憲法第22問

2022年11月14日(月)

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問題

公職選挙法は、同法138条1項においていわゆる戸別訪問を禁止しており、同法239条1項3号はこれに違反した者には1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処するむね定めている。
201x年、政権交代を果たしたA党は、公約としてかねてから戸別訪問の解禁をとなえていたところ、戸別訪問を行う選挙活動員は事前に各選挙管理委員会に登録した上で、選挙運動の期間中、朝8時から夕方6時までの間、当該選挙における戸別訪問を行える旨の法改正を行った。その際、「戸別訪問の弊害が発生するおそれは依然として存在するので、各選挙の当事者である有権者に限ってこれを解禁する」との趣旨から、当該登録が行えるのは、選挙人名簿に登録された有権者に限定されるとされた。永住外国人Xは、戸別訪問を行うべく登録を試みたところ、選挙管理委員会は、Xが有権者ではないことを理由に登録を拒否した。
Xは、選挙管理委員会の登録拒否は憲法に違反することを理由に国家賠償請求訴訟を提起したい、と考えている。あなたがXの訴訟代理人であるとすれば、どのような主張を行うべきか。 また、国側の反論を踏まえ、あなた自身の見解を述べよ。
(慶應義塾大学法科大学院 平成25年度改題)

解答

第1 Xの主張
1 改正後の公職選挙法は、戸別訪問を行うのを登録制とし、有権者に限定して登録を行うと規定している(以下、この要件を「本作要件」という。)が、下記のように14条1項、21条1項に反するものであり、本件要件は違憲無効である。にもかかわらず、公職選挙法の改正に際し、国会が、本件要件を定めたことは、「職務」の執行に関する 「国…の公権力の行使に当る公務員」による「違法」な「公権力の行使」(国家賠償法1条1項)であり、少なくともそれについて「過失」は認められる。これによって、Xは選挙管理委員会に登録を拒否され、精神的苦痛という「損害」を被ったものである。
2 本件要件の14条1項違反について
(1) 本件要件によって、戸別訪問を行うことについて、有権者と非有権者(特に、永住外国人)との間に区別が生じている(以下、この区別を「本件区別」という。)。 本件区別は、下記のように、合理性のない区別であって、14条1項が定める平等権を侵害し、違憲である。
(2) この点について、「社会的身分」(同項後段)とは、人が社会において継続的に占めている地位で、自分の力ではそれから脱却できず、それについてある種の社会的評価が伴っているものをいうところ、有権者か否かはこれに該当する。
14条1項後段の列挙事由による差別は、民主主義の理念の下では本来許されない差別であるから、その憲法適合性の判断には厳格な審査基準が要当する。すなわち、①立法目的が必要不可欠であり、②立法目的達成手段が必要最小限度であることが必要である。
(3) 本件区別の目的は、選挙買収、利益誘導等の弊害を防止することにあると考えられるところ、これらは一応必要不可欠な目的に当たると言えなくもない。
もっとも、本件区別がどのように目的達成に役立つのかという点の立法事実が全く示されていない以上、目的達成と本件区別との関連性すら認められない。仮に、一定の関連性が認められたとしても、少なくとも永住外国人は選挙運動に関して有権者と同視すべきであり、戸別訪間の登録を認めるべきである。よって、手段は必要最小限度のものとはいえない。以上から、本件区別、そしてそれをもたらす本作要件は、14条1項に反し違憲である。
3 本件要件の21条1項違反
本件要件によって、非有権者(特に、永住外国人)の戸別訪問の自由が侵害されている。戸別訪問の自由は、選挙運動の自由の一種であるところ、これは、自己統治の価値が端的に発現する政治的表現の自由にかかるものであり、21条1項によって保障されている。これは外国人にも同様に保障されるべきであるところ、本件要件によってこれが制約されている。
表現の自由の優越的地位に鑑み、憲法適合性の判断には厳格な審査が要求されるところ、本件要件には上記のように合理性が認められない。
よって、本件要件は、21条1項にも違反する。
第2 国側の反論と私見
1 14条1項違反について
(1) 国側としては、「社会的身分」に当たることに特段の意味はないこと、選挙運動のルールについては国会の広い立法裁量が認められることを前提とした上で、緩やかな審査基準によるべきであるとし、本件区別(本件委件)は不合理なものではないと反論するだろう。
(2)ア 私は、かかる反論は結論において失当であると考える。
イ 確かに、選挙権の有無。特に国による区別は「社会的身分」による区別といえるが、14条1項後段列挙事由は例示列挙にすぎず、特段の意味をもつものではない。また、選挙に関する事項を法律事項とした47条の趣旨に鑑み、選挙運動のルールの構築にかかる国会の立法裁量は広範なものであるというべきである。 この点に関する国側の反論は正当である。したがって、区別の目的に合理的な根拠が認められ、かかる目的と具体的な区別との間に合理的な関連性が認められる限り、14条1項に違反するものではない。
ウ 本件区別の目的は、Xの主張するとおりであり、それに合理的な根拠が認められることは明らかである。
しかし、法改正によって、選挙運動の期間中、朝8時から夕方6時までの間、当該選挙における戸別訪問を行うことが許されているのであり、その限度では戸別訪問の弊害はない、あるいは小さいと国会が判断しているものと思われる。
そうすると、有権者以外の者が戸別訪間を行うことによって、どのように弊害が生じ得るのかという点についての立法事実が必要であるが、公職選挙法の改正に際し、「戸別訪間の弊害が発生するおそれは依然として存在する」としか論じられていない。むしろ、当該選挙の有権者の方が、自己の利害が当該選挙によって左右される のであるから、選挙買収、利益誘導等へのインセンティブが強く働くとも考えられるところである。 よって、目的達成と本件区別との間に合理的な関連性はない。 以上から、本件区別、そしてそれをもたらす本件要件は、14条1項に反し、違憲である。
2 21条1項違反について
国側としては、外国人には選挙運動の自由は認められない以上、本件要件は21条1項に反しないと反論するだろう。 私もこれが妥当であると解する。 憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する 外国人に対しても等しく及ぶ。
これを前提とすると、国民主権原理(前文、1条など)との抵触が生じ得る選挙運動の自由は認められない。この理は永住外国人であっても変わるところがない。したがって、本件要件は21条1項には反しない。
以上

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