憲法第25問

2022年12月4日(日)

問題解説

問題

(1) X1 は、外国の商社に写真集(以下「本件写真集」という。)を注文し、郵便でこれを輸入しようとした。
しかし、税関長であるY1から、本件写真集は関税法第69条の11第1項第7号所定の輸入禁制品に該当する旨の通知(以下「本件通知」という。)を受けた。そこで、X1は、Y1に対し、本件通知の取消しを求めて出訴した。この訴訟において、X1が行うべき憲法上の主張及びその当否について、論じなさい。ただし、条文の文言の漠然性及び過度の広汎性の問題は論じなくてよく「公安又は風俗を害すべき」とは、「わいせつ」(刑法第175条)と同義であることを前提としてよい。
【資料】関税法(昭和29年4月2日法律第61号)(抜粋)
(輸入してはならない貨物)
第69条の11 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
一~六 (略)
七 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品(以下略)
2、3(略)
(2) 我が国では、教育内容が正確かつ中立公正で、地域、学校のいかんにかかわらず全国的に一定の水準を保つため、使用する教科書において、検定制度を採用してい る。具体的には、教科書として出版しようとする者は、あらかじめ文部科学大臣の検定を受けなければならず、この検定では、単なる誤記、誤植等の形式的なものに限らず記述の実質的な内容、すなわち教育内容が文部科学省の定める内容と合致しているかを審査し、これを満たさなければ、検定不合格になり、教科書として出版することができない。
X2は、高校用教科書を執筆し、文部科学大臣に対して検定申請したところ、検定不合格の処分とされたため、やむなく一般図書として出版した。
文部科学大臣の処分は憲法第21条に反しないかについて、論じなさい。

解答

第1 小問(1)
1 まず X1としては、Y1による本件写真集が関税法69条の11第1項7号所定の輸入禁制品に該当する旨の本件通知及びその効果としての輸入禁止が「検閲(21条2項)に当たると主張することが考えられる。
(2) 「検閲」 とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することをその特質として備えているものをいう。
(3) 本件では、①税関は、関税の確定及び徴収を主な任務とし、思想内容を規制することを独自の任務とするものではないこと、②輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済みであること、当該表現物は、輸入が禁止されるだけであって、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われてしまうわけではないことに鑑みれば、本件規定及び本件通知は「検閲」には該当しない。
2(1) 次に、X1は、本件規定は、表現の自由(21条1項)を侵害する違憲な規定であるから、本件規定に基づく本件通知も違憲であると主張すると考えられる。
(2) 本件規定は、単純所持目的で上記書籍等を輸入する自由を制約するものであり、閲読の自由を侵害する。また、これを国内で発表する自由及び国民がこれに接する知る自由を制約するものであって、21条 1項に違反するのではないか。
民主制国家においては、表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。また、本件規定は、表現の自由に対する事前抑制の側面を有するところ、表現行為に対する事前抑制は、事後制裁の場合よりも広範にわたりやすく、濫用のおそれがある上、実際上の抑止的効果が事後制載の場合より大きい。
したがって、最も厳格な審査基準が妥当するのが原則である。もっとも、わいせつな書籍図画等については、もともとその領布、販売は国内において禁止されており(刑法175条等) これに ついての発表の自由も知る自由も、他の一般の表現物の場合に比し、著しく制限されているのであって、このような制限もやむを得ないものとして是認せざるを得ない面がある。
そこで、中間的な審査基準をもって判断すべきであると解する。具体的には、当該規制の憲法適合性が認められるためには目的が重要であって、手段が目的達成との関係で実質的関連性があることが必要である。
(3) 本件規定の目的は日本国内の健全な性的風俗を維持確保する点にあ り、重要であると認められる。
一方、我が国内においてわいせつ文書等に関する行為が処罰の対象となるのは、その「頒布」及び「有償で頒布する目的」をもってする所持等であって(刑法175条1項 2項)単なる所持は処罰の対象とされていないから、最小限度の制約としては、単なる所持を目的とする輸入は規制対象から除外すべきであるとも思われる。
しかし、いかなる目的で輸入されるかを税関の段階で判別することは困難である。また、仮に輸入段階で頒布、販売する目的がなくとも、一旦輸入したわいせつ表現物は頒布、販売の過程に置くことが容易であり、これを事前にチェックするのは事実上不可能である。そのため、単なる所持目的の輸入を規制対象から除いた場合には、かかる弊害を防止することが不可能となる。
よって、わいせつ表現物の流入、伝播により我が国内における健全な性的風俗が害されることを実効的に防止するには、単なる所持目的かどうかを区別することなく、その流入を水際で阻止することもやむを得ない。
以上から、本件規定は目的達成との関係で実質的関連性があるといえ、21条1項に反しない。
本件通知も21条1項に反しないことになる。
第2 小問(2)
1 検閲該当性について
まず、本小問における教科書の検定制度(以下「本件検定」という。)が検閲に当たらないか問題となるも、本件検定は一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの 特質がないから、「検問」に当たらない。
2 表現の自由の制約について
(1) 上記のように、確かに、表現の自由は、重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。
しかし、教科書としての出版が不可能となったとしても、一般の図 書として出版することは可能であるから、事前抑制ではなく、表現の 自由に対する間接的付随的な制約にすぎない。
したがって、厳格な審査基準は妥当せず、緩やかな審査基準が妥当すると解すべきである。具体的には、目的が正当で、手段が目的達成との関係で合理的関連性があれば足りると解する。
(2) まず、普通教育の場においては、教育の中立公正、一定水準の確保等の要請があり、検定もかかる目的の下で行われるところ、この目的は正当である。
また、これらの観点に照らして不適切と認められる図書の教科書としての発行、使用等を禁止する必要があるし、普通教育の場でこのような教科書を使用することは、批判能力の十分でない児童生徒に無用の負担を与えるものである。また、その制限も、上記の観点からして不適切と認められる内容を含む図書のみを、教科書という特殊な形態において発行を禁ずるものにすぎないことなどを考慮すると、本件検定による表現の自由の制限は、目的達成との関係で合理的関連性を有するといえる。
したがって、本件検定は21条1項にも反しない。
本件検定によってなされた文部科学大臣の処分も同項に反しない。
以上

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