刑事訴訟法第22問

2022年11月17日(木)

問題解説

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問題

次の事例について、以下の設問に解答せよ。
A市の公安条例は、第1条で道路その他公共の場所で集団行進等を行うときは事前に許可を得るべき旨を要求し、第2条で許可申請手続について定めた上で、第3条第1項で、集団行進等の申請があった場合,その実施が「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外は、本条例の定める規定に従うことを条件として、これを許可しなければならない。」と定め、第4条第3号で「交通秩序を維持すること」を条件の1つとして規定している。また、第5条は「第4条各号の規定による条件に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の主催者、指導者又は扇動者は、1年以下の懲役若しくは禁鋼又は30万円以下の罰金に処する。」と規定している。
A市在住の甲は、反戦デモ行進に参加し、その先頭集団の最先端に立って行進していた。この行進は、市の公安条例及び道路交通法の規定に従い許可を得ていた。ところが、甲を含む行進の先頭集団が蛇行進をするに至ったため、行進状況を監督していた巡査乙は、違反行進ありと判断し、この先頭集団の行進状況をカメラで撮影した。甲は 「どこのカメラマンか」と抗議したが、乙がことさらこれを無視する態度に出たことに憤慨し、この手からカメラを奪いとり、地面に叩きつけて壊した。 乙の撮影した写真を刑事訴訟で証拠として用いる場合に、何が問題になるか。
(広島大学法科大学院平成16年度)

解答

第1 本件写真の関連性
1 まず、少なくとも公安条例5条違反(同4条3号の条件の充足の有無)の被疑事実との関係では、本件写真は同条違反の現場を撮影したものであるから、自然的関連性は肯定される。
2(1) 次に、当該写真は、甲の行進状況を監督していた巡査乙が、違反行進ありと判断し、この先頭集団の行進状況を撮影した現場写真であるこの写真が供述証拠に当たれば、伝聞法則の適用があることになり、伝聞証期に当たれば原則として証拠能力が否定される(320条1項)。
(2) しかし、写真は、専ら光学的・化学的原理による過程を経て作成される科学的・機械的証拠として非供述証拠であると考えるべきである。確かに、撮影者・現像者等による偽造・修正等がないか、これをチェックする必要はあるが、これは他の証拠一般にいえることであり、証明力の問題として処理すれば足りる。
(3) したがって、本件写真は非供述証拠に当たり、伝聞法則の適用はないから、法律的関連性も肯定される。
第2 証拠禁止について
1 もっとも、証拠収集手続に違法がある場合には、将来の違法捜査を抑止し、司法の廉潔性を保ち、適正手続(憲法31条)を実現する観点から、証物能力が認められない場合があり得る。 そこで、本件捜査の適法性について検討する必要がある。
2(1) まず、写真撮影が「強制の処分」に当たるか。「強制の処分」に当たれば、強制処分法定主義(197条1項ただし書)により法的根拠が要求され、令状主義により、必要な令状を取得しない限り、違法となる。
令状主義と強制処分法定主義の両面から厳格な制限に服させるという必要があるという観点から、「強制の処分」とは、個人の意思を制 圧し、身体、住居、財産等の重要な権利利益に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為である。
本問では、確かに、乙は甲の意思に反して甲が行進しているところを撮影しており、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由(憲法13条参照)を制約するものである。しかし、本件写真撮影は、公道で反戦デモ行進をしている姿を撮影したものであるところ、公道は、一般に、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所である以上、そのような自由は、重要な権利利益であるとはいえない。
よって、重要な権利利益に対する制約は認められないから、「強制の処分」には当たらず、任意処分である。
(2) もっとも、任意処分だからといって、無制約に許されるわけではない。個人の権利利益を少なからず制約する以上、搜索目的を達するために必要な範囲内で行われるべきだからである(197条1項本文)。そこで、①現に犯罪が行われ、もしくは行われたのち間がないと認められる場合であり、②証拠保全の必要性、緊急性があり、③その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われる場合に限り、任意捜査として適法であると考える。
本問では、①乙は,違反行為ありと判断して行進状況を撮影しており、現に犯罪が行われている。また、②交通秩序を維持するという条件に違反しているかどうかについて、写真を撮影する以外の方法で客観的な証拠を収集することは困難であるし、多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動を正確に記憶することも困難であるから、証拠保全の必要性、緊急性は高い。そして、乙には、抗議した甲に対して殊更に無視する態度に出るなど、甲の反感を買うような撮影態度をしているものの、一般的に許容される限度を超えるものとまではいえず、相当な方法で撮影されたといえる。したがって、本件捜査は任意捜査として適法である。
(3) 以上より、本件捜査によって得られた写真はその証拠収集手続きに違法がある場合に当たらない。
3 よって、本件の写真は、刑事訴訟において証拠として用いることができる。
以上

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