類例なく「国宝級」発見 「盾形銅鏡」出土 奈良の富雄丸山古墳
類例なく「国宝級」発見 「盾形銅鏡」出土 奈良の富雄丸山古墳
配信 2023年1月25日 17:00更新 2023年1月25日 17:06
毎日新聞 毎日新聞社より
奈良市にある国内最大の円墳、富雄丸山古墳(4世紀後半、直径109メートル)の未盗掘の埋葬施設から、過去に類例のない盾形の銅鏡(長さ64センチ、幅約31センチ)と蛇行剣と呼ばれる鉄剣(全長237センチ、幅約6センチ)が出土した。いずれも国産とみられる。盾形銅鏡は国内で出土した銅鏡で最も大きく、裏面には精緻で複雑な模様が施されていた。蛇行剣は曲がりくねった刃が特徴で、古墳時代の鉄剣としては東アジア最大、蛇行剣では国内最古という。25日、発表した市教委と奈良県立橿原考古学研究所は「古墳時代の金属器の最高傑作」と評しており、国宝級の発見といえる。
埋葬施設は、墳丘から北東方向にせり出した「造り出し」で見つかった。木の幹を二つに割り、内部をくりぬいて被葬者を納めた「割竹形木棺」を粘土で覆った構造で、盾形銅鏡と蛇行剣は木棺の外に重ねるように置かれていた。いずれも邪悪なものを遠ざける「辟邪(へきじゃ)」の意味があるという。
盾形銅鏡に蛍光X線を当てて調べたところ、錫(すず)、銅、鉛の成分が検出された。表の鏡面にはなめらかに磨いた跡があった。裏面には中国の神獣を簡略化した「鼉龍(だりゅう)」文や、のこぎりの刃のように三角形を連続させた鋸歯(きょし)文などの幾何学模様が施され、中央部分にはひもを通すための丸い突起「鈕(ちゅう)」がある。「盾」と「鏡」を組み合わせた前代未聞の斬新なデザインで、市教委などは「鼉龍文盾形銅鏡」と名付けた。
一方、蛇行剣はこれまで国内でおよそ85例、韓国で4例の出土例がある。今回見つかった蛇行剣は金属をたたいて作られ、刃は6カ所で屈曲していた。237センチの全長はこれまで最大だった宇陀北原古墳(奈良県宇陀市)の84・6センチの約3倍。鉄剣としても中国・遼寧省で出土した138センチをはるかに上回る破格の大きさだ。出土状況から、柄や鞘(さや)の付いた状態で副葬されたと考えられ、それらを含めると復元長は約267センチになるという。
橿原考古学研究所の岡林孝作副所長は、記者会見で「盾形銅鏡からは当時の人々の柔軟な発想と創造性、高度なデザイン力がうかがえる。蛇行剣と合わせて、古墳時代前期の金属器生産の技術水準が想像以上に高かったことを証明している」と語った。奈良市教委は今後、木棺内を調査する。
発掘現場は28日(午後0時半~3時)と29日(午前10時~午後3時)に一般公開する。盾形銅鏡と蛇行剣は保存処理中のため展示しない。問い合わせは市埋蔵文化財調査センター(0742・33・1821)。【塩路佳子、稲生陽】
富雄丸山古墳
4世紀後半に築造された国内最大の円墳。レーザーによる三次元計測で直径109メートルの3段構造と判明した。墳丘頂上の主体部は明治時代に盗掘を受けており、その際に出土したとみられる鍬形(くわがた)石などが、国の重要文化財に指定されている。近くの佐紀古墳群(奈良市)と百舌鳥・古市古墳群(大阪府)を結ぶ交通の要衝にあり、ヤマト王権の有力者が葬られたと考えられている。