刑事訴訟法第16問

2022年10月8日(土)

問題解説

問題

司法警察職員数名は、麻薬所持で現行犯逮捕したAの自白により、麻薬をAに不法譲渡した疑いでXを緊急逮捕するためX宅へ赴いたが、Xは不在であった。留守居をしていたXの娘Bが言うには、Xはすぐ帰宅するとのことだったので、司法警察職員らは、同住居内を捜索し、住居2階にあるXの妻であるYの部屋で麻薬を発見し、これを差し押さえた。司法警察職員らは、さらに捜索を継続中、捜索開始後40分してXが帰宅したので、Xを玄関先で緊急逮捕した。
この捜索差押えの適法性について論じなさい。なお、上記緊急逮捕は適法に行われたものとしてよい。

解答

第1 問題の所在
本問では、司法警察職員らは、無令状でX宅を捜索し、麻薬を発見して差し押さえているところ、その後Xは適法に緊急逮捕されている(210条)から、「逮捕する場合において必要がある」(220条1項柱書後段)として、「逮捕の現場」における捜索差押え(同条1項2号、3号)に当たるとみることはできないか。
第2 「逮捕の現場」(220条1項2号)該当性
1 令状主義(218条1項)の例外として逮捕に作って捜索差押えをすることが許されるのは、逮捕時の逮捕者の安全確保や証拠破壊の防止等に加え、逮捕の現場には証拠存在の蓋然性が認められるため、証拠確保のための合理的な手段であると考えられるからである。
そうだとすれば、「逮捕の現場」は、捜索差押許可状が請求されれば許容されるであろう相当な範囲を指すと解するのが相当である。具体的には、被逮捕者の身体及び直接の支配下のみならず、逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲も「逮捕の現場」に含まれると解する。
2 これを本問についてみると、司法警察員らが逮捕したのはX宅の玄関先であり、Xの管理権の及ぶ範囲である。司法警察員らが捜索しているのはX宅の住居内であるYの部屋である。Yの部屋については、一次的にはYが使用しているものと考えられるものの、XとYは夫婦であることからすれば、Yに独立の管理権を認める必要性は乏しく、端的にXの管理権の及ぶ範囲であると考えれば足りると解される。したがって、Yの部屋は逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲といえる。
3 よって、司法警察員らが捜索した場所は「逮捕の現場」に当たる。
第3 「逮捕する場合」(220条1項柱書)該当性
1 そうだとしても、司法警察員らが捜索を開始したのはXを逮捕する前である。この場合でも220条1項2号により無令状捜索差押えが認められるのか、「逮捕する場合」の意義が問題となる。
2 前述のとおり、同条の趣旨は、逮捕の現場には証拠存在の蓋然性が認められるため、証拠確保のための合理的な手段として無令状の捜索差押えを認めることにある。
そして、証拠存在の蓋然性、必要性は、逮捕着手時の前後関係によって変化するものではない。したがって、逮捕着手前であっても、「逮捕する場合」に当たり得る。もっとも、同条項の捜索差押えは逮捕を前提として許容されるものであるから、逮捕との時間的接着性を必要とするべきである。
3 これを本問についてみると、確かに、司法警察員らは、逮捕前に搜索に着手している。
しかし、司法警察職員らは、麻薬所持で現行犯建捕したAの自白により、麻薬をAに不法譲渡した疑いでXを緊急逮捕するためX宅へ赴いている。そして、Xの娘Bの「Xはすぐ帰宅する」との供述を前提として捜索を着手したものである。
そうだとすれば、Xが帰宅次第緊急逮捕できる状況の下で、上記搜索に着手したものということができ、また、そのような状況において、実際に捜索開始から40分後には捜索場所であるX宅においてXを緊急逮捕している。
これらの事情を考慮すれば、上記捜索差押えに逮捕との時間的接着性が認められるといえる。 したがって「逮捕する場合」に当たる。
司法警察職員らの上記捜索は、220条1項2号により適法である。 また、差し押えられた麻薬は、Xが麻薬をAに不法譲渡したという被疑事実と関連する物件であるから、上記差押えも適法である(222条1項、99条1項)。
以上

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