刑事訴訟法第17問
2022年10月13日(木)
問題解説
問題
次の事例を読み、下記の設問1及び設問2に答えなさい。
事例
被疑者甲及び乙は、東京都S区にあるホテルの7階714号室に同宿していたが、同室で大麻タバコを吸っているところをホテル従業員に目撃された。従業員の通報でホテルに赴いた警察官が、甲を同ホテル2階ロビーで職務質問し、所持品の呈示を求めると甲はこれに素直に応じ、大麻タバコを呈示したため、警察官は甲をその場で大麻所持の現行犯人として逮捕した。警察署に連行される際、甲が自分の荷物を取りに714号室に行きたいと言うので、甲と共に同室に赴いた警察官は、逮捕の際にはその現場で無令状の捜索が許されているとして、同室内を捜索した。また、同室内に乙はいなかったが、このネームタッグのついた施錠されていないスーツケースがあり、警察官はこれについても捜索した。
設問1 上記714号室の捜索の適法性について論じなさい(職務質問・所持品検査及び現行犯逮捕は適法であるものとする。)。
設問2 同室内の乙のスーツケースの捜索の適法性について論じなさい。
(中央大学法科大学院 平成23年度改題)
解答
第1 問1について
1 本件において、警察官は令状なく甲の宿泊するホテルの714号室を捜索しているが、この捜索は適法か。
警察官は甲を現行犯逮捕し、それに引き続き上記捜索をしているため、逮捕に伴う捜索差押え(220条1項2号、3項)の要件を検討する。
2 まず、警察官は、甲を現行犯人として適法に逮捕し、連行している最中に上記捜索をしているから、逮捕との時間的接着性が認められる。したがって、「逮捕する場合」に当たる。また、後記のような客観的事情からも捜索が「必要」(以上、同項柱書前段)であると考えられる。
3(1) もっとも、警察官はホテルの2階ロビーで逮捕しているにもかかわらず、甲と乙が同宿している714号室を捜索している。そこで、714号室が「逮捕の現場」といえるか、その意義が問題となる。
(2) 令状主義(218条1項)の例外として、逮捕に伴う捜索・差押えをすることが許されるのは、逮捕時の逮捕者の安全確保や証拠破壊の防止等に加え、逮捕の現場には証拠存在の蓋然性が認められるため、 証拠確保のための合理的な手段であると考えられるからである。
そうだとすれば、「逮捕の現場」とは、捜索差押許可状を請求すれば許容されるであろう関連性のある相当な場所的範囲を指すと解するべきである。具体的には、逮捕現場の管理者のその同一の管理権が及ぶ範囲内の場所を意味する。
(3) 本問では、ホテル2階のロビーが逮捕現場であるから、その管理権はホテルの支配人にあり、他方714号室の管理権は、第一次的には、甲及び乙に属すると解されるから、管理権が異なる。したがって、714号室は、「逮捕の現場」に当たらないのが原則である。
しかし、甲は自己が宿泊している714号室で大麻タバコを吸っているのを目撃されていること、甲自身が自分の荷物を取りに714号室に行きたいと言っており、714号室に甲の所持品が存在すると考えられることからすれば、714号室には本件に関連する物が存在する蓋然性は高い。220条1項2号によって、無令状捜索差押えが許容される趣旨は、上記のように証拠物の存在する蓋然性の高さに求められるから、上記のような事情の認められる本問においては、例外的に「逮捕の現場」に当たることを認めるべきである。
(4) よって、本件捜索は「逮捕の現場」でなされたといえる。
4 以上より、警察官が714号室を捜索した行為は適法であるといえる。
第2 設問2について
1 警察官が714号室内の乙のスーツケースを捜索した行為はどうか。このように、「逮捕の現場」に存在した第三者の所有物を捜索することは許されるか、条文上明らかでなく問題となる。
2(1) 無令状捜索差押えが許容される上記の趣旨に鑑みれば、「逮捕の現場」に存在した第三者の所有物であっても、上記蓋然性が類型的に認められないとまではいえないから、捜索の対象とすることは可能である。
ただし、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」(222条1項本文、102条2号)捜索をすることができることに留意しなければならない。
2 本件において、甲と乙は同室で大森タバコを吸っていたところを目撃されていることから、このスーツケース内に大麻タバコが存在する蓋然性が認められる。 よって、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」 であるから、このスーツケースを捜索することも許される。
3 以上より、警察官が同室内のこのスーツケースを捜索した行為は、適法である。
以上