その後、Bがいつまで経ってもAに代金を支払わないので、AはBに催告した上、Bとの契約を解除し、本件土地をDに売却した。ただし、本件土地の登記は、いまだにA名義のままである。CD間の法律関係について、論じなさい。

解答

第1 D及びCの主張
Dは、本件土地の所有権を取得したとして、本件土地を占有するCに対して請求をすることが考えられる。
これに対して、Cは、①Bとの間で本件土地の売買契約(555条)を締結したことによって本件土地の所有権を取得している、②Dは本件土地の所有権移転登記を経ていないから、所有権の取得を自己に対抗することはできない(177条)と反論するだろう。
そこで、以下①及び②の当否について検討する。
第2 反論①について
1 本件では、CがBから転売を受けた後、AがAB間でなした売買契約を、Bの代金不払を理由に解除している(541条)。
そのため、Cは「第三者」(545条1項ただし書)として保護されない限り本件土地の所有権を取得することはできない。では、Cは「第三者」に当たるか、その意義が問題となる。 2 この点について、解除の趣旨は、解除権者を双務契約の法的拘束から解放して契約締結前の状態を回復させる点にあり、解除により契約は遡及的に消滅すると解する。
そうだとすれば、545条1項ただし書の趣旨は、解除の遡及効を制限して、第三者を保護したものと考えられ、「第三者」とは、解除前の第三者に限られると解する。なお、債務が履行される可能性がある以上、悪意者も保護の対象となる。 また、何ら帰責性のない解除権者の性の下に第三者を保護するものである以上、「第三者」は権利保護要件として登記を備えるべきと解する。
3 本件では、前記のとおり、CはAの解除前にBから本件土地の転売を受けており、解除前の第三者といえる。もっとも、本件土地の登記は、未だA名義のままであり、Cは権利保護要件としての登記を備えていない。したがって、Cは「第三者」として保護されず、本件土地の所有権を取得し得ない。
よって、反論①は認められない。
第3 反論②について
1 本件でAは、Bとの本件土地の売契約を解除した上で、同土地をDに売却している。
そして、前述したように、解除によりAB間の売買契約は遡及的に消減すると解されるため、解除によりAは遡って本件土地の所有者であったことになる。
そこで、かかるAと売買契約を締結したDは、これにより本件土地の所有権を取得したといえる。
2 そうだとしても、本件土地の登記は、未だA名義のままであり、Dは所有権移転登記を経由していないため、Cが「第三者」(177条)に当たれば、Dは所有権取得をCに対抗できない。
では、Cは「第三者」に当たるか、その意義が問題となる。
1 177条は、自由競争の枠内にある者同士の優劣を決するための規定であるから、「第三者」とは当事者若しくはその承継人以外の者で不動産に関する物権の得喪について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者を指すと考える。
Cは前述したとおり本件土地の所有権を取得し得ず、無権利者であ る。したがって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者とはいえず、177条の「第三者」には当たらない。 したがって、Dは本件土地の所有権取得をCに対抗できる。
よって、反論②も認められない。
第4 以上より、DはCに対して、本件土地の明渡請求をすることができる。
以上

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